第五十二話 職員室での嫌な思い出が蘇る
「さて、では話をしようか、どうせ聞きたいことがあるだろう? 自分の置かれた状況について」
それは小屋に戻ってきてお姉さんの入れてくれた紫色の飲み物が入ったコップを握り締めわなわなと震えている時のことだ。
「そ、そうです。聞きたい事がいっぱいあるんです!」
悠長に一服している場合じゃない、なんか色々意味が分からない事になっているんだ状況確認は優先事項。
前のめりになって聞きに行く。
「まあそう急くな、先に茶を飲んでからにしようじゃないか。冷めてしまっては台無しだ」
「でも俺っ━━━━━━」
焦る俺を手で制して、
「お前の気持ちは分かる、死んだのに目が覚めてそれがこんな場所では動揺もするだろう。だがだからこそ先ずは心を落ち着かせるべきだ、焦りは思考の邪魔になる。先ずは平常心、何事もそれからだ」
「いやっでも!」
「まだ何か?」
眼光鋭く睨み付けられた。
「いえなにも!」
これ以上抵抗して何をされるか分からない。説教を食らうのも面倒だし、しょうがない大人しく従っておくか、と恐怖に屈したヘタレな心を懸命な判断と自分に言い聞かせ自尊心を保ち覚悟を決めて手を伸ばす。
さりげなく遠ざけておいた紫色の茶(?)が入ったコップに。
もう色から既に『毒あるよ!』って主張している。
無理だ、飲む振りだけしよう。
口をつけ液体がほんの僅かも侵入しない様にコップと唇の間の隙間を全身全霊で埋めていざ傾ける。
そして口から離し付着した液体をきれいさっぱり拭き去ってはい終わり。
「素晴らしいお手前で」
なんて適当に褒めて残ってるのを見せない様に後ろに隠す。
「それじゃあ聞いても━━━━━━」
「━━待て」
まさかバレた!?
「それは症状が出てからだ」
「症状とは?」
「毒の症状さ」
「・・・・出る前に治していただけないのでしょうか?」
「馬鹿を言う。危険をしっかり身体で味わっておく、何事も身体で経験して初めて身につくのだ。知識として頭に入れているだけでは何の役にも立たん」
無茶苦茶だ、いや言ってる事は分かるよ。
知識だけじゃなく経験も大事って事だろ、でもさ例外はあるでしょうよ?
先人の活躍で毒と分かってるんだったらその功績を無駄にしちゃいかんでしょう?
なんて人だ、まあでも肉を食った時を思い出して同じように苦しむ振りだけしとけば・・・
「因みに言っておくが先程とは症状が違うからな、お前がそれと違う反応を示したら飲んでいないと言う事。その時は覚悟しておけ」
覚悟とは一体?
ってかバレてんじゃん、よし謝ろう。
バレたら全力で謝る、ここですっとぼけようものなら事態は最悪な方に傾くというのは自明。
「ごめんなさい飲んでません許してください!」
「やはりな」
目を閉じての腕組み、怖い先生が説教を始める前ってこんな感じだったなと嫌な既視感。
「自分のしたことが分かってるのか? どうだ言ってみろ」
「はい・・・」
「はいじゃなくて具体的に」
「嘘をつきました」
「そうだな、それが悪いことじゃないと思ったか?」
「いえ、悪いことだと思います」
「なら何故やった?」
「・・・すいません」
「謝罪ではなく理由を言えと言っている」
「ほんの出来心で」
そこでバシッと床が叩かれる。
「何故はっきりと言わん? 飲みたくなかったと」
「ごめんなさい」
「もういい、分かった」
「許してくれるんですか?」
「ああ、許す。だが、その腐った根性は許さぬ。根底から叩き直してくれる、ついて来い」
いきなり手を引っ張られる。
「えぇっ、ちょっと待って! 話は、質問に答えてくれるんじゃ!?」
「後だ!」
そうして俺は地獄を見ることになる。