第二十五話 お屋敷探索 Part 4 生まれし絆 死闘編
一人一人と俺の仲間が駆逐されていく。
相手はまるでそれが当然であるかのように一切の慈悲すら見せない。
俺たちはまだ何もしちゃいないってのに・・・。
ただ近づいた、それだけで・・・。
ちくしょう! どうしてこんな事になっちまったんだ。
心の中でそう叫びながらも突き進む。
友の屍を乗り越えて。
♢
少し前、
俺は計画を実行した。
奴らの群れの中に飛び込んで、襲われて、「うわぁー」なんて悲鳴を大げさに上げて、そして見事にスルーされました。
なんやかんやありつつも来てくれるって思ってたのに。
俺の言うことを簡単に真に受けないでよ! 男心は複雑なんだから!
カッコいいと思って変なこと口走っちゃう生き物なんだから!
仲間に見捨てられた絶望感は俺の心を簡単に壊した。
それがきっかけだったのかもしれない。
俺の身に起きたこの異変は・・・。
腐れ野郎が唐突に俺を舐め回すのをやめて地べたに寝そべる俺をつぶらな瞳で見ていた。
「アウアウアウア〜〜」
呻き声をあげる。
それは只の呻き声、誰が聞いたってそう答えるはずなのに。
どうしてだ・・どうして俺には違って聞こえるんだ!?
「アウアウアアアア〜〜(あんたは俺たちの試練に打ち勝った)」
腐れ野郎の一匹がそんなことを言っている・・・ように聞こえる。
そして別の一匹も、
「アアウアウア〜〜(本当に大した根性だぜ! ここまでやられても尚誰も倒そうとしないなんて)」
「アアウウアウ〜〜(俺たちなんて簡単に倒せるだろうに)」
おっと、なんか勘違いしてるようだ。
俺グロいのNGなんで倒さなかったんですけど・・・まあ、この流れに乗るしかないよね。
「アアアウアアア(行きな、あんたはもう同士みたいなもんだって言っても分からないだろうけどな。とにかくあんたの優しさには感謝しとくぜ)」
「お前たちが舐めるしかしないなら殺す必要なんてないだろう。こんなのいくつもの死線をくぐり抜けてきた俺には屁でもないぜ」
と、なんか普通に受け答えしてみると腐れ野郎共は一斉に驚いてみせた。
「アアアアウウウウ〜〜(馬鹿な! 我々の言葉が分かるのか!?)」
「ああ分かる、なんか分かる」
「アアウアウウアア〜(そういえば俺たちもこの人間の言うことが分かるぞ!)」
「アアウウアウアアウアウアアウト〜(これはもしや、お互いを認め合った末に生まれる絆というやつなのか?)」
「アウアアイウエオ〜?(それは一体なんなんだ?)」
「アエイウケコカコ〜(その昔、魔物と協力し合う人間がいたらしい。それこそ意識が通じ合っているかのように。周りからすればそれはありえない光景、しかしそいつらは周りの目なんて気にせず、頭がおかしいなんて罵られてもどこ吹く風で自分たちの生き方を貫いた。お互いを深く知り、お互いのために協力する、魔物は人間の指示を聞き戦略通り戦うことで強大な相手にも打ち勝ち、人間はそんな魔物に敬意を払った。いつしかその人間はこう呼ばれた“魔物を従える変な奴”とな)」
それど直球の悪口じゃんやだ〜。
「アウアイアンマン(じゃあもしかして・・)」
そう言って腐れ野郎どもは一斉にこっちを見た。
まるで仲間になりたそうにこっちを見ていた。
俺はさも気付かなかったようにそっと他に目線をやった。
・・・・いやんこっち見んといて!
やだよ俺変な奴なんて! 人の目もすごい気にするし・・。
空気のような忍んだ学生生活を送っていた俺にはちと荷が重すぎる!
よし、この場を離れよう!
そう決意し歩き出すも付いて来る。
「アイヤアウアイムサーヴァント(我がマスターよ、何なりとご命令を)」
無理だ、こんなやつでは戦い抜けるはずがない。
っていうか可愛くない時点でお引き取りくださいだわ!
いや待てよ!
これを利用すれば当初の目的が達成できるじゃないか!
こいつらにあの二人の身体の隅々を舐めまわさせてムフフフ・・。
それを拝ませていただけるだけでもここに来た甲斐はあるってもんだ。
よし決めた!
「マスターが命じる! お前達この先にいる人間を思う存分舐め回してやれ!」
高らかに言い渡し指をさしたのは当然リアとティオのいる方角。
「アイアイア〜!(了解!)」
進軍を始める俺の仲間たちその数三匹。
マッシュ、オルテガ、ガイアと名付けた三匹は一直線になって猛然と突き進む。
俺はその後ろを追いかける。
その時だ!
か弱い女の子の悲鳴が上がり俺が内心ほくそ笑んでいた矢先、闇を切り裂き現れたのは燃え盛る球体。
人魂なんかじゃないこれはっ! 魔法だ!
あいつら魔法を打ち込んできやがった!
魔法で倒すとグロ注意になるから嫌っていうから俺がこの身を捧げたというのに・・。
くっ! 駄目か。
「ここは撤退だ!」
出直して不意をつく作戦にシフトしようと撤退を命令するが、
「マスターもうすぐそこなんだ! 行ける! 俺は行けるぞ〜!」
ガイアは止まらなかった。
俺の為にと特攻した結果・・・炎の球体が頭部に直撃して頭が吹き飛んだ。
何が起きたのか分からない、そんな表情を作ったまま宙を舞いそれからコロコロと床を転がって俺の足元まで帰ってきた。
そんな嘘だろ・・!
「よくもやってくれたな〜!」
マッシュも仲間の死を受けて冷静さを欠いたのか向かって行く。
この悪夢は連鎖的に俺の仲間を呑み込んでいくかのようにマッシュは魔法で生み出された雷に打たれて散った。
「馬鹿野郎っ! ちゃんとマスターの指示に従っておけば・・」
オルテガの声は震えているように聞こえた。
「俺だけになっちまったな。だが安心してくれ、たとえ俺の身に何が起ころうともマスターだけは守り抜いてあの敵の側まで行かせてやる! 後のことは頼んだぜ!」
・・・・・はぁ?
別に敵ではないんですけど。
ただちょっとイタズラしたかっただけっていうかそんな感じなんすけど。
お前達が居なくなったらその時点で失敗なんですけど。
とてもそんなこと言える空気じゃねぇ。
「いや、そんな無理しなくていいかなぁ〜。これ以上犠牲は出したくないし〜」
「マスター、あんた優しいんだな。あんたみたいな人間に会えて俺は幸せだぜ! この戦いが終わったらあんたと旅に出るのも悪くないかもな」
あっ、ダメだこれは。
見事にフラグを建てられたわ。
「ああ、行こう。お互いきっと生きてこの場を乗り切ろうぜ!」
これは俺だけ生き残るフラグ。
こう言う奴って大抵生き残らない?
そして俺たちは待ち受ける運命をなんとなく肌に感じながらも前だけを見て突き進んだ。