表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/221

第十八話 史料館見学

押し付けられた残りの魔物討伐を終え転移魔方陣によって俺が酒場に帰還したのはお昼を大きく回ってからだった。


ランチタイムを大分過ぎていたからか酒場は普段みたいには混み合っておらずまばらだ、その分調理場ではカチャカチャと皿洗いで忙しくしていた。


久しぶりにまともに戦ったせいか体の節々が少し動かすと電気ショックをくらったかのように痛む。


俺、すごく頑張りました。


痛む体を引きずるようにして受付まで報酬を受け取りに行く。


「すいません、依頼を終えたので報告に来ました、ユウタです」


「はい、ユウタさんですね、少々お待ちください」


受付のお姉さんが笑顔で対応してくれる。


「こちらが今回の報酬になります、お受け取りください」


「ありがとうございます」


疲れのせいで少々ひきつった笑顔で手を差し出し報酬を受け取ろうとすと、


「あ! あとこちらも」


思い出したかのように報酬と一緒に一枚の簡素な紙切れを渡してきた。


なんだろう? この後、時間空いてませんか、一緒にお茶でもいかがですか? 的なお誘いのお手紙かと思うことも全くないこともなく、期待も全くしないこともなく手の紙切れに目を落とす。


内容はこうだ。


”報酬を受け取ったら、ティオが酒場にいるはずだから受け取った報酬すべて渡しなさい、あんたが持っているのは信用できないから    ルナより”


キレた


「なんじゃこの紙切れは、人に全部押し付けておいてなんだこの態度は! だいたい俺が人の金に手を出すとでも思うのか、母親のお金にも手を出したことがない実直な男だぞ」


乱暴に紙切れを両手に持ち真っ二つに引き裂いて投げ捨てる。引き裂かれた紙切れは冬の冷たい風に吹かれ落ちる儚い落ち葉のようにひらひらと舞って静かに地面に着く。


俺はそれを黙って回収しゴミ箱に入れる。いくら怒っているからといってゴミのポイ捨ては良くない。やっちゃだめだぞ。


頭を落ち着かせた後、酒場を見渡しティオを探す、リアと一緒に席について楽しげに会話しているようだ。


水を差すのもどうかと思ったがこのまま遠くでずっと見ていると不審者に間違われかねないので近寄りちょこんと椅子に腰かけている小さい背中に『ティオ』と声を掛けるとすぐに振り返ってくれる。


「おかえりなさい、お疲れ様でした」

「ごくろうじゃったな」


ティオもリアも強制労働を終えた俺を労ってくれた。


『ただいま』と言って席に着くや否やテーブルに突っ伏し『ハ~』と疲労交じりのため息を吐いてすぐに上体をお越して報酬の入った袋を丁寧に両手でしっかり持ってティオに差し出す。


「こちら今回の報酬です、どうぞお納めください」


「あ、はい、確かにお受け取りしました」


若干困惑した表情で受け取っていた。ティオだって本当はこんな借金取りのようなことしたくないはずだろうに、ルナは何をやっているんだ。


「ルナとフレイヤさんはどうしたんだ?」


「お二人ともお昼が終わったらすぐに出て行かれましたよ、街を回ってみるそうですこの街は大きいのでいろんなお店もありますから」


確かにこの街『ハルピュイア』は俺たちが初めにいた町『エレボス』よりもかなり大きい、おもしろい店もあるかもしれない、俺もその内時間があれば散策してみよう。


「ルナの奴ティオに報酬回収を押し付けて遊びに行きやがったのか、けしからん」


ぶすっとした顔で腕を組む俺を見て慌ててティオが首を横に振る。


「違います、違います! 初めはルナさんがここで待ってるとおっしゃてたんですけど私は特に予定もなかったので私から変わりますと言ったんです」


「ティオはどこにも行かなくて良かったのか? こんなに大きな町なんだ珍しい魔法道具の情報もあるかもしれないだろう」


「それはそうなんですけど・・・」


ティオの表情がそこで曇った。体調が優れないのだろうか。


「こんな大きな街に来たのは初めてで、一人で回るのはちょっと不安で・・」


その気持ちはよく分かる、田舎者の俺が都会に行ったときはかなり戸惑ったものだ。人は多いし、駅の路線図は見ても意味が分からず右往左往した。


これはちょうどいい、俺も一人で行動するのは本当にほんのちょっとだけ不安を感じていたから一緒に行動することにしよう、一人じゃなければ何とかなる気がする。


「それじゃあ、一緒に行動しないか? その方が一人よりはお互い安心するだろ」


ティオの顔が見る見るうちに笑顔になって、


「お願いします!」


という訳で、俺はおにぎりを買って、それを急いで喉に詰め込んで水で流し込み、暇そうにしているリアも連れて少し日の傾いてきた街に繰り出した。


「で、何処に行く?」


急いで酒場から出たのは良いものの何処に行くのか決めてなかった。この街にどんな店があるのかもよく知らないし、適当にぶらつくのもそれはそれでいいが。


「ここに行ってみませんか?」


いつのまにかティオが街の案内図みたいなものを広げあるところを指差していた。


魔法道具史料館か、いかにもティオが好みそうな場所だ。史料館なんて学校の行事以外では行くことは絶対に無いな、でも他に行く所もないし行ってみるか。


「じゃあ、そこに行こう、リアもそれでいいか?」


「わしは何処でもかまわんぞ」


決まりだな、さっそく出発だと意気込んで地図を確認してみる。


「これは、歩いていくにはかなりの距離があるな」


思いの外離れていて少し驚き、するとリアが俺とティオの間から頭を滑り込ましていて地図を眺める。


「わしはこんなに歩きとうはないぞ、行くなら負ぶってくれ」


魔法道具史料館は街の北区に位置するようで、俺たちがいるのが南区だから歩いていくにはかなりの距離がありそうだった。疲弊した今の俺の足でリアを負ぶってそんな距離を歩いたら足が爆発してしまう、いやむしろ負ぶらなくても爆発だ。タクシーや電車みたいなものはないのだろうか。


