第五十三話 力こそパワー
地獄、まさにそう表現するのに適した光景の真っ只中に俺はいた。
少し前・・・。
「あの〜何処行くんですか?」
「修練にうってつけの場所だ、身も心もそこで鍛え直してやろう」
ああなるほどね、このお姉さんが俺を鍛えてくれるのか。
若干破茶滅茶な側面もあるが実力は確か、このお姉さんから教えを乞う事はそんなに悪い事じゃ無い。
俺は強くなりたいんだ。
仲間を守る為、悲劇を止める為、もう二度と自分の弱さを理由に目を背けない為に!
「分かりました、お願いします! 俺を強くしてください!!」
これまでと打って変わって真剣な眼差しで発する俺の意気込みにお姉さんは感心したように「よく言った」と称賛、それから足を止めて、
「お前の覚悟しかと受け止めた。ならば私も本気にならざるを得まい生半可な事はせんぞ?」
「望むところです!」
強くなる為ならなんだってやってやる。
主人公の様な意気込み、ええ、そんな自分カッケーってな感じで酔っちゃってたんですね・・・。
すぐ後悔しました。
「よし、ならば行け」
行け? 何処に? サスペンスドラマ終盤の犯人が追い込まれる様な断崖絶壁にいるのに何処へ行けと?
何、もしかして恐怖に打ち勝ち端っこまで行くことが初めの訓練ですか。
恐らくそうだ、まずは恐怖心を克服しろと、そういう事だな。
「はい、俺、行きます!」
うわ怖っ! 万が一落ちれば普通に死にそうなくらいの高さ。
もし落下の衝撃に耐えれてもなんかヤバそうな魔物がいるからそいつに殺される。
こいつはキツいぜ、足が震えてやがる。
武者震いなんかじゃねぇ正真正銘恐怖によるものだ、それでも進む、俺はこんなとこで足踏みしてるわけにはいかないから。
ようやく一歩を踏み出した、そして一歩また一歩と恐怖に打ち勝っていく。
短い様で長いこの距離をついに歩き切った!
「やりました、やりましたよ! 端っこまで来ました! 俺は恐怖を乗り切ったんです」
お姉さんに褒めてもらおうと背後を見る、すると見えたのは若干苛々しているみたいなお姉さんの顔。
「馬鹿者、何がやっただ。意味の分からぬ事を長々と喋る暇があったら早く行かんか」
背中に強い力が加わった。
蹴られたのだ。
端っこに立っていた俺は勿論崖から落下します。
「ああああぁぁあぁあっっっ#¥*@!!」
ボキッと特徴的な音は聞こえなかったが腕の骨が折れているのは分かる。
変な方向に曲がってるんだから。
痛い、痛すぎる! でもそれはすぐ消えた。
「生きてるだろう? もし骨が折れていたら正常な位置に戻せ、そうすれば勝手にくっつく」
涼しい顔して言ってくれる。
とりあえずは言われた通りに腕を直すが置かれた状況が最悪である事は変わらない。
「何のつもりですか! いきなり!」
「お前がいつまでも尻込みしているのが悪い。強くなりたいと言ったのはお前の方だぞ」
「ええ強くなりたいですよ、でも死にたくは無いんですよっ!」
「馬鹿者! 死ぬ覚悟なくして強くなろうなど甘えた事を言うな。そんな方法で得た力など肝心なところでは何の役にも立たんぞ! 数多の死地を乗り越えた先にあるものこそが真の力だ! 絶望の中、極限の苦痛に耐えただ目の前の敵を殺す、絶望、苦痛、殺戮こそが力を得る上で必要なものだ覚えておけ」
それはどう考えても悪側の思想では〜!?
「違いますっ! 力っていうのは友と高め合い努力すれば乗り越えられる試練を乗り越えた先にあるものです。こんなのはただの自殺行為です、だから今すぐ助けてくださいお願いします!
」
「ここでは力のあるものが絶対、つまり従え」
それからお姉さんは何を言っても返事を返してくれない。
喚き散らす俺の背後にはヤバそうなのがゆっくり近づいて来ていた。