第四十六話 神様の悪戯
「呼ばれた理由はずばり破壊する為。現在魔族と人の二つの勢力はほぼほぼ拮抗状態にあります、あなたはその状態をぶち壊す為に呼ばれたんですよ、名目上は魔族側の助っ人としてね」
「そんな・・はず・・」
「考えてみてくださいよ、普通の人間なら誰でもどれか一つくらいは適応する武器があるはずなのにあなたにはそれがなく棍棒なんていうそこら辺の魔物でも使える武器、もしくは魔剣だけだったのか。どうして大して訳もないのに自称魔王の娘があなたに惹かれたのか」
深く考えなかったがこうして指摘されて確かにおかしいと実感した。
「分かりましたか?」と俯く俺の顔を覗き込みこちらの気持ちなんて無関係に続ける。
「本当であればそこの召喚者の元に送り込まれるはずだったんですけど少々込み入った事情がありましてあのような場所になりました。まあ、それでも大丈夫だろうと分かってはいたんですけど正直想定以上にあなたがクソ雑魚で冷や冷やしましたよ。このまま何の役にも立たずに喰われてしまうんじゃないかって」
第二の人生を楽しめみたいなこと言いつつ内心ではそんな事思ってたというわけか。
「とにかく本来であれば“すぐ”お姫様の元へ導かれるという結末は改変された。そうして与えられた自由時間、それは長くは無かったでしょうが大きな意味を持った」
聞こえてくる言葉はただただ頭を混乱させるだけ。
「本来、敵対するか無関係でいるはずだった相手と関係を築く、それは一体どういう影響をもたらすんでしょうね?」
それまで茶化す様に喋っていたはずなのにその言葉だけは心底興味深いと言うような口調に変わって聞こえる
「・・で、どうしますか?」
「何がです・・」
「どちらの側につくのか聞いてるんです。人か魔か私は正直どっちでも構いませんよ」
突然そんなことを言い出した。
魔族の為に俺を殺して召喚されるようにしたんじゃないのか? そんな俺の心を読んだかの様に続ける。
「私からすればどちらも同じ。平等に醜く、平等に哀れな存在。争いの果てに待つものが破滅だとは露ほども知らずただ己の利益優先に欲望のままに奪い合うだけの生き物。そんなものどちらがどうなろうとあまり興味はありませんので」
神らしくないと思った。
生きとし生けるもの全てを俯瞰し平等の名の下に手出しをしない、それが神様の役割だというのが神様に殺される前の俺の考だった。
こんな風に特定の種に対して嫌悪を抱くなんて人間らしさが神様にあるなんて。
「人間について魔族を殺し尽くすか、はたまた魔族について人間を殺し尽くすのか?」
どちらかを選んだ時点でどちらかの殺戮に手を貸す事になると言っているみたいだ。
「ふざけるな」
そんなの出来るはずない。
そんなとんでもない選択出来るはずない。
「そもそも俺にそんな力ない、俺に出来るのは見てる事だけだ。それしか出来ないし出来たとしてもあんたの思い通りには絶対にしない」
殺し尽くす力なんてない、今目の前で起きている争いを止める力すら無いのだから。
「でしょうね。あなたという人間はいつも半端な所にいる」
俺がどう答えるのか予想してたかの様に神様はあっさりとした顔で答えて「じゃあ説明も終わったので私は帰ります」と切り上げるつもりのようだ。
「どちらでもない第三の選択肢を選ぶのも結構、逃避であれ、はたまたそれ以外であれね」
人も魔族もどちらも選べない俺が取るであろう選択を鼻で笑いそして最後に告げる。
「これでおかれた状況も理解出来たでしょ。選ぶも選ばないもあなたの自由、ただ、もう既に変革は始まりあなたはそこに手を貸している、贈り物を胸に大事に抱き締めてね。今更逃げるなんて出来ません、力が無いからって見ているだけというのも違うんじゃないですか。雑魚なら雑魚なりに足掻いてみたらどうです? 汚い手を使ってでも」
「では、また後で」と神様が消えると同時に凍りついた空間が動き始めた。
手を貸している? 確かに俺は姫様をここまで連れて来てしまった、でもそんなの俺が関わらなくたっていずれは辿り着いてただろ、元々出会ったのもこの街の近くだし。
こんなの手を貸したうちには入らないはずだ。
こんな虐殺に間接的にでも関わっているという事実を否定。
あの神、適当な事ばっかり言いやがって!
神に対する苛立ちだが積りに積もっているがそんなのはどうでも良い、まずこの争いを止めなければならない。
方法? 決まってる。
頼み込む以外俺にできることはないだろうが!
「姫様っ! 今すぐあの女騎士を止めてくださいお願いします!」
「えっと・・何故です? 状況は明らかに優勢、ここで退く理由はないと思われますけど」
確かにその通り、このままいけば女騎士一人で圧倒してしまいそうだ。
これなら召喚なんかせず勝手にやってくれれば俺もあの神に殺されずに済んだのに。
なんて愚痴ってる場合じゃない、頼むという最終手段が駄目ならどうしろっていうんだ!?
俺の頭では最良の方法なんて思い付かない、でも黙っていることも出来ない、何故ならルナが明らかに押され始めた、このままじゃ殺される。
あいつの意見を聞くみたいで癪だが汚い手もやむなし、俺は脅迫という手段に出ることにした。
姫様の首に手をかけて叫ぶ。
「女騎士、今すぐ戦いを止めろ! でないと姫様の安全は保証しない!」
もちろん本当に殺す勇気なんてない形だけ。
「どうして」と困惑する姫様にごめんなさいと謝罪だけする。
「テメェっ!!」
雄叫びと共に女騎士が物凄い速さでやって来る。
途中まではどうにか目で捉えられていたのにその姿は突然消えた、そして・・・
「カスが、舐めた真似しやがって」
背後で聞こえた声。
直後背中を一直線になぞる感覚の後の激痛に自分の身に起きたことを理解した。