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第六十二話 英雄

いつかは終わるというのは覚悟していたが・・・何故に今なのだろう?

多少は俺も成長したとは思うが師匠には遠く及ばない、それなのに何故?


「そう驚く事ではない。正直な話をすると方法としてはとても簡単」


「へっ?」


弱っちい俺でも出来るほどに?

ではこれまでの地獄の特訓は必要無かった。

「ほら」と師匠は自分の愛用の武器である魔刀を俺に投げてよこす。


「それで私を斬ればいい、それは相手から魔力を奪い取ることができる。殆ど魔力体の私はそれで消える。ほら、簡単だろう?」


そう言われると簡単そうに聞こえるがそれは師匠が何もしない場合の話だ。そうでなければ簡単ではない、相当な高難易度だ。


「俺がそれをするとして師匠はどうするんですか? 無抵抗のまま殺されるのを待つつもりですか?」


師匠は首を横に振る。


「いや、私は不死になってまで生にすがったような人間だぞ。この生き意地の汚さはもはや呪いのように私を死から遠ざける、黙ってやられようと心で決めても無意識に身体は生きようと行動してしまう。だからその足掻きをお前が超えてくれ」


たとえ師匠が素手だとしてもそれだけで今ある圧倒的な差が埋まるはずがない。


「無理ですよっ! さっきよく分かったでしょう? 俺の実力は」


「ああ分かった、その上で判断した結果だ。数回私に切り傷をつけるだけ、どうにかすれば今のお前でもそれくらいは出来るさ。心臓を貫けと言ってるわけじゃないんだ」


滅茶苦茶だ。いや、師匠が滅茶苦茶なのはいつもの事なのだが普段であればとても無理をすれば出来ない事はないくらいの要求しかしてこないのに今回は不可能だと断言できる。


「いやいやいや、さっき手も足も出なかったのに急に変わるわけ、もっと強くなってから━━━━━」


「そのくらいがちょうど良いんだ、お前がこの先この場所を出て普通の世界で生きていくつもりならな。周りからかけ離れ過ぎた力はお前を孤独にする」


何を? 強ければ強い程良いに決まってる。

そういう世界のはずだ。

力が全てとは言わないがあればどんな魔物でも倒せてお金に困ることもないだろうし加えて栄誉も手にすることができるのだから孤独になんてなるはずない。


「普通の世界で生きていくのにも力って結構必要ですよ。師匠くらいの強さがあればどんなに楽か・・・きっと英雄扱いされて周りからもてはやされますよ」


「英雄・・・・か」


小さく呟き師匠は目蓋を閉じる。

英雄という言葉に何か思うことがあったのだろうか?

そういえばルナが事あるごとに話していた人物の名前は誰だっただろう。英雄譚を度々聞かされどうせただの作り話だろうとほとんど聞き流していた人物の名前はえ〜と・・・・。


「レンフィーリス・・そう! 英雄レンフィーリスみたいに後世に語り継がれる様な存在に」


記憶を探って出てきた名前がぽつりと口から出た。

この師匠ならそんな伝説的な人物とだって渡り合いそうだなんて思ったが間違っていたようだ。

その名前を聞いて師匠は大きく目を見開いた。師匠のこんな顔初めて見た。


「そうだ・・・思い出したよ。それが私の名だ。人から遠ざかり名乗るのをやめていつの間にか頭から抜け落ちた私の名だ。思い出せて良かった! これで完全に心残りもなくなった」


師匠は一人満足そうにしているが俺は唖然としていた。

ルナに偉大さをこれでもかと説かれていたせいか教科書に載る歴史の偉人を前にしているかのような感覚。


「あ、あ、あなたが英雄レンフィーリス・・・魔の軍勢との戦いを勝利に導いたというあの・・・」


まるでゲームの主人公の様な功績を成し遂げた人物と言葉を交わし教えを請うていたなんてルナが聞いたら確実に羨ましがって怒るだろうな。


感動に浸り羨望の眼差しを向ける俺、しかし師匠、改めレンフィーリスさんは浮かない顔をしている。


「私は英雄だったのだろうか?」


英雄譚にあるような華々しさはそこには無かった。



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