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第百九十三話 師匠、家族⑧


「すまない、みっともないところを見せた」


少ししてムスケルはそう言って微笑む。

そのあまりの弱々しさには強い漢たろうとした面影など無い、しかし同時に憑き物が落ちたように周りを威圧する様な刺々しさも無くなっていた。


「あんたのみっともないところなら見飽きてる、今更だろ」


「‥‥‥」


「‥‥‥」


初めて出会った時のような気まずい時間、こんな時に助け舟を出してくれた彼女の方に無意識に目を向けてしまう。

横たわって動かない、もう完全に‥‥‥。


「止めよう、あいつはもういない」


ムスケルもヴァイスと同じだった。

失った存在の大きさを思い知らされる。


「別れは済ました。オルキアが命をかけて背中を押してくれたからにはあいつの想いに応えないとな」


バシッとムスケルは自分の顔を両手で叩いて気合を入れる。

気持ちを切り替えたと証明するかのようににっと笑ってみせるその目が少し潤んでいるのにヴァイスは気付いたが指摘しない。

やせ我慢しているがようやく自分の知っているムスケルが戻って来たことが嬉しかった。


「よしっ! じゃあまずはオルキアをちゃんとした所に埋葬してそれからキオリナを探しに行くぞ」


「何処にいるのか検討はついてるのか?」


「いや全くだ。でも見つかる、いや見つける」


オルキアの姿を見た時から最悪の想像は拭えないでいる。ムスケルだってそれは同じだろうがそれを言葉には出さず見つけると言った、だからヴァイスもそれを信じついて行こうと決めた。


「だがその前に‥‥」


そう言ってムスケルが視線を向けた先には少女がいる。

ただ俯いたまま動かない、まるで抜け殻だ。


「謝らないとな。あいつにも、あいつの友達にも」


タチの悪いやつ当たり、全部の責任を押し付けて友を傷付け酷い言葉を浴びせたとムスケルは告白する。


「俺にあいつを責める資格なんて無かった。俺とあいつは同じ、大事なものを奪われ周りが見えなくなって突き進んだ。違うのは止める存在が居たか居なかったの違いだけ」


お前がいなかったらもっと取り返しのつかない事をしていたとムスケルはヴァイスに向かって苦笑した。

罪の清算、自分のしでかした事と向き合い謝罪する。再生の第一歩を踏み出すムスケルの背中に突如として風が押し寄せた。

だがその風は背を押すものではない、それは死を運ぶ暴風だった。

ビュンとムスケルの背中まで押し寄せたそいつはそのまま持っていた剣で心臓を一突き。


「これでまた一つ世界から穢れが取り払われました」


死の風、いや、金色の髪をなびかせた女が満足げに呟き剣を引き抜いた。

全部解決したという安心感に浸っていた心が突如冷水に沈められたかのように固まる。

再び視界に映る血の光景、そこには先程のような優しさも無ければ容赦も無い一方的な殺し。

気付けばヴァイスは剣を手に言葉にもならない雄叫びと共に駆け出していた。


「いきなり何ですか!?」


女は驚きはするもきっちりとヴァイスの剣を避ける。


「私は助けに来たんです。下劣な魔族に捕われた方々を救いに来た味方です。どうか剣を収めてください」


「黙れっ!」


「混乱しているみたいですね。よっぽど酷い仕打ちをこの穢れた魔族にされたのでしょう。ですがもう安心です、この私が来たのですから。あなたも、そして連れ去られたとされるリアちゃんのお友達も安全な所までお連れしましょう」


その言葉に抜け殻だった少女が僅かな反応を見せた。


「ああ、貴方がクラリスちゃんですね、無事で良かったです!」


安堵の表情を浮かべる女に向かってヴァイスは今一度剣を振るうもやはりあっさりと躱される。


「酷く錯乱している様ですね。これはひょっとしたら洗脳の類もあり得ます、一度気を失わせてから━━━」


「俺は正気だ、混乱もしてなきゃ洗脳もされてない!」


「だったら何故私を攻撃するのです? 貴方は見るからに人間ですよね?」


「ああそうだよ俺は人間だ」


「であれば私達は味方、刃を交える必要など無いはず?」


「たった今家族を殺した奴を味方だなんて思えるかよ」


憎しみと共に吐き出される言葉を受けて女は「ああ」と何か納得した様に囁く。


「あなた人間でありながら魔族に手を貸す裏切り者ですか」


その一言を境にして女は纏う空気を一変させた。

優しさを孕んだ目は獲物を狙う狩人の目に。穏やかな声は冷たく刺々しく。

女の視界から人間は消えて残ったのは敵。


「では殺しましょう」


それはまるで死の呪文の様、一言唱えられた言葉が耳に入った次の瞬間には既にヴァイスの懐まで迫り避けられぬ死をもたらそうと剣を振り上げていた。


「‥‥っ!」


あまりにも早過ぎて反応すら出来ない。

無抵抗のままヴァイスは迫り来る死を見ているしか出来なかった。

しかし、死はヴァイスの直前で待ったを食らった。


「さすがに今回は心の底から感謝だろう? クソ不良野郎」


ここに来る為に散々利用したクソ雑魚野郎が得意げな顔で剣を受け止めていた。


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