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第百八十四話 回想⑩

放心状態のままへたり込むオルキアにジェスターが近づこうとするのを見てヴァイスはボロボロの身体を引きずって間に入った。


「やめて、下さい‥‥もう、これ以上、奪わないで下さい。俺が、みんなを説得します‥‥抵抗を止める様に‥‥そしたら」


命だけは助けられる。

自分の所為で家が焼け、死者が出た。

死んでしまった者はもうどうしようも無い。返せと、元に戻せと内にある怒りをぶつけても戻らない。

だからせめてこれ以上は血が流れない様にと感情を押し殺して願った。

だが、提案はあっさり却下。


「いや、いい。どうせこんなのいつまでも続かないでしょ」


その言葉通り抵抗をする者の数は少なくなっている。

次々と殺されて行く仲間の姿に恐怖したのだろう。従えば命だけは助かる、ならその方がいいと。

これで死者は出ない、その事実に少しだけほっとした表情を見せたヴァイスに「良いことを教えてあげよう」とジェスターは耳打ち。


「残念だけどここのエルフはどのみちみんな殺される」


恐ろしい言葉を平然と吐く。

そんなのを聞かせてどうしたかったのか?恐らくただ絶望する表情が見たいという下衆な考えからのものだろう。

とうとう抑えていた怒りが爆発した。


「テメェ殺してやる!!」


持てる力を全て使って殺すつもりで魔法を放とうと試みるもジェスターは想定していたのだろう最悪の方法でそれを阻止する。


「やめておいた方がいい。俺は気にしないけど彼女がどうするかは分からないから」


そこにはオルキアを押さえつけるイシュの姿が。

自分が足手まといになってしまったと思ったのかオルキアは「ごめんなさい」と何度も謝っている。


「クソ野郎が‥」


「随分な言い草じゃないか。別に俺は君が抵抗しなければ彼女を傷付けるつもりは無い。こんなに綺麗な女性そうはいないからね」


身体を見回すその目が気に入らなくて今すぐにでもあいつを遠ざけたい。きっとこの場にいる妖精達も同じ事を思っているはずだろうが下手に手出しをすればオルキアが危ういと分かっているから何も出来ないでいる。


「しかし彼女が向こうに連れて行かれれば遅かれ早かれ死んでしまうだろう、だから俺のものにしようと思うんだ。そうすれば彼女は殺される事なく幸せに暮らせる、彼女だけでも俺は救ってあげたいんだ。魔族だからみんな殺してしまうなんて残酷だろう」


「やっぱりジェスター様は優しいんですね」なんて言葉をイシュが吐く。

どこが優しいんだ?

ジェスターの全部を肯定するしかしない歪な関係には恐怖すら覚える。


「自分のものにするって、お前一体どうするつもりだ?」


「俺のパーティーに加わって貰うのさ、そしてみんなで幸福に暮らすんだ」


何を馬鹿な事を言ってるんだ?

里を壊したお前なんかと幸福に暮らせるわけがない。

そんな当たり前のことも分からない異常者なのかそれとも何か方法が━━━っ!


「まさか洗脳でもするつもりかてめぇ!?」


「変な言いがかりはよしてくれ、俺は死の窮地から救ってあげるだけだ」


そう言って右手をオルキアの頭に伸ばしそしてそっと手を添えて数回撫でる。


「怖い思いをさせたね、でも俺が君を守るからもう何も心配しなくて━━━」


「━━━触らないでっ!」


ジェスターの言葉とは裏腹にオルキアは嫌そうにその手から離れようともがく。

「どうして」とジェスターは驚きを浮かべるがすぐに原因が思い付いたのかはっと目を見開く。


「この女、俺以外に好きな奴がいるのか」


ちっと舌打ちをして忌々しそうにオルキアを掴み乱暴に近くにいた騎士に放り投げて指示を出す。


「この女を連れて行け、俺の物にならないのなら他のエルフと同じ末路を味合わせてやるだけだ」


「待てっ!」


「うるさいな裏切り者が。いい加減にしないとこの場で━━」


「━━ジェスター様っ!!」


慌てた様子で森の奥から走ってきた兵士が言葉を遮る、そして息も絶え絶えに伝えられる言葉はジェスターにとっては不愉快、だがヴァイスにとっては希望となるものだった。


「後方より突如として魔族が現れました!」


「数は?」


「一匹、です」


「たった一匹くらい対処できるでだろ。結構な数いるんだし曲がりなりにも騎士だっているんだしさ。そんなのいちいち報告して来ないで欲しいんだけど」


「それが単機とはいえ相当な手練れのようで恥ずかしながら我々では足元にも及ばず少しの時間足止めするのがやっとの状況で‥‥」


「やれやれ、弱い奴が幾らいても無駄か、仕方ないけどこれじゃあ俺が行くしかない。お前たち、エルフの老いぼれは殺していいがそれ以外は出来るだけ生け捕り、それとそこの男も拘束して連れて行け、じゃあ後の事は任せる」


大きく溜息をついて面倒そうに森へと向かって行く後をイシュもついて行った。

残された兵士は指示通りヴァイスを拘束しておこうと手を伸ばすが風が阻止した。

ヴァイスには見えないがどうやら風の妖精のアウラが手を貸してくれたのだ。

風に煽られ仰向けに倒れた兵士に対してヴァイスは容赦なく剣を突き立てる。

そいつは顔見知りだった、でももうそんな事気にしていられる状況じゃない。

馬鹿な自分が騙され、裏切られ、招いたこの惨劇に対して出来る償いは一つ。

人間を、仲間を皆殺しにしてでもみんなを救い出す。


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