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第百八十話 回想⑥

願い通り騎士となったヴァイスはムスケルに鍛えられた実力を発揮して魔獣討伐や盗賊団の壊滅など結果を残し一つの隊の長を任される程には重要な席へと昇り詰めていた。

そんな最中起きた突然の魔族の王都侵略、幸か不幸かその際遠くへ出ていた事もあってヴァイスは無事だったが帰る場所を失いおまけにかねてよりの願いも実現が難しくなった。

魔族の襲撃に遭い仲間を減らす日々、そんな危険がそこかしこに存在するようになってしまった世界に残してしまっている家族の身を案じ夜も眠れないでいる者もいる。

行く先行く先で助けを求められ無理だと告げて怨みの眼差しを向けられる日々。

結界が無くなり力を取り戻した魔族複数を相手にするなんて一つの隊では無理な話、騎士と言えど市民の為とは言え殆ど自殺行為に近い行いができるほど高潔な勇気は持ち合わせていない。誰だって命に優先順位はつけている。

ヴァイスだってそうだ。オルキアとの約束もあるし死ぬわけにはいかない。

しかしこのまま逃げ回ってるだけでもいつかは限界が来る、そう考えたヴァイスは反乱軍を組織することに決めた。

戦っている人間がいるという情報を流し仲間を集める。勿論危険もあるが数を集めることが魔族に勝る唯一の方法。個では争う勇気が出せなくとも反乱軍という存在があれば戦う意志を見出せる者もいるはず。

その目論見通り人は集まった、とはいえ助けを求める人間全てを助ける事は叶わない。

危険度合い、そして損益で見捨てる事もしなければならなかった。

感謝の言葉を受け、それと同じくらい蔑みの言葉を受けながら命の選択をして生き繋いできたおかげでどうにか地獄を生き抜いた。

そしてそんな日々も唐突に終わりを迎える。

知らない誰かが長たる魔族を打ち倒しそれと同じくして各地に散らばる魔族が急速に数を減らしていった。

本当に突然湧いて出たかのように希望が現れた。

多くの民はその希望の出現を喜び祝福の言葉を送る、しかし既に失った者は何故今? もっと早ければと身勝手に恨みを抱く者もいる。

ヴァイスは前者、多くの犠牲があったのには事実だがこれ以上の犠牲はもうないそれだけで十分。救いを与えてくれたその誰かに感謝し、そして憧れた。


一年にも満たない魔族の世界、心配していたエルフの里は特に争いもなくみんな無事、キオリナもオルキアも元気にしていた。ムスケルは住んでいた村に攻め入ってきた魔族と戦いになったそうだが特に怪我もしていない、しかし同族が起こした事態に心を痛め何か出来ることはないかと魔族の被害を受けた街や村で復興の支援をする為各地を回っている。

ヴァイスは魔族を打ち倒した救世主アルセリアに騎士としてそして反乱軍を纏め上げた成果を買われ上級騎士へと、そして今現在、騎士の階級の最上位にあたる聖騎士の称号を与えられたジェスターの下について働いている。


「やあ、ヴァイス」


親しげな声に呼ばれてヴァイスは慌てて敬礼。


「いいよ、歳も同じくらいなんだしそういうのはやめてくれ」


「しかし自分と聖騎士であるあなたとでは立場が違いすぎます」


聖騎士の称号は特別だ。

たった一人で魔族大勢を相手取る事の出来るような人を超えた人だけが与えられるもの。

暗闇に包まれた世界に突如として現れた民にとっての希望の星。

初めて会った時はまさかこんな自分とそう変わらない奴がなどと疑いもしたが一緒に任務をこなしてよく分からされた。

格の違いというものを。

ヴァイスにだって自負はあった。(自称)魔族でも指折りの実力を持つムスケルに鍛えられ騎士の中でも頭一つ飛び出ていた、一対一であれば魔族とだって張り合えたというのにそんな自分がまるで子供のように思えるほどの差がそこにはあった。

剣の一振りで魔族の体を両断し高い魔力を持つ魔族の魔法を魔法によって呑み込む、そんなとんでもない事を済ました顔でやってしまうのだからもはや対抗意思すらも起きない。本来勝気なヴァイスでも別次元の存在だと到達する事を諦めてしまう高みにいる。

本当に立場が違い過ぎる。


「俺は別に普通だよ、だからそんなに畏まらないでくれ」


「そういう訳には━━━」


「ジェスター様〜!!」


厳かな王城内には似つかわしくない黄色い声を響かせながら女性が一人凄まじい勢いでヴァイスとジェスターの元へ向かって来る。


「イシュ、ここでは静かにね」


「あわわ、ごめんなさい!」


イシュと呼ばれた女は大袈裟に頭を下げる。


「急いでたみたいだけど俺に何か用?」


「そ、そ、そうなんです! 北にある偽りの英雄さんの城の奪還作戦の件に関して話があるので今城に居られる聖騎士の皆様に集まって欲しいとの事です」


「その件に関してはルナとネアが対処に当たるんじゃなかったっけ? 一番の危険要因であるあの城の主人はアルセリアが討ち取って不在、残るのは雑魚だけで俺まで出る必要はないはず」


「その予定だったんですけどそこにはどうやら他の大物が潜んでいるらしいんです」


「大物?」


「通称魔王城と呼ばれ市民に恐れられる城の主人ゼルゲイ、彼とその妻と娘。そして魔族による侵略行為の発端となった姫と呼ばれる存在。そういうのが集まって反撃の機会を窺っているとか」


「そういう事か。分かったすぐ行くよ」


ジェスターはヴァイスに「それじゃあ」と告げてその場を去ろうとするのでヴァイスは敬礼を返す。一方その後をついていくイシュはまるでヴァイスの存在など見えていないかの様に視線すら向けずてくてくと軽やかな足取りで立ち去っていく。

随分な態度の変わりようだが慣れている、ジェスターの周囲にはこの手の彼以外目に入っていない女性が多い。

しかしヴァイスは慣れているとしても良く思わないものもいる。女を侍らせてふざけてるなんて声もちらほら。

そう言ってるのは殆どが年上の騎士。ジェスターは歳上からの受けが悪い。

若くして聖騎士なんて称号を手にしている事への妬みもあるのかもしれないが他にもジェスター自身に問題もある。

彼は歳上に対しての敬いというものがない。ヴァイスにするような態度を誰に対してもしてしまう。歳の近いヴァイスなら特に気になることはないのだが階級よりも年の功なんて思っている奴は若造が生意気だなんて思うのだろう。

魔族が蔓延っていた時は散々持ち上げておいて落ち着いたら文句に変わる、随分身勝手だ。

自分は変わらず支えていこうと心に決めていた。


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