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第四十二話 幕開け

一瞬何が起きたのか理解出来なかった。

元いた世界では多くはないがそれなりに似た光景を目にすることもあるが実際その場でその瞬間に立ち会う事なんて一度たりともない。

テレビ越しの全く無関係の安全な位置から眺める惨劇と生で味わう惨劇はまるで別物、聞こえてくる音の一つ一つが嫌に恐怖を掻き立てるものだった。


「・・・何、してるんですか?」


震える口でようやく吐き出した。


「見ての通りですが?」


眼前の悲劇に手を向け小首を傾げる。

封印石と呼ばれる何かに加えて建物の上部も吹き飛んだ。

そこに人が居れば当然死んでいるし吹き飛んだ瓦礫もまた人を殺しているかもしれない。

それなのにこの姫様はそんな事気にも止めない。


「加減して破壊出来るものではなさそうだったので全力でいかせて貰いましたが少々やり過ぎましたね、建物は後に私のものとする予定なのであまり傷付けたくはなかったのですが・・・」


命よりも建物の心配。


「それじゃあ行きましょうか。今起きた事をやったのが私だと教えてあげれば皆さん私に逆らうなんて自殺行為だと理解してくれるはずです、そうなればあっという間に支配完了です!」


命なんかには一切の関心を持たず自身の目的に一歩近付いた事を喜ぶ。


「姫様の圧倒的な力を思い知れば誰しもが平伏する事でしょう」


目眩がする。


「人が死んでるかも・・・」


俺が言わないとこいつらは話題にすら出さない。


「大丈夫ですよ、少しくらいなら街を維持していくのにも影響はないでしょうから」


そんな言葉をこの無邪気な姫様の口から聞く事になるなんて思ってもいなかった。

半ば放心状態の俺の手を取り姫様は軽やかな足取りで街の中へと入っていく。

そんな相手と知ってしまって抵抗なんて出来るほど俺は強くなかった。




混沌としている。

いつもあるような明るい騒めきは失われ街全体が生気を失っているかのよう。

野次馬根性たくましい輩だって遠くで眺めるだけで決してその顔に笑みなどは浮かべていない、この状況で笑っていられるとしたらそれはきっと異質な存在だろう、この二人のように。


「いい具合に混乱してますね、でもこれじゃあ誰も私の話を聞いてくれそうにありませんね困りました」


姫様が頭を抱えるとすかさず女騎士がここぞとばかりに「お任せください!」と声を上げる。

周囲の目を引くためにそいつが選んだ方法は最低最悪のもの。

近くにいた人を捕まえると次の瞬間には切り捨てた。

飛び散る血は花弁のように舞いその後に死体を中心として広がる紅い花が咲く。散って咲くという逆の順序で出来上がったそれは人に与える感情もまた真逆。

一人の悲鳴がまた別の悲鳴を呼び連鎖していき異変に気づく人間がねずみ算的に増えていく。

異変の中心にいるのは紛れもなく俺達だ。


「姫様、これで如何でしょう?」


誇ったように報告する女騎士もそれを「ありがとうございます」と感謝する姫様も異常だ。

注目は集めたが周りから人はいなくなった。

まるで爆弾でも置かれてるみたいに遠巻きからの視線しかないが姫様はそれでも満足らしい。


「皆さん、今日から私がこの街の支配者です!」


普通であれば子供の戯言で終わるであろう宣言を足下の死体がそうはさせない。

すぐに集まった武装した兵士によって取り囲まれる。


「どういう事でしょう? 皆さん怖い顔をして反抗する意思がおありのようですね・・・私、何か間違ってしまったのでしょうか?」


悲しそうに首を傾げる。

初めから全部間違っている事に気付いていない。


「姫様がお気になさる必要はありません。ただあの人間共が愚かというだけのこと、一度で分からないというなら二度三度繰り返せばさすがに理解するでしょう、抵抗など無意味と。指示してくださればすぐに蹴散らして参りますが?」


「そうですね、ではお願いします。ですがくれぐれも敵対意識のない者は傷つけないでくださいね、大事な資材ですから」


「了解しました」


女騎士一人対多数の兵、圧倒的な戦力差にもかかわらずそいつの足取りには少しの恐れも無いどころか笑っていたのだ、そして何故だか唯一の武器である汎用的な剣を地面に突き刺しそのまま放ったらかして素手になる。

理由はすぐに分かった。


「ようやく鬱陶しい枷が無くなったんだ、目一杯楽しませて貰うとしよう」


手を開くとそいつの狂気を練り固めたかのような禍々しさを振り撒く剣がその手に現れたのだ。

その凶悪な切っ先を人に向け本性を露わにしたかのように吼える。


「文句がある奴はオレを殺しに来い、そうじゃない奴は黙って服従しろ」


それは争いの開始を告げるではなく一方的な蹂躙の始まりを告げる合図だった。





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