第四十四話 突きつけられる現実
まるで戦場のよう、いや違う、ようなんて言葉は要らない。
ここは間違いなく戦場だ。
多くの死傷者を出し瓦礫の山がいくつも出来上がる。
悲鳴がまた別の悲鳴で掻き消される、それが何度も何度も繰り返される。
「違う・・こんなの・・」
弱々しい独り言。
だって目の前の光景はあまりに違い過ぎていた。
俺が異世界というものに抱くイメージと。
魔獣と人間、その対立であれば俺の世界における人と野生動物の関係と大差ない。魔獣の方が危険度では勝るだろうけど。
しかし今行われているのは俺の目にはどうやっても人対人の構図にしか見えない。
言葉も交わせて感情だって表す者同士の争い、俺の元いた世界では知らない所で知らない間に起こりそしていつのまにか終息している自分とは無関係だと思っていた事を目の当たりにしている。
なんだかんだ今まで助かってきて勘違いしていた、ここはアニメや物語における主人公都合の美化された世界では無く汚さも孕んだ普通の世界なのだ。
そんな世界で知り合った仲間が戦っている。
負ければ死あるのみ、やり直しの効かない命を懸けた戦いを繰り広げている。
♢
悲嘆に暮れる俺の前では凄まじい殺し合いが展開される。
女騎士キアラの虐殺行為を見せつけられても尚立ち向かって行ったのはルナ。
その斬り合いはどう見たって女騎士の方が優勢だった。
「オラオラどうした! 威勢良く出てきた割に防戦一方か?」
女騎士の一撃一撃をかろうじて防いでいるだけ。
いつも強気なルナが言い返すこともしない、つまりそれほどまでに余裕が無いんだろう。
それでも防げているだけマシだなんて思ったら大間違いだという事に気づいた、これは防げるような攻撃をしているだけで要するには手を抜いている。
ルナが体制を崩した所で首でも心臓でも急所を付けば終わるところを敢えて避けて死に至らないであろう場所を切り裂く、そうして積み重なった傷で苦しむ表情を楽しむ。
「わざわざキアラに挑むなんて愚かな人もいた者です、ただの人間が魔族に勝てるはずないのにどうしてそんな事も分からないんでしょう? 私達だって皆殺しなんて面倒な事するつもりありませんので自然災害のように通り過ぎるのを待っていれば生きていられたかも知れないというのに本当に残念な頭をしている種族ですね人間とは」
姫様の言葉は柔らかな口調でありながら辛辣で冷たい。
「騙してたんですか?」
「騙す?」
姫様は首を傾げる。
「俺に人が沢山いる街まで案内させるためにずっと優しい振りしてたんでしょ!」
怒りを露わにすると不思議な反応が返ってくる。
「そんなつもりでは・・・」
どこか狼狽えているように見える。
てっきりもう用無しだと殺されるとばかり思っていたのに、しかしどうせこれも演技なんだろう。
「ここまでの事をしておいて今更騙される程馬鹿じゃない、本性を出せばいいじゃないですか!」
そうまで言っても隠れた狂気を露わにする事なく姫様は姫様のままだった。
まるでこっちが酷い事をしているかのようで気持ち悪いが構わない、俺は当然の怒りをぶつけているだけなんだから。
「騙してなんて━━━━━━」
悲しそうに言う。
「これから大勢の人間を殺すって事を隠して親切そうにして、これが騙したんじゃないなら何なんだよ!」
「申し訳ございません、私はあなたがここの人間の命をそこまで重く見ているとは思っていませんでした。ですが・・そうですね、同じ人という種であるのなら多少の情が湧くのも仕方ない事なのかも知れませんね」
言っていることがあまり理解出来ない。
「ですが気に病む事はありません、同じなのは見た目だけの全く違う存在なのですから。人間と魔族の違いすら小さく思えるほどに」
何が違う? ここの人達と見た目も能力もさほど違いはないのに。
しかし唯一違うとすれば・・・
「だってあなたは異界から遣わされた方なのでしょう?」
えっ・・・?