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第百七十一話 探索part③


「じゃあお前が右で俺が左な」


結局俺はヴァイスの提案を受け入れ二人で北側への入り口までやって来た。


「殺すなよ」


こいつは人殺し、何をしでかすか分かったもんじゃない。こいつがこれから誰かを殺せばその責任は俺にある。


「殺した方が手っ取り早いだろ」


「だったら今ここで阻止する、罪も無い一般人を殺させるわけにはいかないからな」


「おうおうご立派な事で、でもお前も俺と同じ人殺しじゃなかったか?」


俺のは違う、そう言おうとしたが言えない。

自分の中では自分の殺しは仕方が無いと言える類のものだと思ってた。

殺しによって自身の嗜虐心を満たす、嗤いながら他者を殺す様な奴を殺した。

人であれ魔族であれ弱者の側に立って救おうとして殺した。

人にも魔族にも属さず逃げ回る最中で目撃した多種多様な残酷さが頭にこびりついて離れずあんなのはもうごめんだと頭に血が上って自分の正義をぶつけた。

でもルナに言われた事が俺の正義を揺るがした。

自分が殺した連中は本当に残酷な奴らだったけどそいつらをそんな風にしてしまった原因もちゃんとあったのでは無いだろうか?

例えば家族がやられた事をそのままやり返してるとか。

無関係の相手にやり返してる時点で間違いではあるがその行動は理解出来なくもない、仮にリアがどちらかに殺される様な事態になれば俺は殺した側を許せないと思う。

ここに来て俺は自分が殺した相手をただの悪だと切り捨てる事が出来なくなって来ている。


「人殺しだよ、でもお前みたいに誇っちゃいない、殺しが綺麗なことじゃないって事くらいは分かってるから止める」


「綺麗ねぇ‥‥クククッ」


「なんだよ?」


「いや、正しい正しくない云々を抜かすならここでテメェをぶん殴ってやろうと思ったが綺麗ならまあ良いだろう。少なくともテメェは殺しが間違いだとも思ってないって事だろう? 綺麗なものは見ていて気分がいいがそれだけじゃ世の中は回らない、汚ねぇものもあってこその世界だ」


確かにそのとおり。

だって殺して救えた笑顔もあるのだから。

殺さず救えるのが一番と言われるかもしれないがそこで殺さなかったらその見逃した誰かは別の時、別の場所で誰かを殺したかもしれない。

自分のやったことに迷いは生じているが肯定も否定も出来てない、こんなところでもやはり半端者だ。


「良いだろう、今回は従ってやるよ。殺せば色々面倒だし、行き当たりばったりで脱獄出来るかも分かんねぇのにそんな事しちまって見つかったら腕輪を付けられて牢屋行き、また実験室用の魔力供給装置に逆戻り」


「実験室?」


「ああ、この場所はイカれてる。こんな俺がそんな言葉使うくらいにはな」


普通ではないと思っていたがこれはなんともきな臭くなって来た。

聖剣がある、そんな話に釣られてこんな場所まで来てしまったがこれはひょっとして俺騙されてるんじゃね?

頭の中でフレイヤが笑う姿が浮かんだ。




監獄、それは罪人の自由を剥奪し矯正する場所。

しかし手のつけようのない者は現れる、再び社会に送り出せば新たな被害者が出来上がると目に見えている極悪人が。ここはそんなどうにもならないと見切りをつけられた者を処刑する場でもある。


「ここは死刑を告げられた奴がぶち込まれて最後を迎える場所でもあった。処刑方は人道的に首刎ねと表向きはされてる」


「表向き?」


「ああ、表向きだ。実際のところは死刑囚を使って密かにあれやこれや実験してたんだとよ。頭掻っ捌いたり投薬したり、解剖それに精神的に追い詰めたり、それはそれは残忍な事をさ」


「何でそんな‥‥」


「決まってんだろ、敵の弱点を探る為さ。人間にとって脅威になりうる存在をいかに打倒するか、要するに魔族をどうやって殺すか必死になって見つけようとしてたのさ」


「それじゃあ死刑を言い渡された魔族だけがこの場でそんな扱いを受けたってのか?」


「それなりの事をした奴らだ、死に方が悲惨だからと言って俺は同情の余地なんてないと思うがな。俺が言うのもなんだがやった事の報いを受けただけだ、そういう奴らは仕方ない」


淡々とヴァイスは語る。

俺もどちらかと言えばそちら側だ。死刑囚にまでなる様な罪を犯した奴がどんな悲惨な最後を迎えようがあまり思う事はない。むしろ配慮されたやり方で一瞬で楽になるなんて方が気に食わない。

だがそうやって行われた実験が今に活かされ何の罪もない魔族が殺されているんだとしたらこれほど最悪な事はない。


「ただそれだけで済めばまだマシだったんだが残念ながらここの闇深さはそんなもんじゃない。ここの奴らは身寄りの無い魔族をあちこちから掻っ攫って実験道具にしてたらしい。居なくなっても誰も声を上げない、そんな条件を満たしただけの清廉潔白な魔族をな、そうやってどこぞの魔族の陛下様に気付かれないよう慎重に事を為した。いくら英雄と言えど一人では見える範囲には限界があるからな」


