第十七話 因果応報
食事を終え雑談もそこそこにしてさっそく仕事に向かうことにした。
俺のみんなのためを思った素晴らしい提案はルナに即刻切り捨てられ、結局いつもの簡単な依頼に行くことになった。
目当ての魔物を見つけ、みんながすぐさま戦闘態勢に入る、フレイヤが敵の行動を封じる魔法をはなち、ルナが敵に斬りかかり、ティオとリアが魔法で攻撃する。これが俺たちの必勝パターンだ。
え、俺が何してるかって?
俺は敵を見つけると武器を構え、一応敵の近くらへんに行きこんぼうを振り回し、なんかすごく戦ってる感を出し、戦闘が終わると駆け寄り勝利を共に分かち合う。
え? 何もしてないだって…………仕方ないじゃんみんなが強いんだから、そりゃあ俺だって最初の内は武器を手に勇ましく魔獣に駆けて行って戦ったけど、ぶっちゃけ他の人に任せた方が早く終わるんだもん。
みんなもそんな俺に気付いているのか、いないのか、特に何も言われないので現在の戦い方で落ち着いている。
もしかしたら本当に誰も気付いていないのかもしれない。自慢じゃないが俺は何かやってる感を出すのは得意な部類だ。
学校の体育の授業でサッカーやらバスケをやるとき普通の人ならボールを早く貰って活躍したいと考えるだろうが、俺は違う! 何しろ運動神経が呆れるほどに無いからな。
味方にパスされようものなら途端にテンパって意味不明な場所にボールをスルーして、白い目で見られるのだ。
そんな俺が身に付けたのが秘技”何かやってる感”だ。
これは、例えばサッカーやバスケなら敵に近寄り何かマークしてる感を演出することで今はボールを受け取れないと味方に暗に伝える技だ。
この技のおかげでみんな気付いていないのかもしれない。
それはさておき、今日は依頼の討伐数が多いせいか街の周辺にいる魔獣を倒しただけでは目的の数には足らずあと二体討伐しなければならなかった。このままでは少し遠くまで行かなければならなくなる、時刻はお昼のちょっと前、今日は午前で終わるつもりだったのでお弁当も持ってきていない。ランチが遅くなりそうだ。
「みんな・・はぁ・・あとちょっとだ頑張ろう」
魔獣がいなくなり閑散とした平原を歩きつつ、疲れの様子を見せ始めてきたみんなを元気づける。
正直、俺は戦ってないのでほとんど疲れてはいないが、元気一杯でいうのも申し訳ない気がしたのでちょっと疲れているふりをした。
歩みを止めて、両ひざに手をやり『ふー』と少し息を整えてからルナが突然口を開く。
「ちょっと待って、この中に一人ぜんぜん戦ってない奴がいる」
「何を言ってるんだ、そんな奴がいるわけないだろう。みんな必死で戦ってるんだ、お前少し疲れてるんだよ少し休むか」
ジト目で細い人差し指をピンと立てて一点を指差す、その指は真っ直ぐおれを捉えている。
「あんたよ、あ・ん・た!」
うん、バレてたか。
できるだけ顔色を変えずに現状を打破する方法を考える。うなれ俺の脳細胞、ひらめけ言い訳。
そんな中、俺に予想外の助け舟が入った。
「ルナさん、そんな事を言ってはいけませんよ、ユウタさんは万が一の時のために余力を残していらっしゃるんですよ」
フレイヤさんだ、フレイヤさんは女神のような笑顔で俺を庇ってくれた。
この流れに乗らない手はない。
「そ、そうだ、みんなが動けないほど疲れている時にもしものことがあったらどうする、俺はそんなときのために体力を温存してるんだ、けっしてサボっている訳では無い、断じて違う」
胸を張り堂々と答える。
「そんな訳ないでしょう、絶対にサボりよ!」
眉間にしわを寄せながら、当然の如く否定してくる。
「いえ、私はユウタさんを信じてます」
フレイヤさんあなたって人はそこまで俺のことを・・・・感謝感激です!
「ところでユウタさん、私何だかとても疲れてしまいました。もう動けそうにありません。ですので、あとはお任せしてもよろしいですか?」
百点満点の笑顔でとんでもないことを言ってくる。
ルナも何かを察したかのように、いたずらっ子のような笑みを浮かべて、
「そうね、私も動けそうにないわ、今こそあんたの出番よ」
あー、そういう流れになっちゃいます。額から汗がにじみ出てくる。
「いや、でも、一人に押し付けるような体制はあんまり良くないんじゃないかな~~なんて」
むなしい抵抗をつづける俺にルナの睨みつけるが炸裂、その目を前にして俺は蛇に睨まれた蛙のように固まり抵抗を封じられる。
「それではあとはよろしくお願いします。私はランチの時間なのでこれで失礼させて頂きますね。ユウタさんの無事を神に祈っておきますので」
「それじゃあ、あとはまかせたわよ」
「がんばるんじゃぞ」
みんな帰ろうとしている、まさか、待っていてもくれないとは・・・とほほ。
がっくりと大袈裟に肩を落としている俺がまるで見えていないかのようにみんなが一カ所に集まろうとしている、フレイヤさんの転移の魔法で帰るつもりなのだろう、そんな中ティオだけは俺の方に駆け寄って来た。
「わ、私は最後まで手伝いますから、頑張りましょう」
俺よりも年上ながらも幼さが残る透き通った瞳で見上げ、心配と励ましの二つがこもったような温かい声色で言った。
涙が出そうになった、が、その気持ちだけで十分だ。
俺は手を胸の前に突き出し握り拳から親指をピンと天に突き立て感動で声が震えるのをなんとか抑えて努めて明るく目の前の天使に告げる。
「ありがとうティオ、だが後は俺に任せておけ、ティオもみんなと帰ってランチを楽しんでくれ」
さすがに一人だけ手伝わせるのは申し訳ない、想いだけをありがたく頂戴する事にしたのだがティオは「けど・・」と動こうとしない。だからそんなティオの体をみんなの方に向けて軽く背中を押してやる。
「あとは俺に任せとけ」
そう言い残し背を向ける歩き出す。
少し歩いて、やわらかい風が頬をかすめた。
それと同時に振り返ってみると、そこにはもう誰もいない。雄大な平原のなかに時々吹く風の音が寂しく響いていた。
俺は涙を呑んで歩き出す。
己の任務を果たすため、己の罪を贖うため、後ろは振り返らない、ただ前に。
これからはちゃんと戦おう、そう心に決意した。
第十七話 END