第十九話 宝探しに行こうかな
ティオが満足そうな顔でこちらに戻ってきた。
ジグルズ館長との話しが終わったのだろう、よほど聞きたいことがあったのか結構な時間話し込んでいた。
「そろそろいい時間だし今日はもう帰るか」
もうすぐ夕食の時間になる。お腹がすいてくる時間だ。
「そうですね、あんまり遅くなってもいけませんし帰りましょうか」
「わしももうお腹がペコペコじゃ、早く帰るぞ」
ジグルズ館長お礼を告げ史料館を後にしようとすると、突然館長に呼び止められた。
「そういえば、おぬしらはこの街の人間か?」
「よく聞くがよい、わしは人間ではないぞ、魔王の―――」
リアが魔王の娘宣言するのをすんでのところで制して、
「――――俺達はつい最近この街に来たばかりのただの旅人です」
「では、どこの宿に泊まっておるんじゃ」
いきなりどうしたんだろう?
「南区ですけど、それがどうかしましたか」
「そうか・・」
館長は自慢の髭を触りながら話を続けた。
「じゃったら、南区のはずれの屋敷については話を聞いておるか」
何のことだろう、そんな所の話はこの街に来てから一度も聞いた事は無い。その屋敷がどうかしたのだろうか。
ティオとリアとも顔を見合わせてみたがどちらも知らないといった様子だった。
「この街に来てまだそんなに経ってないんでそんな話は聞いたことないですね、なにかあるんですか?」
「その屋敷はかなり前に建てられたもので今は住人もおらんのじゃよ。住む人も近寄る人も失い完全な廃墟と化して数年、取り壊しの案も出るには出たがその度にまるで何かが邪魔しているかの様にいつもうやむやになっていつの間にか消える。そんな何かに守られているかの様な屋敷の扉にある日突然一枚の張り紙が貼ってあったんじゃ、そこには『この屋敷に宝を隠した、欲しければ見つけてみろ』と書かれておった、どうじゃ気になるじゃろ? こんな場所に来てずっと見て回るくらい珍しい物に興味があるなら一度訪れてみてはどうかな?」
「それは魔法道具ですかっ!?」
ティオが目を輝かせて食い付いた。
「宝としか書いておらんから分からんがあそこは歴史のある屋敷じゃ、なんであれ価値のある物だと思うぞ」
すごく気になる。
「でも、そんなに堂々と張り紙がしてあるんだったらもう誰かが屋敷に入って見つけてるんじゃないですか」
「うむ、確かにその可能性はある、じゃが誰かが宝を手に入れたという噂も全く聞いた事は無いんじゃ、だからもしかしたら残っているかもしれんぞ」
「行ってみましょう!」
人が変わった様に積極的なティオが詰め寄って来た。
しかしそうは言っても張り紙が貼られてから結構経ってるんだったら宝が残ってる可能性なんてほとんど0に近いだろう。
だが、どんなに確立が低かろうが挑まずにはいられない時がある、頭では絶対に無駄になると分かっていてもお金をかけてでも1%くらいの排出確率に挑んでしまう時がある。
「それじゃあ、明日の朝にでも行ってみるか」
「それは無理じゃ、なぜだかあの屋敷は夜の0時からしか入り口の扉が開かんのじゃよ」
えー、それはまた面倒な設定なことで。
「じゃあ今夜行きましょう!」
もはやティオは止まらない。
まあ気になってモヤモヤした状態で明日の夜まで待つのも嫌だし行ってみるか。
そうしてようやく史料館を後にした。
不意に見上げた空はどんよりとした雲が覆いすべてを飲み込んでしまいそうな闇が支配している、雲の向こうで瞬いている筈の星も今は見えず、その輝きも徒労に終わっている。地上では自然の優しい光は届かず、人工的な光が街のあちこちでせわしなく放たれていた。
第十九話 END