第四十三話 最悪の状況での・・・
相手は一人、立ち向かうという勇気を簡単にねじ伏せてしまうような威圧も複数で受けることで分散し兵士の足を動かした。
足並みを揃え慎重にじりじりと距離を詰めて行くが女騎士はそれが気に食わない。
「来るならさっさと来いよ、得物を携えてこっちに一歩足を踏み出したということはお前らは死ぬ覚悟が出来たってことだろ?」
焦ったそうに剣を肩の上で数度揺らす。
まるで剣に取り憑かれたかのように変わった荒い口調と堂々とした様はもはや演技ではないかと疑いたくなるほど露骨に余裕だと物語っている。
当然それは演技ではない。
「慎重になるのもいいけどこっちだっていつまでも何もせずに待ってると思うなよ」
女騎士は剣を振り上げるとそれは不気味な発光を繰り返す。
黒と赤、闇と血を思わせる不吉な色の線が剣の周りを蠢いている。
説明不要の邪悪が形成されていた。
「挨拶代わりだ受け取れ」
振り下ろされたそれは直線上にいたもの全てを巻き込んだ。
兵士も、その奥にあった建物も、それに一般の人だって見境なく呑み込み吹き破壊し尽くす。
抉られて大地以外は残っていない、さっきまでその上に立っていた人も建物も何もかも粉々になり散弾のように周囲に飛び散り被害を拡大する。
「敵意の無い者は巻き込まない様に言っておいたのですがやはりこうなりましたか。キアラは加減が得意じゃありませんからね」
姫様は目の前の惨状をなんて事はない不得手によるちょっとした失敗くらいに捉えている。
「後で注意しておかないといけませんね」
こいつらは正真正銘の化物だ。
俺は改めて思い知らされる、ここは異世界なんだと。
剣と魔法それに魔獣が存在しているだけではなく人間以外の種族も存在する、そしてその違いによる争いも。
こいつらが人より遥かに強い力を持っているんだとすれば人が下位の生き物の住処を平気で荒らす様にこいつらもまた人の住処を荒らすのは当然のことなんだろう。
だが、俺も人間だからそんな風に割り切れるはずもない。
「やめさせてください・・・」
俺は姫様に懇願する。
今尚暴れ続ける女騎士を止める様にと。
「心配ありませんよ、だってほら、今キアラが殺しているのは兵士さんだけですから。さっきは少し加減を誤っただけで故意ではないでしょうし」
違う、そもそも殺していることが問題なのだ。
もはや戦意など無いに等しい兵士を容赦無く手にかける。
上がり続ける悲鳴に対しては聞こえないふりをして、殺戮の光景は見ない様に視線を下に向けて自分に言い聞かす。
“俺に出来る事は何も無い”と。
そうやってあらゆる情報から目を逸らしていたが不意にそこに別の音、剣と剣が重なり合う時に出る剣戟の音が混じる。
それは誰かの抵抗の証。
「へぇ、人間は腰抜けばかりだと思ってたんだがな変わった奴もいるじゃん!」
「うっさい!」
女騎士とその誰かのやりとりが聞こえて慌てて顔を上げた。
だってそれは聞き覚えのある声だったから。