第四十五話 神様再来
異界、まさかその言葉を再びこの世界で聴くことになるなんて思ってもいなかった。
俺の元いた世界のように異世界という概念が普遍的に広まっている訳でもないのに。
「どう、して?」
「何がです?」
「どうして俺が異世界から来たって知ってるんですか!?」
「それは私がお呼びしたからです」
「呼んだって・・そんなはず・・・だって俺は━━━━━」
その時、俺の周囲から全ての音が消え失せた。
正確にいうならば動きが止まったのだ。
ルナと女騎士、逃げ惑う人々、崩れた瓦礫の山から上がる砂煙、俺以外の全部が止まっていた。
次から次へと意味の分からない事ばかりが起きて頭はグチャグチャ、そんな俺の前に見計らったように現れたのは、
「おやおやひどい顔ですね、どうかしましたか?」
この世界にきて一番最初に聞いた声。
俺をここに連れてきて自分を神様と名乗った女が忽然と姿を現したことでこの状況はその人物の仕業だろうと理解した。
だからもう一つの湧き出た疑問を投げかける。
「俺はただ向こうで死んでこっちに来て何をするのも自由だって、そう言ってましたよね?」
「そうですね、そう言いましたね」
「だったら呼ばれたって何ですか? 呼ぶって事は何か目的があるはずだししかもそれが魔界の住人って・・・」
「あらら、混乱しちゃってるんですね。分かりました、じゃあそんな貴方に私が懇切丁寧に説明してあげましょう」
全てから切り離された止まった空間、たった一つ聞こえる音は嫌なほど鮮明に耳に入る。
「まず、あなたは確かに呼ばれたのです。向こうで死んでその時ちょうどこちらで召喚されて無事復活、それに間違いはありませんがもっと厳密に言えば━━━━━」
そこで神様の顔は邪悪に歪む。
「向こうで私が殺してこちらの世界の召喚に応じられるようにしたんです」
「殺した・・?」
「ええ、私神様ですよ。多少の運命を弄るくらいは可能です」
俺が雷に撃たれて死ぬ運命へと導いた?
「つまりあなたは私のおかげで死んで異世界へと移動することが出来るようになったという訳です。死んで霊体だけを取り出してそれをこっちの世界に放り込んで色々不思議な力で実体を与える、簡単に説明するとそんな感じなんで取り敢えず死んでもらう必要がありました」
「何で・・・どうして俺なんですか?」
「あなたの世界ではこういうの流行ってたでしょ、その毒された頭なら面倒な説明も必要無く尚且つ嬉々としてこの状況を受け入れてもらえると思ったのでサクッと殺っちゃいました。結果としてその通りになって私は楽できてあなたは夢にまで見た異世界での新生活を果たすことができた、両者Win-Winな結果にまとまったという訳です」
「ふざけてるんですか。殺されたと知って、でもまあ楽しいから良かったなんて思える筈ないでしょ」
「どうしてです? 見る限り楽しんでた様に見えましたけど?」
「偶然だと思ってたから、仕方ないって・・・」
「神の手によって死んじゃったんだからある意味あなたの死は偶然でしょう。事故、事件、災害、そんなものに偶然巻き込まれたのと変わらない。そこに文句をつけ始めたらこの世の死が全て神による殺しになりますよ? あらゆる事象を操作し適度に人が死ぬ様に仕向けて間引いているのは神なんですから。あなたは死ぬ運命だった、そう思って仕方ないと納得して下さい。という訳でこれ以上の不平不満は受け付けません話が進みませんので!」
強引に話を進める。
こちらとしても何も言うことはない。運命と言われて仕舞えば、しかもそれが神様の言葉なんだとすれば何だか諦めざる終えない気持ちになって来る。だってあまりに異次元すぎて殺されたという実感が湧かない。
「では次は呼ばれた理由の説明ですが・・・」
聞かない方が良いと思う言葉しかでなさそうだが耳は塞がなかった。