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第百六十七話 一方その頃⑮

正義の味方とやらを自称する女ゼロ。

リアはゼロを前に頭を抱えていた。

腕前だけを見るとかなりの実力がありそうなのだが問題なのはその肩書きである“正義の味方”。

彼女の正義が何なのか見極める必要がある。

一般に人の掲げる正義は魔族の打倒、つまりゼロが人ならばリアにとって味方とは限らない。


「お主は人間、か?」


人か魔族か、まずどちらなのか確認。

普通ならこれだけ近くにいるならリアは匂いで判別できるのだが頭を強く打ったせいか今はそれが分からない、なのでなんとなく思った方で聞いてみる。


「当たり前じゃないですか、どこからどう見ても人間です。私の様に正義を為す魔族なんていませんよ」


今の答えで掴めた。

ゼロという人物にとって悪は魔族、つまりリアは敵側に分類される。


「そ、そうか、やはりのう・・・」


リアは逡巡する。

状況的には敵同士、助けを拒むべきか。しかしゼロは悪い人間には見えない。魔族を特別憎んでいる様子でもない。話が通じないというわけでもないしもしかすれば話せば分かり合えるかもしれない、味方になってくれるなら心強い。

そうこう悩んでいると突然ゼロがリアの身体を抱き上げた。


「な、な、なんじゃ!?」


「このままここにリアちゃんを置いていく訳にもいきませんからね、まず宿へ向かいましょう。あなたはそこでしっかり休む、私は悪を殲滅する、完璧な役割分担です」


「待て待て勝手に決めるな!」


「大丈夫、お金の心配は要りません。私、結構持ってるので奢りますよ!」


「違う金の心配をしてるんじゃ━━━」


「こーら、あんまり騒ぐと傷に障りますよ」


待てと言っても話をまるで聞いておらず宿に向かって直進、このままでは有無を言わせず宿に置いてけぼりにされそうなので少しだけ無茶をしてゼロの腕から抜け出した。


「ちょっ、何してるんですかっ!」


「いいから話を聞け、大事な話じゃ」


リアは自分の正体を明かすと決めた。このまま魔族であることを隠して助けを受けるのは騙している様に感じたから。

魔族であっても人に害意はないとちゃんと伝えれば理解して貰えると信じて。


「もしわしが魔族だと言ったらどうする?」


「殺します」


言葉通りゼロは既にリアの喉元に剣を当てている。温かみのあった表情は途端冷たく変わりそれがただの脅しではないと分かる。


「・・・・嘘じゃよ」


これは駄目だと即撤退。

するとまたしても表情が一変し「変な嘘はやめて下さいよ〜、危うく殺してしまうところでしたよ!」と笑う。


「すまんすまん、ハハハハ・・・」


子供として扱っていた相手にこうも容赦無く刃物を向けられるとは。

事実を言おうものならば即座に裂かれる。これはまだ正体を明かすべきではないと黙っておくことに。



宿に連れてこられベッドに寝かされた。


「ではリアちゃんはここで休んでいて下さい」


そう告げて出て行こうとするゼロをリアが呼び止める。


「待ってくれ。一体どうやって探すつもりじゃ、当てはあるのか?」


闇雲に探して見つかるとも思えない。情報としてあるのは魔族の男というものだけであまり役には立たない。


「ありますよ。そもそも私がここにやって来た理由でもありますし」


「それはどこじゃ?」


「監獄ですよ。あそこは恐らく今現在魔の巣窟となっています、私はそれを正しに来た」


それからゼロはリアが止めるのも聞かず「お任せ下さい!」と何の心配も要らないと言うかの如し眩しい笑顔で言い残しさっさと旅立ってしまった。安心させる為なのだろうがどこか自分の能力を過信している様で今のリアにとっては逆効果、心配で堪らない。

まず初めにゼロがあの男に勝てるのかどうか? ゼロの腕前は見た、実力はかなりあるのは分かったが向こうも相当のもの。そして仮に勝てたとしてもそれはリアにとって新しい脅威となり得る。

もし助け出したクラリスが魔族だと知れればさっきみたいに迷い無く殺しに来るだろう。

自尊心が高く人間嫌いなクラリスは自分は人間だと嘘をつくことはしないだろうし。


「寝ている場合じゃないのう!」


リアはベッドを飛び出し体を引きずってでも自分たちの部屋に戻る。

癪ではあるが今回ばかりはフレイヤの助けを借りねばならない、自分一人ではどうにもできないのだから。

幸運にもゼロに連れてこられた宿と元々泊まっていた宿は同じすぐにたどり着く。


「緊急事態じゃ!」


扉を開き倒れ込む様にして中へ。


「何事です?」


駆け寄ってきたフレイヤに事の一部始終を伝える、すると呆れた様に首を振る。


「厄介ごとを引きつけやすいと思ってましたがまさかこれほどとは・・・」


「うるさい、小言は後じゃ。それよりも今はどうやってクラリスを救うかじゃ、何かいい案はあるか?」


「案と言われましても・・」


危機感をまるで感じない声で頭を傾ける。

仲間の命が危機にあるやもしれないのにそんな態度、愕然としている女騎士の代わりにリアが声を張り上げる。


「お主は全部知っておるのじゃろう監獄がどうなっているのか。だからあやつを送り込んだ、違うか? 黙っていた事は腹立たしいが今は責めん、貴様を追求するよりクラリスが大事じゃ、だから協力しろ」


「協力したいのは山々ですがあの場所に近付くのはちょっと・・行けてもせいぜい入り口までですので大してお役には立てないかと」


「また適当なことをっ!」


「事実です、相性が悪いんですよ私では。だから代わりを使ったのですから」


「相性? 何を訳の分からんことを」


「とにかく無理なものは無理です、私達にできる最善の手はここに留まり祈るだけ、あれが殺す者達の中にお姫様が含まれない事を」


「ふざけるなっ」


悲痛の叫びをあげたのは女騎士。

いつもの覇気もなく顔はまだ蒼白い、ここにいる誰よりも心が悲鳴を上げている、だからこそ自分で行動しなければ耐えられない。無事に戻ってくることを祈るだけなど拷問と同じ。


「私は姫様を助けにいく」


「まぁ貴方ならそう言うだろうと思ってましたので無理に止めはしません、どうせ何を言っても無駄でしょうし」


行くならどうぞご自由にとフレイヤが道を開けるが女騎士はなかなか一歩を踏み出さない。

何事かと訊ねようとしたその刹那、とんでも無いことが起きた。


「頼む、お前らの力を貸してくれ!」


あの女騎士が土下座して頼み込んできたのだ。

リアもフレイヤもあまりの出来事に固まった。


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