罪人だけが連れてこられたのでは無いとしたら姫様の友達とやらも本当に何もしてないのにこんな場所で酷い目に遭ったのだろうか。

だとしたら陛下が気付くことができれば、それか関わった連中の中に少しでもまともな思考を持ったこんなのはおかしいと思える人間がいて止められていたら後のこんな大勢が犠牲になる争いには繋がらなかったかも知れないと思うと悔しさがある。


「で、何でそんな事を知っている? 密かに行われていたならお前が知ってるのはおかしくないか?」


自分勝手で人殺し、ここで得たこいつの情報から瞬間よぎったにはこいつも何かしら関わっているのではと言う可能性。

頭は良さそうでは無いから恐らく調達係、魔族を捕まえる役割を担っていたのではないだろうか。

そんな疑心を抱いているのを目から読み取られた。


「勘違いするなよ、俺はそこには何も関わっちゃいない。色々と詳しいのはお前と同じで特別な手段を持ってるだけだ。お前が牢を自由に抜け出せる理由と俺がお見舞いした傷がもう完治してる理由を話すなら教えてやっても良いがどうする?」


傷の事にも気付いていたのか、鈍感そうに見えて案外鋭いな。


「何で一個聞くのにこっちは二つ答えないといけないんだよ、不平等だ」


「平等なんて糞食らえだ。テメェが聞いて来たんだろ、知りたきゃ条件を飲め、嫌なら黙ってろ。俺らは一時的に手を組んだだけ、明日には俺はテメェの事ぶっ殺してるかもしれねぇ間柄、互いについて知るなんて気持ち悪い事俺は勘弁だ。まあ腹割って話したそばから腹掻っ捌いて殺すってのは笑えるけどな!」


はははっと何が面白いのかさっぱりな冗談で一人笑っている。


「だが信用出来ないってならここでお別れだな。牢から出れた時点でお前なんか必要無かったがお情けで協力してやったんだ感謝しろよ」


「お前、この監獄から出たいんじゃないのか?」


「ああ、そうだが」


「じゃあ出口は北側じゃなく南側、目指すべき方向が反対じゃないか?」


南から先に行った場所が入り口、北に行けばさらに奥深くに進む事になる。

俺は探し物があるから奥へと向かうが脱獄するなら向きが逆だ。

指摘するとヴァイスは腹を抱えて笑い出す。


「馬鹿かテメェは! このまま入り口に向かってはいどうぞご自由にって出れるとでも思ってんのか!? どんだけ能天気なんだよ!」


うっ、それは確かにその通りか。


「ここでは施錠に他では干渉できない魔法が使われている。牢に至っては看守が持つ鍵で一時的に魔力を切断し解錠出来るが出入り口や特別な区画への門扉にはまた違った鍵が必要となる」


そう言って得意げにヴァイスは倒れた看守に手を伸ばす。


「まずはこいつが持ってる北側への鍵を手に入れ次に北側からこの監獄の周囲を取り囲む壁の上に出る、そこから入り口の門の所まで行って開閉装置を作動させる。俺の脱獄計画の第記念すべき第一段階の鍵がここに‥‥‥‥あれっ? なかなか見つからねぇな、どこだ‥‥ここか?」


「どうしたんだ?」


「うるせぇな黙ってろ!」


「見つかんないのかな?」


にちゃあと笑みを浮かべてやる。


「違ぇよ馬鹿がっ!」


「夜になると人も少なくなるし警備上の問題で内側からしか開けられないとかじゃない? 今みたいに警備が倒されてあっさり開けられたら困るからさ」


「‥‥‥‥」


「まあ俺ならなんとか出来ちゃうかもな〜、お前の牢も鍵無しで解錠出来ちゃったし。あ〜でももう俺なんか必要無いんだっけか、一人でどうにか出来るんだよなぁ〜」


困ってる嫌な奴がいたらここぞとばかりに追い討ちをかけなさい。

意地汚い? 知らん。


「‥‥開けろよ」


「ん、何だって?」


「だから開けろって言ってんだよ、どうせお前もこの先に行くんだろうが」


「ちゃんと鍵を使った方がいいんじゃないかな、正規の方法でやらないと何が起こるかも分からないし。鍵、あるんでしょ?」


「無かったんだよ! いいからっさっさと開けろやボケがっ!!」


「つまりお前の素晴らしい脱獄計画は初っ端で頓挫していたと‥‥‥俺がいなかったら大変だったな感謝しろよ」


ざまぁ‥‥いやいや、どんまいという面持ちでぽんと肩に手をやるとその手を目一杯捻られ感謝を示された。

北側への扉も師匠の刀で触れるだけで本来踏むべき手順を全て無視出来る。肝心要のロックの部分が魔力を利用した仕掛けで成り立っているおかげだ。目に見える物体で扉が開くのを阻止しているわけじゃ無いおかげで壊すと言った力尽くの方法では絶対に開ける事はできないと言う利点はあるがこういう想定外の方法には弱い。まあ扉自体を破壊してしまう手段もあるがこの分厚い鉄をどうこう出来る奴なんて普通いない。



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