困って頭を悩ましていると、


「あのゲートを使えば簡単に移動することが出来ますよ」


とティオが指差す先には石造りの門のようなアーチ状の建物が建っており、人が出たり入ったりしている。


「あのゲートは街の中央区につながっていて、そしてその中央区に北区に行くためのゲートがあるようです」


一瞬で移動できるゲートが街にあるとは何ともファンタジー色が強くなってきたじゃないか、すごくワクワクする。


ゲートに近寄って見てみると思ったよりも薄く、ゲートの内部では水のようなものがうねうねとしており先は良く見えず、人が出入りすると淡い光を放っていた。


さっそくゲートに入ってみるとまばたきする暇もなく一瞬で目の前の光景が変化した。


「おぉ」


移動して来たのは広場のような場所、真ん中には噴水がありベンチも所々に用意されている。適度に木が生え空気も良く管理の行き届いた清潔感のある公園のような場所。


中央区というのだからこの場所が街のちょうど中心にあたるのだろう、ここから北区、東区、南区、西区にそれぞれ移動できるようになっているせいか人の往来も激しい。


「ほぉ、人がいっぱいじゃのう、こんなのを見るのは初めてじゃ」


リアが変にはしゃいでいる。


「そうですね、はぐれないように気を付けないといけませんね」


ティオもこの活気に少し気後れしているようだ。


「はははっ、人がまるで街灯に群がる羽虫のようじゃな、どんどんゲートに集まっておるわ」


笑いながらどこぞの大佐みたいなことを言い出したので急いで周りに聞かれていないか確認した。


良かった・・誰も特に聞いていないようだ。


ホッと胸をなでおろす、ティオも少し苦笑していた。


はぐれないように手を繋ぎ、人込みを縫うように進んで行き北区へのゲートに入る。


そして案内図に従って歩いていくと魔法道具史料館らしき建物が見えてきた。手持ちの案内によるとレンガ造りの三階建てで築およそ60年の古い建物のようだ。実際に見てみるとかなり大きく、きれいだ。定期的にリフォームでもされているのだろうとても築60年には見えない。


受付で入館料を支払い中に入る。


中の様子はこれぞ史料館というもの、道具がガラスケースの中に置かれいくつも並んでいる。

歴史的価値の高いものなのだろう、どれも厳重に守られている。

とはいえ人は俺たち以外にはあまり見受けられない。どれだけ貴重な品だろうと昔の物、歴史に興味が無い人は新しい物の方に惹かれていく。

ティオみたいに目を輝かして一つ一つしっかり目に焼き付けようといった勢いで食い入るように見ている方が珍しい。

俺もどちらかといえばそういうのには興味が無い部類だがこれは異世界の歴史、目に入る物全てが真新しく結構楽しい。

リアも俺と同じで初めてのものばかりですごく楽しんでいるようだ。


せっかく来たんだからしっかり見ておこうと全部見て回る覚悟でガラスケースの中に目をやる、中にあったのはでかいペンのような古びたものだった、説明を読んでみるとそれは今からおよそ100年くらい前に使われていた魔法道具で名前は”限界を超越したるペン”という名前らしい。


すげ~カッコいい名前だ。


説明の先を読んでみる、何々、このペンは壊れるまでいくらでも書き続けられる。


・・・・何だそれ。


名前負けしすぎだろ! 俺のいた世界であればすごいと思うけど、魔法あふれるこの世界でその性能はどうなの、というかそれ以前に壊れる時点で限界を超越してねーよ、壊れた時がこのペンの限界だよ!!


まぁこれは100年も前の道具だから、それくらいの欠点があっても仕方ないだろう。(現在はもっと軽量化され同じ性能のペンが安価で出回ってます、もちろん名前は限界を超越したるペンではありません)


他のも似たり寄ったりといった感じだったので適当に見て回ってるとあるものに対してきれいに二度見して目を疑った、その魔法道具の名前は、どこでもいけるかもしれない扉・・・行ったことのある町や村を頭でイメージして扉を開くとその場所に繋がっているといういろんな意味でびっくりな道具があった。

今は転移魔方陣があるから必要ないな・・・うん。


気にしたら負けだ。


そうこうしていると突然、


「ほっほっほっ、若いのにずいぶんと熱心ですな」


と言いながら腰の曲がったおじいさんがサンタのようにたっぷりと蓄えた髭をいじりながら現れた。


誰だ、この爺さんは? この史料館の人だろうか。


「あなたは、ここの人ですか?」


聞いてみると、


「わしはこの館の館長をしとるジグルズというものじゃよ」


と答えた、その答えを聞くと同時にティオがすぐさま駆け寄り、


「ここの館長さんなんですか!? 私ティオと申します、魔法道具について色々と調べてまして・・・」


勉強熱心な優等生のように目の色を変えてジグルズ館長にあれやこれやと質問している。


俺とリアは最初は話を聞いてはいたが、途中からチンプンカンプンになったので二人で適当に話が終わるまで遊んでいた。


外は暗くなり始めていた。



第十八話 END










評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