第十六話 完全敗北
毎度同じく朝から酒場の扉を開く俺達。
朝っぱらから馬鹿でかい声で喋ってるうるさい奴、酒を飲んで顔を赤らめてる奴、掲示板を確認してる奴、いろんな人が朝から酒場に集まっている。
とりあえず、まずは朝食だ。席に着き水を持ってきてくれた店員に注文して料理が到着するのを待つ。
「今日はどうします?」
ティオが水を口に運びつつ今日の予定について聞いてきた。
「午前中に簡単な依頼を2~3個こなして、午後はそれぞれ好きなことをするようにすればいいんじゃない」
腕を組み、椅子に深く腰掛けてルナが答える。
「私もそれで構いませんよ」
フレイヤも同意する。
リアは眠たそうにあくびをしている。
しかし俺は同意するわけにはいかなかった。昨日カジノでそれなりのお金をすっちまったのだ、簡単な依頼では大した稼ぎが期待できない、ちょっと大変でも稼げる依頼がいい。むしろそうでないと困る。
「異議あり!!」
片手を高々と上げみんなにしっかり聞こえるように言った。
「お待たせしました」
店員の女性がちょうど注文していた料理を運んできた。
みんなが注文したのはモーニングセットA、ご飯と焼き魚といった和風の朝食だ。
俺はBセット、パンとコーヒーといった洋風だ。
「Aセットのお客様」
俺以外のみんなが『はい』と料理を受け取る。
「Bセットのお客様」
「はい、俺です」
手を下げるタイミングを逃してしまい、片手を上げた状態のまま答える。例えるなら、一人でカラオケで気持ち良く歌っている時に店員が来て、すぐ歌うのをやめるのもあれだと思って、小さい声で歌い続けるような感じだ・・・・たぶん。
「ご注文は以上でしょうかそれでは失礼します」と去っていく彼女が去り際にちらっと俺の方を見た気がした、きっと、なぜかずっと手を挙げている変な人とでも映ったのだろう。
「「「「いただきます」」」」
俺以外のみんなが食べ始める。
・・・・・・・・・・・・
「あの~、無視ですか? 俺の異議あり無視ですか?」
以前手を掲げた状態のまま俺。
お箸で焼き魚の身を器用にほぐしながら、こちらを見ずにルナが言う。
「何、さっさと言いなさいよ」
静かに手を下げて、
「俺は思うんだ、簡単な依頼だけこなすだけでいいのか? 自分たちの成長のためにはもっと上の依頼に挑戦することが必要だと、現状に甘んじているだけではダメなんだと」
精一杯真剣な表情を作って熱意を込めて訴えてみる。
「あんた、昨日カジノでボロ負けしたんですってね?」
唐突にルナがそんなことを言ってくる。
「え!? べ、別に、負けてませんけど・・・」
動揺をなんとか誤魔化し平静を装う。
「負けたと言っておったぞ」
ご飯にがっつきながら、リアが余計なひと言を挟んできた。
「ですって」
「・・・・・ああ、負けたよ、だからなんなんでしょう。今私がカジノで負けたことは話の本筋とは全く関係ないように思えますが!」
「負けて大分お金が無くなったんでしょうね」
「べ、別にそんなには負けてません~、ほんのちょっと負けただけです~」
「ボロ負けって言っておったぞ」
ご飯をくちゃくちゃと食べながら、すかさずリアが支援砲撃してくる。
「ですって」
俺は一度リアの方に顔を向け、
「ご飯を食べるときはできるだけ喋らないようにした方がいいかもしれないな」
と注意しておき、ルナに向き直り。
「俺は純粋にみんながもっと上を目指すにはどうしたらいいかを・・・・」
そこまで言うと、ルナが言葉をかぶせるようにして、
「負けてお金が無くなったからもっと報酬のいい依頼を受けたいんでしょ、魂胆が丸わかりなのよ」
完全に読まれていたようだ。俺が昨日カジノに入ってからこうなることを予測していたのだろうか。
「・・・・・はい、そうです、おっしゃる通りです、お願いします」
両手を合わし、テーブルに頭をつけお願いする。
「却下」
何の感情もないような冷たい表情で無慈悲なひと言を俺に告げる。
ティオは苦笑し、フレイヤはこちらを気にもせず、リアはずっとご飯に夢中だった。
俺は黙って目の前に置かれたパンにジャムを塗り頂くことにした。
すごくおいしかった。
第十六話 END