第二十二話 お屋敷探索 part1
人魂・・いや、ランプの灯りのおかげで隅々まで見渡せるという訳では無いが大分中の様子を確認することは出来るようになった。
外から見て大きいのは分かっていたが中の様子もこれまたすごい。
入り口から入ってすぐ正面に二階に続くでっかい階段がすごい存在感を放っていて、上には光を放つことのないシャンデリア、左右に扉がいくつかある。人生の勝ち組が所有しているような大豪邸だ。そして、何だか人を食べる怪物でも出てきそうな雰囲気だが、それはさておき、さっそく探索開始だ。
まずは一階を見て回る事にする。左側の扉を開け中に入り進んで行くとそこにも大きな部屋があり、いくつもの本棚が置かれているが中に本は収まっておらず辺りに散乱しておりさらに燭台や絵画なども床に乱暴に置かれていて足の踏み場もないほどだ。
「なんじゃこれは、全く掃除くらいまともに出来んのか、人間こういうところから堕落していくんじゃ」
「これは掃除が出来てないとかいう問題では無い気がしますけど・・」
確かにそうだ、これはまるで何者かに荒らされたかのようだ、俺たちの前にここに宝探しに来た奴らの仕業だろうか? だとしてもここまでする必要はあるのだろうか、何だかとっても嫌な感じだ。
重い足取りのままさらに扉を開き先に進む。
長く幅の狭い薄暗い廊下が続いており先の方はランプの灯りが不十分ではっきりと確認することは出来ない。
俺を先頭にティオ、リアの順に一列になって先に進む。廊下の途中にある扉を開けようと試みるもどれも鍵が掛かっているようで開きそうにもなく寄り道する事なく廊下をまっすぐ進む。
恐怖を噛み締め足を進めて薄暗い廊下の突き当たり付近まで来る。
「・・・・・あぁ・・・」
何か聞こえた気がした。
「何か聞こえないか?」
振り返り後ろの二人に聞いてみる?
「すいません、私には聞こえませんでしたけど」
「わしにも聞こえんかったぞ、気にし過ぎじゃろ。心配しても何が起こるかなんてわからん、未来は予測不可能じゃ、ゆえに行けば分かる行かねば分からぬ、という訳でさっさと進むのじゃ」
「いやいや、先頭って案外怖いんですよ。変わりません?」
「淑女を先頭にするつもりか、お主それでも男か? 男ならたとえその身が引き裂かれ臓物を地面に垂れ流してでもわしらを守らんか」
「男女平等って言葉知ってる?」
「知らん。男なら無駄口を叩かずどっしりと構えて進めば良い」
「男だからとかそういうのを止めようっていう考えから━━━━」
「わしらもすぐ後ろにいる、恐れる事はない。だから早よ行く・・の・・じゃ」
そう言い終わるか終わらないくらいのところで突然リアの視線が俺の顔から逸れ、怯えた表情で俺の後ろを指さしている。ティオも同じように怯えている。
俺の後ろのなんかいるの? まっさか~、そんな、ホラー映画じゃあるまいしちょうど後ろに振り返って話してる最中にタイミング見計らって出てくるような事無いっしょ。驚かせようとしてることなんて俺にはお見通しだぜ。
「あぁぁ」
なんか頭の後ろから低いうなり声のようなものが聞こえる、それと同時に首のあたりに生暖かい風があたる。
なにかが後ろにいる。
その何者かは俺が正面を向くのを待ってましたと言わんばかりに襲ってきた。
二本の腕で両肩をがっちりとつかまれ馬乗りの形で床に押し倒される、その時に見たそいつの顔はまさしくZOMBIだった。
顔は血色を失い不自然なほどに青ざめており、目は濁っている、この剣と魔法のファンタジー世界には全くそぐわないほどにリアルすぎて怖すぎる、出来ればもう少しかわいくデフォルメされていて欲しかった、そして何よりも息が臭い、腐乱臭をすごくした感じの臭いがする、ゾンビだからエチケットもくそも無いのだろうがもう少し気を付けてもらいたいものだ。
