第二十四話 お屋敷探索 Part3 生まれし絆 妄想編
まるで永遠と思えるほどの時間彷徨った。
入れる部屋、怪しそうな場所全て調べたが何も無い。
変わったのは俺たち三人の距離。
それはもう遠いよね・・・・。
分かるよ、時間が経って乾いた唾液の匂いってヤバいもんね。
だからなんだろうねこれだけ離れているのは・・・。
「おーい奴らはおらんか?」
遥か後方からリアが聞いてきた。
「いーなーい!」
そう答えると少しだけ近寄って来た。
ようやく体の輪郭が見えるくらいだけど・・。
「どうした? 止まってないで早く先に行かんか、偵察はお主の役目じゃ任せたぞ!」
リアの言う通り俺は斥候に選ばれた、いや選ばれたというよりは押し付けられた、そしてもっと厳密に言えばこれは偵察という名の生贄だ。
危なそうなところに単独先行、そして仲間の為にこの身を捧げる。
仲間の為ならこれくらいなんてことない。
たとえ全身ネチョネチョでとんでもない臭気を放って守るべき仲間から距離を置かれてちょっと近寄ろうとしたら臭い寄るなと言われて・・・・・・あんまりじゃないかーーーー!!
もう許さん! 絶対にお前もこっち側に引き込んでやる!
ああでもティオは悪くないんだよなー
↓(以下回想)
俺がリアに生贄になるように言い渡された時も『そんなのいけませんよ! 誰かを犠牲にするようなやり方は』なんて言って俺のそばにいてくれた。
臭いという概念が具現化した存在とまでリアに言われた俺について来てくれた。
その思いだけで十分だった、涙目でも必死に笑顔を作っているティオの優しさに俺は心を打たれて遠ざけた。
『なんで!?』と問うティオに『いいから、俺の側にいなくていいからリアの所に行くんだ』とだけ返して一人先に行こうとする俺にティオは聞いてきた。
『私が側にいても頼りになりませんか? 邪魔ですか?」
そんなこと聞かれて心が痛んださ。
正直に言ってしまいたい、こんな俺について来てくれてありがとうと、ずっと側にいてほしいと。
でもダメなんだ!
辛そうなティオを見てられない! 理由はそれだけだがそんなこと言ったってティオは多分引き下がらない。
優しいから臭くないって言って我慢するはずなんだ!
だから本当の理由は伏せてこう答えた。
『ああ、邪魔だ』
一瞬驚いてそれからシュンとしてしまった。
『分かりました・・・』
あんな悲しそうな姿見たいわけじゃなかった、でもティオの安全が一番なんだ。
ごめん分かってくれ。
言いたくても言えなかった言葉を心の中で呟いた。
↑(回想終わり)
俺・・・カッコ良すぎない?
一度やってみたかったんだよね、仲間の身を案じて敢えて酷いことを言って遠ざける。
でもこれじゃまだ不完全だ、これは敢えてというのが気付かれて完全になる。
つーかそうじゃないと俺嫌な奴じゃん。
だからどうやってそんな状況を演出するかが大事なのだ。
♢
一人みんなの為に先を行く。
ティオに酷いことをしてしまったなと心を痛めながら。
それが良くなかった、すっかり気を抜いてしまった俺は奴らの接近に気付かなかった!
有無を言わさず俺に組みついて来て押し倒そうとしてくる。
「なっ! クソッ!」
不意を突かれて情けない声を上げてしまった。
「離れやがれ!」
そんなこと言ってもこいつらには意味がない。
人の姿をしていても人間じゃないんだから。
人を見つけると押し倒して体中を舐め回す魔物だ。
そいつともみ合いになるが力では向こうが勝っているのでそのまま押し倒されてしまう。
もう駄目か・・そんな覚悟をした時突然腐れ野郎が吹き飛んだ。
一体何が? 体を起こし状況を確認すると、
「大丈夫ですか?」
声が聞こえる。
それは聞きたかったけど聞きたくなかった声。
「なんで・・・・」
「ごめんなさい、でも放って置けなくて・・・」
そこにいるのはティオ。
俺が酷いことを言って遠ざけた彼女がそこにいた。
「どうして? 俺はお前に––––」
「–––––邪魔だって言いましたよね。でもあなたが危ないかもと思うといてもたってもいられなくて・・・どれだけ酷いことを言われたって邪魔だと思われたって私が一番辛いのはあなたが傷つくことなんですから! だから嫌われたとしても私は助けに来ます!」
「っ!?」
こんなティオを見るのは初めてかもしれない。
強い意志を持って自分の意見をはっきりと主張している。
控えめでいつも一歩引いているようなティオがここまで頑なに。
俺なんかのために。
「ははっ、情けないな俺は」
「そんなことっ–––」
「いや情けないよ、ティオを守りたかったから遠ざけたのに逆に守られるなんて・・・」
「それは一体どういう・・・?」
「言葉通りの意味だ、俺の側にいたら辛そうだし危険だと思ったからあんな言いたくもないことまで言って遠ざけたのにこれだ・・・結局俺は一人じゃ何もできないのかもな」
自嘲気味に語る俺にティオはそっと手を伸ばして来た。
「そんなの私も同じです、それに守りたいと考えてるのはあなただけじゃありません、私だって同じなんです。だからもう邪魔だなんて言わないでくださいね」
屈託のない笑顔、その眩しさが心にしみる。
俺はなんて馬鹿だったんだ、自分の身も守れない奴が人を守るなんて出来っこない。
俺がみんなを思うようにみんなも俺を思ってくれる、そんなことにも気付かなかったなんて。
彼女の手を取って立ち上がった。
「ああ二度と言わないさ」
春のそよ風のような優しさに身を委ねることに決めた。
「でもティオに守りたいなんて思わせるのは嫌だから俺は強くなるよ、そしていつか俺がいれば安心だって思わせてやる」
「じゃあその時を待ってます!」
二人手を取り歩き出す。
何が待ち受けてるかわからない、でも二人ならなんだって乗り越えられる気がした。
俺たちの戦いはこれからだ!
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↑(以上空想終わり)
「フッフッフッ・・・完璧だ」
後はこのイメージ通りにことを運ぶだけ。
全く俺はとんだ策士だぜ。