第四十一話 暗雲
「支配・・・ですか?」
「はい支配です!」
子供のように無邪気に笑って見せる。
冗談ではなく本気で言っている様だがおそらくそうなんだろう。
子供がテレビの中の世界を救うヒーローに憧れる様なもので魔界の姫様が憧れたのは世界征服する側の俺からすれば悪側の存在。
大人になればそんな夢は見なくなるんだろうがこの姫様は本当に街一つどうにか出来そうな力を持っているのが問題だ。
「具体的にはどうやって?」
「まずは一番偉い方と話してこの街の支配権を譲ってもらいます」
いきなり武力行使なんて言い出さなくて本当に良かった。
しかし次なる問題は当然断られる、というか相手にもされなかった後どうするか。
癇癪起こしてあのとんでもない魔法をぶっ放す・・・・いやそれはないか。自分達をさらった野盗ですら命までは奪わなかったのだからまずあり得ない。
つまり問題は、
「何だ貴様、汚い視線をこっちに向けて殺されたいか?」
そうやって事あるごとに殺す殺すと言うチンピラヤンキー女騎士キアラ。
「姫様、そんな下等生物に説明するだけ時間の無駄です。姫様の貴重な貴重な時間を浪費するだけです」
頭の中は姫様だらけのモンスター級の過保護騎士。
そんな姫様の申し出を断った人間がいようものなら決まり文句の如く「殺す」と言うだろう。
変に偉い人間にそんなこと言おうものなら大変面倒な事になるのは十分予想出来る。
女騎士だけ捕まっていくのなら良いがこっちまでとばっちりを受けるなんて事態は御免被る。
さてどうやって姫様の目的を支配から観光がてらのショッピングに変更して魔界の方に何事も無く無事に返せば良いか頭を悩ませる俺の横で馬鹿な女騎士が馬鹿な事を言う。
「この人間も含め下等生物に説明など不要、力を示して従わせる、それが最も効率的で効果的でしょう。人間は恐怖で縛るのが一番だと姫様の父上も仰っておりました」
力こそ全て! 世界を手中に収めるは絶対的強者であるべきということか。
さすが魔界の住人、考え方が過激だ。
そっち方面に頭のステータスを全振りしたかの様だ、よし少し黙ってくれないか。
そんな願い虚しく、
「あそこに見える最も大きな建物こそ支配者の居城、そして頂上にあるあの蒼いのがおそらくは封印石。あれこそが悪の元凶、話し合いの前にあれは壊しておくべきと進言させていただきます。あれさえ姫様の魔法で吹き飛ばして仕舞えば誰も姫様に逆らおうなどと思わないでしょうしこの私が逆らわせません」
さらに過激さを増していく。
確かにお高そうな輝く蒼い石が塔のてっぺんに置かれてるが封印石とはなんだ?
いや、そんな事はどうでも良い。とにかく破壊なんていう馬鹿げた考えをどうにかしなくては。
「いやいやそんな事したら普通に捕らえられて処刑されますけど?」
「馬鹿だな貴様は、だからその指示を出す者を消すんだろう。そして姫様がその立場に着く、そうすれば万事解決だろうが」
ダメだこの脳筋騎士、早く何とかしないと・・・。
「馬鹿はそっちだ! お前は姫様を人殺しにしたいのかよ!? お前の言う通りにしたら大勢死人が出かもしれないだろうが!」
「それがどうした? 姫様の偉大さを示すための犠牲になるのだ光栄だろう」
あ、駄目だこいつ。姫様第一で他はどうでもいいみたいな考えの持ち主だ。
こんな奴の意見は無視して、
「姫様、取り敢えず街の中を見て回りませんか? 支配云々はその後で考えるとして」
子供だしいろんなところを楽しみつつ歩き回っている内に満足して最終的に疲れたらそんな事忘れて家に帰りたくもなるだろう。
子供だから、そんな考えがどれ程甘かったのかすぐに思い知らされる。
巻き起こったのは大地を揺るがすほどの衝撃と轟音。
そしてそこにいたのは歓喜する姫様の姿。