などと悠長に考えている暇は無かった。そいつは今にも俺を喰おうと口を広げ頭を近づけてくるがなんとかそいつの頭を押さえ阻止している。しかしこの状態も長くは持ちそうにない、このままではいずれ喰われてyou are deadになってしまう。
「ティオ、リア出来れば助けてくれ」
これはわりとヤバい感じだから真面目に助けを求めてみたがティオもリアも動こうとはしない。
「助けて! 助けて! これマジでヤバいから、助けてくれたら何でも言う事聞くからお願いします!!」
しかしそれでも動こうとはしない、そろそろ腕の力も限界にきている。
「すいません、本当にすいません」
「おぬしの勇姿はこの目に刻み付けておくぞ、じゃからすまん尊い犠牲になってくれ」
ティオはうつむいて目を閉じている、リアは敬礼をしてただこちらを見据えている。
そんなウソだろ!? 仲間に見捨てられる最後なんて、悲しすぎるだろ。
絶望と喪失感で力が抜けてくる、もうだめだ、抑えきれない、喰われて死ぬなんて嫌だな、こんな死に方はしたくないランキングのかなり上位に食い込んでくる死に方だぞきっと。
頭が近づいてくる、鼻先に臭い息が掛かっている、終わった・・・。
ペロッ、ペロ、ペロッ、ペロ、ペロ、ベロベロベロ
顔の周りを生暖かいナメクジが這うかのような感触が何度も何度も繰り返される。とてつもなく気持ち悪い、全身に鳥肌が立つ。
引き離そうにも全然離れない、抵抗むなしく俺はなすがままに舐められ続け、ある程度舐め終えるとそいつは去っていった。
後に残されたのは顔をヌルヌルテカテカにして服がはだけ床に転がる俺。
「よ、よう頑張ったの、あの精神攻撃によくぞ耐えきった。称賛に値するぞ」
「本当にごめんなさい」
シクッシクッ。
「俺・・・・汚されちゃった・・・もう、お婿に行けない」
目元に手をやりそう呟く俺をかなり重症だと感じたのかティオとリアは顔を見合わせひそひそ声で、
「これはもうダメかもしれんな、精神が即死して頭までおかしくなっておる、再起不能じゃ」
「そこまで・・・いえ、あんな攻撃をされたんですから仕方が無いのかもしれませんね」
精神が即死って何だよ! 別に頭がおかしくなった訳ではない。確かに俺のSAN値はかなり削られたがまだ正気を保っている。
「なぜ助けてくれなかったのでしょうか? 俺助けてって言ったよね、何度も何度も言ったよね?」
再起不能になったと思った男が突然喋りだしたので「お、おぬし無事じゃったか、わしはてっきり、その、終わったと思ったぞ」と多少驚きつつ答えてさらに続ける、
「すまんのう、あの魔物は腐れ野郎と言ってな生きている人間を見つけると手当たり次第舐めまわそうとするんじゃ、ある程度舐め終ると満足してしばらくは攻撃してこないからおぬしには犠牲になってもらったのじゃ、許せ」
「いやでも、助けてくれても良かったのでは?」
「下手に近づいて、矛先がこっちに向いたらどうするのじゃ!」
「じゃあ魔法で助けてくれればよかったじゃないか」
「魔法で一旦引き離したところで奴らは満足するまでずっと追ってくる、倒すには頭を吹っ飛ばすしかないのじゃ」
「じゃあ吹っ飛ばせばいいじゃないか」
「おぬしは頭が吹っ飛ぶところを見ても平気なのか? わしは見たくない、気持ち悪いわ!」
「うっ」
そう言われればそうかもしれない、そんなR―18レベルのグロテスクな映像見たくない、トラウマになるわ。
「分かったじゃろう、あの場合誰か一人が犠牲になるという選択肢しかなかったのじゃ」
そうだな誰か一人が犠牲になるしかない、今回はたまたまその犠牲に俺が選ばれたが俺じゃなくったっていいはずだ。
腐れ野郎、あの魔物はまだ他にもいる可能性は十分ある、捕えたものを舐めまわす・・・か。
楽しくなりそうだ・・・・フフフフフッ。
時刻はまだまだ深夜、薄暗い屋敷を探索する三人、周囲は闇に染まり物静かだ。そんな中屋敷に渦巻くある人物のしょっぼい悪意、俺達は無事お宝を見つけられるのか、いや、ティアとリアは腐れ野郎の犠牲になってしまうのか・・・。
第二十二話 END