英雄譚 3
何がいけなかったのか?
救い出すために全力を尽くしただけなのに。
村へと帰り着いたレンフィーリス達、その光景はまるで幻覚でも見せられているかのように村人達を当惑させる。
顔を見合わせ全員が同じような顔をしていることにそれが自分一人だけの見る幻なんかじゃないと知る。
村人全員の願いを体現した奇跡の光景が突如として目の前に広がり一瞬戸惑いもしたがそれはすぐに喜びにかき消され歩み寄り繰り広げられるのは感動の再会を喜ぶ歓声と抱擁。
しかし、その輪の中に立役者であるレンフィーリスは居ない。
彼女の両親は遠巻きに眺めるだけで近づこうとはしない、なのでレンフィーリスの方から近づいて行くとようやく微笑みを向けてくれた。
どうして他の人みたいに駆け寄って来てくれないのだろうと当然のように不思議に思ったがその微笑みを見たらどうでも良くなった。
ちゃんと喜んでくれている、それだけで充分だった。
ただ、ほんの一瞬怯えたような表情をしたように見えたがそれは血で汚れてしまっているのが原因なのだろうと思っていた。
しかし、それが思い違いだと知らされたのはそれから少ししてから。
彼女の実力を聞きつけた国から兵士に誘われまだまだ子供だというのに両親の元を離れることになった。
村を出て行く日、見送りに来たのは両親だけの寂しい旅立ち。
何度も振り返り伸ばそうとした手を引っ込める。
そんな事をする理由は一つ、この旅立ちは彼女の意思ではなかったからだ。
激化する魔族の侵攻にいつまでも減らない盗賊達の蛮行、人手が全く足りていない状態で優秀な逸材は早めに確保し育て上げるというのが今の国の方針。
もちろん強制しているわけではない、断ることも出来るが応じる事によって得られる金額はそれなりのもので貧しい家庭からすればその誘惑は容易に断れるものじゃない。
レンフィーリスの家は貧しい側にある為、結果お金と引き換えに売られたのだ。
いつか見せた怯えは血に濡れても平然としているレンフィーリスの異様さから出たもの、その時からすでに家族としての愛に陰りが見え始めて今こうしてお金の誘惑に負けて送り出される結末を招いた。
レンフィーリスは喜ばれると思った事をしただけなのに過ぎた力を見せつける事になって周囲には自身の有用性を、そして家族には特異性を知らしめる事となってしまった。
それから彼女が戦場で挙げた功績だけが故郷である村へと帰り着くだけで彼女自身は一度も戻る事はなく両親ともそれっきり会う事はなかった。