第三十五話 はじめての・・・
姫様の放った魔法は一面を焦土に変えた。
しかし都合の良い事に人間だけは丸焦げにはしなかったようだ。
優しい何かが身体を覆っているようだからコレのおかげなんだろうけど。
「皆さん無事ですか? 守護の魔法を掛けておいたのですがお怪我とかありませんか?・・・って、どうかされました? ぼうっとされてますけど」
「いやだってこれはさすがに・・・」
「もしかして私何か不味いことしちゃいましたか!? あの怖い人達はそのまま焼いた方が良かったでしょうか? 思った以上に力がみなぎってこのままじゃ殺してしまいそうだったので一応対応したのですがもしかして必要ありませんでした? 捕らえる方が良いと判断したんですが・・・」
どうやら敵さんの方にも同じ魔法を掛けたらしい、どこまで有能なんだ。
圧倒的主人公ムーブ、守られる側だと思わせてほんとはめちゃ強い・・・それなんてラノベ? 俺異世界人だよ、そういう役割はこっちに欲しかったなぁ。
「姫様の大海原の如き優しさはとても素晴らしいです。ですが相手は姫様に狼藉を働いた極悪人、生かしておけば新たな被害者を生むでしょう、ですので焼いちゃって下さい。大丈夫、消し炭にしてしまえば証拠は残りません」
「成る程、それなら騒ぎにもなりませんし今後の為にもなりますね!」
・・・はぁ!! テメェは世間知らずの姫様を止める側だろうが!
この女騎士なにそそのかしてんの!? そして姫様も何気に乗り気。
この二人なんだか少しずつずれているのでここは俺が常識人として止めるべきだと思い至って口を挟むとする。
「いやいやさすがに焼いてはダメでしょ! 捕まえとけばあとはなるようになりますし・・」
正論だよな? 俺間違ったこと言ってないよね?
それなのに何故にこの女騎士は仇敵のように俺を睨みつけてくんの?
「もしや貴様、奴らの仲間だな! 助けるふりして我々の間に入り込み最後は騙すつもりだったんだろう! ついに本性を現したな小悪党め、私を騙すなど百年早い」
どこぞの探偵みたくビシッと人差し指を俺に向けてカッコつけてる。
まあそんな事されても俺は否認し続けるがな、覚えのない罪は認めちゃいけないって元いた世界で学んでるから。
「勘違いだ! 俺があんな奴らの仲間なわけないだろ! この目を見てもう一回考えてみな、このつぶらな瞳が犯罪者のそれに見えるのかよ!」
いつになく真面目な感じを出してみた。冤罪怖いし。
しかしいざまじまじ見られると慣れてないからか自然と顔がにやけてきた。
女性の顔が結構近くにある状況、おまけに見つめ合ってるときたなら誰だってこうなる絶対に!
当然そんなふざけた顔してるわけだから下された判決は有罪。
「姫様、焼きましょう」
「ですが・・・」
迷ってる。
この女騎士は過激派なので直接姫様に訴える。
「俺はただ貴方を守りたかっただけなんだ! 自分にそんな力ないって分かってたけど居ても立っても居られなくて体が勝手に動いてた、それだけなんだ! 信じて欲しい」
弱い自分を認めつつそれでも人助けをしようとする、そんな主人公のように俺は思われたい。
「やはり、あなたなのですね!」
必死の訴えに姫様は何やらとても驚いた表情。
俺が一体なんだと言うのか分からないがなんだかとても嬉しそうな顔をしているのでまあ良いや。
とにかく良かった! 姫様はこの女騎士と違って血気盛んじゃなくて。
ホッとしたのもつかの間とんでもないことが起こる。
「嫌なら、その、結構なんですけど・・・」
もじもじとして恥じらう姿がこれまた可愛い。
何かお願い事だろうか?
なんでも聞いちゃいますよ。
「私と・・・え〜と、あのですね・・」
上目遣いがこれまた凶悪的、俺の心は射抜かれたとひとりで歓喜している俺に覚悟を決めたように姫様が言った。
「私とキスしてください!」
「はいはい何でもします・・・・・えっ?」
ちょっと待てちょっと待て!
キス・・・だと!?
なんだこの展開は!
お昼何食べたっけ? 口臭大丈夫かな?
唇ちょっと乾燥してる。
色々気になることはあるが男たるものこんな機会を無駄にできるはずない。
「はい喜んで!」
初めてのチュウを前にしてあり得ないくらい緊張している俺であった。