第二十一話 お化け何それおいしいの?
深夜、街を歩く人の数は激減しさっきまでの活気が嘘のように静まり返っている。街を照らすのは街灯の灯りかいまだに営業している店から漏れるわずかな光のみだった。昼間の人で溢れかえった街を考えると違う街にいるんじゃないかと錯覚するほどの変わりようだ。
こちらの世界ではいくら街が大きいからと言って公園や24時間営業の店の前でたむろするヤンチャな人達がいないようなのでちょっとホッとする。
宿を出て数十分ほど歩いた街のはずれに目的の屋敷を確認することが出来た。
周辺を高い塀が取り囲み鉄柵の門扉が待ち構える立派な洋館、建物の外壁には窓がびっしりで部屋数の多さを窺わせる。想像していたよりもかなり大きい、そしてその予期せぬ大きさはそのまま不気味さに繋がりちょっと怖い。廃墟と言うほど荒れ果ててはいないが主を失ってもうかなり経つのだろうと簡単に推測出来るくらいには周辺には背の高い草がびっしりと生えていて自然に取り込まれかけている。
森の中にいる様な静寂につつまれ普段は気にもならない歩く足音と衣擦れの音が耳に入ってくる。
「とても大きな屋敷ですね、それに少し不気味です」
「うむ、これなら何か出ても不思議ではないのう」
本当に不気味だ、俺のいた世界でなら心霊スポットになっていても不思議ではない。そんな所にこんな深夜に入ろうとしているんだ普通の人なら怖いだろうが俺はそういうのは全然信じていないからそんなに怖くはないけど一人でなくて心底よかったと思っている。
時刻はまだ0時前、本当に開かないか試してみたが、扉はビクともしない。
0時を待ってから扉を押して開けてみる。
ぎぃぃ、と鈍い音を立てて扉が動く、
「うわっ! 本当に動いた」
正直半信半疑だったので本当に動いた扉に少し驚かさせられた。
少々の恐怖心を抱きつつ中に足を踏み入れてみる、思った通り中は真っ暗で手元の光る杖の光だけでは自分たちの周辺だけで手一杯で全体を照らすには不十分だ。
「う~怖いな~怖いな~やだな~怖いな~」
「怖いのう~怖いのう~めっちゃ怖いのう~」
まるで心霊スポットにでも来たかのように怖がっていると突然ぼうっと揺らめく炎の様なものが遠くに出現。
それを見た瞬間、俺の頭の中では一つの式が成り立った。
心霊スポット+火の玉=人魂=幽霊=呪われる=死
とはいえ半透明の人の姿をしたものに比べればそこまで怖くない、少し様子を伺う余裕はある。
ぼうっ・・・ぼうっぼうっぼうっぼうっぼうっぼうっぼうっぼうっぼうっぼうっぼうっぼうっぼうっぼうっ・・。
取り囲む様に人魂が次々と現れる、そして最後、俺の顔の横あたりから明かりが・・余裕は無くなった。
「て、撤退!!」
急ぎ撤退、即座に屋敷を出ようと扉の取っ手に手を掛け押してみるが動かない。
「何をしておる、早く開けんか!」
ぐずぐずしている俺に涙目のリアが訴えかけてくる。
「そんなこと言ったって開かないんだよ~!」
ホラー映画のお約束の様に退路を断たれ失意から崩れ落ちた俺とリアは蹲り抱き合い目を瞑り現実から逃避。
「あのぅ・・」
霊感なんてものは無いから霊なんて今まで見たこともないのに何故今いきなりあんなものが見える!? はっ! まさか俺の異世界で覚醒した能力は霊感だというのか、つまり俺に適性のある職業はネクロマンサーという事なのか。勇者改めネクロマンサーユウタですか・・・なんか格好いいけど、今は怖い。
「あのぅ、すいません!」
声に気付き恐る恐る目を半分ほど開き見てみると、ティオが平然としてこちらに声を掛けていた。
ティオは霊とか怖くないタイプの人なのか、いや、俺だってそういうタイプの人間だったはずだが実際に見てしまうとちょっと・・・ねぇ。
「・・ティオは平気なのか?」
俺の質問にとても困ったような顔をしている。
「平気というか、なんというか・・・」
それから少し間を空けてから、
「これは人魂じゃなくて、壁のランプに火が灯っただけみたいですよ」
「「えっ!?」」
俺とリアはすぐに確認してみる。
本当だ。
・・うわ、とても恥ずかしい。顔から火が出そうなほど恥ずかしい。
リアもそんな感じだった。
「よ、よし、ふざけるのはこれくらいにして先に進もうか、俺の怖がる振りは真に迫っててすごかっただろう」
「そ、そうじゃな、わしの怖がる振りに比べたら少し劣るが、おぬしもなかなかじゃったぞ」
言ってティオの方をちらっと見てみるとすごく苦笑いをしていた。
ルナをビビりとバカにした手前このことをルナの耳に入れるわけにはいかない、ティオが話すことは無いだろうから、あとは。
リアの方に目をやるとむこうもこちらを見てきた、俺と同じことを考えたのだろう。
今回のことは一生秘密にしよう、俺たちの目はそうものがたっていた。
お互い静かにうなずき、歩みを進める。
お化けなんて怖くないもん。
第二十一話 END