第二十九話 宝の披露
「つまり、昨日あんた達は変な屋敷に侵入してちゃっかりお宝を入手してきたと」
早朝、酒場の隅の方でみんな集まって食事を摂っている最中ルナが考え無しに俺たちが今さっき説明した事をざっくりと要約して声に出す。
「ちょっ馬鹿、声が大きい! 周りをよく見ろよ!」
小さな声で注意を促す。
何故なら周りには朝っぱらから酒に溺れているならず者がたくさんいるからだ。そんな中でお宝の存在を知らせるなんて“宝くじ当たったヤッホー!”と吹聴しまくっているのと同じ愚行だ。
「おっと、そうね。配慮に欠けてたかも」
俺の指摘を受けて声のボリュームを落とす。
「それで、何があったの?」
聞きたくて仕方ないというような顔をしているな。
まあ無理も無い、なんたってお宝だ。
ティオ、リア、見せておやり!
テーブルの上に置かれた魔道書と宝珠をルナは興味深げに眺める。
魔法道具に詳しくないからかあまり驚いている様子は見えないどころか「これ?」なんて抜かして若干期待外れみたいな反応を示している。
無知ってのはやっぱ怖いな。
真の価値が分からないから貴重な物も簡単に手放してしまう。
子供の時、深く考えず交換したカードが今ではとんでもない価値を誇っている(実体験)。
幼く無知な当時の俺をぶん殴ってやりたい。
━━━━━━━おっと、昔語りはここまでだ。
過去に起きた事は変えられない、しかし過去の後悔はいつだって変えられる。
形のないものだからこそ扱いは難しい、でも形がないからこそ自分の思い一つでどうにでもなる。
いばらのように触れるたびに自分を傷つける状態から絹糸のように無害な形にだって変えられる力を人間は持ってるんだよ。 by 俺
まあ、後悔しない生き方が一番なんだけどね!
その為に知識はあったほうがいいよって話。
今まさに俺の前にいるルナのようにあっけらかんとして超貴重な魔導書をぞんざいに扱うところを見るとしみじみそう思う。
「ルナ、お前にはその価値が分からないだろうがそれはとんでもなく貴重な物なんだ。だから、そうやって魔導書をぴらぴらと振るのはやめないか、破れたらどうするつもりだ!」
「これくらいで破れるわけないでしょ!」
ティオは何も言わないが気が気でない様子で見守っている。
その時!───────なんて約束された展開も起きず無事ティオの手元に戻った。
「次はワシのじゃ見るがよい!」
リアは赤黒く輝く宝珠を天高く掲げた。
威厳たっぷりに背を反らしピンと伸ばされた背中と手は「見て見て!」とでも言っているかのようでなんとも子供らしい。
「少し見せてもらっても?」
訪ねるフレイヤにリアは悪戯っ子みたいにニヤリと笑みを浮かべて威圧するかの如く言い放つ。
「見たいか? 気になるか? 見せてやってもよいがそれ相応の態度というものを示して貰わんとなぁ」
純度100%の悪意と共に向けられた言葉にそれでもやはりフレイヤは微笑んでいた。
リア、ご愁傷様。
心の中でそう呟いている間にリアは悲鳴を上げて宝珠を自ら差し出していた。
「これはなかなか興味深いですねー」
直前の出来事なんてまるで無かったかのように手の中で宝珠を転がして観察している。
それから少しして観察が終わったのか宝珠から目を離し神妙な顔つきで語り始めたのはとても衝撃的な内容だった。