第五十一話 変化
ムシャムシャと美味しそうに肉を頬張るお姉さん。
その勢いは衰える事を知らない。
胃がおかしいのか特に何をするでもなく毒の影響を無いものとしている。
一方で俺はとてもじゃないが口にしようとは思わない。
「ずっと聴きたかったんですけど俺はなんでこんなところにいるんでしょうか? 記憶が正しければ普通のところで死んだ記憶があるんですけど、と言うか先ずどうして生き返ったのでしょう? 魔法か何かですか?」
別れ際の様子を見る限りあの悪魔が俺を生き返らせた様には思えない、なら考えられるのは魔法。
ここは俺からすればゲームの中みたいな世界だ、そういうのには大抵蘇生魔法が付き物。
俺がこうして生き返ったならあの時死んでしまった人もみんな生き返ってるんじゃないだろうか、そんな期待もしてしまう。
だが、そんなに甘くはない。
「馬鹿を抜かせ、死んだ人間が生き返るなどあるはずないだろう。そこに手がつけられるとすれば神くらい、我々風情が扱って良いものじゃない」
「でも俺生き返ってるんですけど・・・これは一体?」
「お前は生き返ってなどおらんよ」
・・・え〜と、どゆこと?
俺は死んだはずだけど生き返ってないのになんか生きてる、なるほどつまり死んでなかったという事だな、ギリギリのラインで俺は一命を取り留めた・・・・・・んなわけあるか!!
俺は覚えてる、最後の瞬間を。
思い出すだけで背筋がゾッとする。あの怖くて怖くてたまらない一瞬を。
肌を突き破って内側に入ってくる姫様の手の冷たさと焼ける様な痛み、その対照的な二つを同時に味合わされる地獄の一瞬はすぐには消えないだろう。
俺は確実に死んだ。
「今のお前は言うなれば修理されただけ、治療ではなく修理だ」
意味合い的には同じじゃないか?
どちらも治るという観点からすれば変わらない。
「一つ言っておくがその二つは全然違うぞ。生きている人間を人間のまま元の状態に癒すのが治療、だがお前は私が見つけた時にはとうに死んでいた、つまりは完全なる肉塊で人としてはそこで終わっていたし終わるはずだった、だが、私が見つけて手を施し人間の様に機能できる様にしただけ、人の様に見えるが人じゃない、そこは履き違えるな」
ゴクリと唾を飲み込む。
なんという事だろう。
全く理解が出来ない!
ただ一つ思うことは、肉塊扱いはいくらなんでも酷いのではということだけ。
人じゃないなんていきなりそんなこと言われても正直なんとも思わないんだが。
だってこうしてる今も前との違いなんてない、俺からすれば完全復活と同じ。
とりあえず生きてて良かった〜って馬鹿丸出しで喜んじゃいけない感じ?
確かに人として終わりを迎えて尚生きてるのは反則っぽいが人じゃないってのは違うはずだ。
「それは違うと思います。俺が俺として人間らしさを失わない限り俺はずっと人のまま、生い立ちも成り立ちも関係無い、だって俺に限らず人は誰しも悪魔にだってなりうる存在だ、つまるところ人かどうか決まるのはこの先俺がどういう生き方をするかによると思います」
我ながら良い事を言ったと思う。
長年患った中二病は異世界に来た時こんな台詞を即座に思いつかせ恥ずかしげもなく口にする事を可能にする。
まあ、異世界に来れなければ黒歴史となって一生苦しめられるだろうがな。
「成る程、自身が何者か決めるのは己自身と言うか、それは良い心がけだと思うぞ。しかしな、これは忘れるな・・・」
刀を出現させ、鞘から抜く。
そして、俺の胸から背中にかけて真っ直ぐ貫いた。
「がはっ!?」
痛みが襲う。
いきなり、どうして!?
問いたくても言葉を吐き出す余裕が無い。
悶える俺とは対照的にお姉さんは冷静に冷徹に刀を俺の胸から抜いていく。
当然血が溢れる、場所が場所だけにすぐ死んでしまうだろう。
・・・・が、死なない。それどころか痛みが引いていく。
「お前は簡単には壊れない体になったという事をな。背中の傷もとうに痛まんだろう? 心がどうであれ身体は人とはかけ離れている、今後人に混じって生きていきたいと望むならならその違いを見せない様にする事だ」
そういえば痛くない。
まさかこんな事になっているとは・・・。
でもさ、それ口で伝えるのでも良くない?
滅茶苦茶痛かったんですけど!
けど口答えするとまた穴開けられそうなので黙っておく事にした。