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第三十七話 殺意の視線

魔界、魔界、魔界・・・いやもしかしたらマカイという名の村か街なのではないか、そうだそうに決まってる! 今が朝だというのも軽い冗談だろう。

マカイなんていう名前も持っている故の自虐ネタのようなものだろう。

暫し硬直して思考を整理していた俺の聡明な頭脳はすぐに見破ってしまった。


「驚かれましたか?」


しかしながらここで「いやいや違いますよね」なんて言ってしまうのは興ざめ、俗に言う“空気読めない”だ。

しょうがない乗ってやるか。


「うわー驚いたーまさか魔界だなんてー」


大根役者も驚きの棒読みでした。

当たり前である、演技など小学校以降やる事なんて無いのだから。

おまけに俺はその唯一の経験もエキストラばりのちょい役、どんなに下手でも通り過ぎるくらいの役目を担う俺に注目する奴なんていない。今なんか通ったなという感情しか抱かれない主役の邪魔をしない端役の鑑。

台詞じゃなく行動で語るのが俺という男。


「ですよね! やはり一般の方には馴染みないでしょうから」


本当に驚いてると思っているようだ。

なんて純粋なんだ!

キラキラと輝く瞳にはこの世の全てが光って見えるのだろう、あまりに眩過ぎて身が焼かれる思いだ。

その目を直視出来ず反らしてしまう、ちょうど自分と同じくらいのいい感じの暗さを求めて。

そして窓の外にそれを見つけた。

形容し難い何かが窓に虫の如く張り付いている。

翼と尻尾、そして恐怖心を煽る顔をしている。

そいつと目があった途端は何も出来なかった、それは演技なんかじゃない本当の驚きからくる反応。

凍ったように動かない俺をよそに朗らかな姫様の声が聞こえてきた。


「その子はグラシャラボラスのグーちゃんです! 懐っこくて可愛いんですよ!」


グリフォンの如き翼と犬の身体、名前はなんか聞いたことがあるような無いようなとにかくデカイ怪物。

どう間違ってもグーちゃんなどと呼べるような愛らしさは微塵も持たない化け物。


「撫でてみますか?」


そんなうちのワンちゃん可愛いですよ! みたいなノリで勧められても・・・。


「いえ結構です、撫でるだけですみそうにないので・・・」


餌やりにまで発展しそうだ。

もちろん餌は俺。


「そうですか・・・」


シュンとする姫様の愛らしさに心を和ませているのも束の間、暴力的な騒音が響き渡る。

まるで何かを破壊するかのような・・・いや、ようなではない、この部屋の扉をぶち壊して体躯二メートル以上はある馬鹿でかい人型の魔物が侵入してきた。

あまりに突然、しかし俺は素早く反応して姫様のの元に駆け寄りその背中に隠れた。


・・・・・。


情けない?

いいや違う。


勇気と無謀は別物だって言うから・・ね。

ここで俺があのトロルのようなオーガのような化け物に立ち向かって何が出来る? 何も出来ない!

力も無いのに立ち向かうのは蛮勇、愚か者の選択だ。

というわけで、


「姫様! 魔法お願いします!」


人任せ、これに限る。


だが姫様は動こうとしない。

そうこうしてる間に巨漢の怪物は恐ろしい形相で歩み寄ってくる。

ヤバイ殺される! なんてビクビクしてると落ち着き払った姫様の声。


「大丈夫ですよ、私の父ですから」


「・・・・えっ!?」


驚くのも無理はない。

だって余りにも似ていないんだから。

例えるならゴリラとオコジョ、突然変異でも起きない限りは繋がりようのない差がある。


「クラリス、そいつがそうか?」


「ええ、ちゃんと眷属を作ってきました。これで私も一人前です」


ゴリ・・いや姫様の父は悩ましい顔でもっさりとしたヒゲをいじる。

そして俺は素っ頓狂な顔で姫様を見る。


そういえば・・・・眷属って何すか?


だが説明のないままなんか話は進んでいく。


「うむむ、確かにそうかも知れんが・・・」


「決まりですね! これで私も旅に出てもよろしいんですね! 眷属と一緒なら良いという話でしたから」


「だがそう急ぐこともなかろう、もう二、三年後にしたらどうだ?」


「そんなに待っていられません!」


「うーむ・・・」


微笑ましい光景じゃないか。まるでホームドラマを見ているようだ。

外の世界に羽ばたこうとしている娘とそれが寂しい父、とすれば俺はそのきっかけを作ったポッと出のどこぞの馬の骨かもわからない怨敵になるのか?


父と目が合った。

瞬間殺意を感じたのはきっと気のせいだ、そうであれ・・・。





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