第百五十四話 一方その頃②
「・・・・」
「・・・・」
「んんんっ!」
クラリスとフレイヤの間には依然として重苦しい空気が漂っている。
こうして食事を共にしているが仲良く言葉を交わせる間柄では無い。
クラリスの決起の原因、人間の非道な実験にフレイヤは手を貸したと自分の口で語っていた。程度は分からないが少しでも関わっているのであればそれはもうクラリスにとって殺すべき対象となる。
そんな相手と楽しく語らえるはずがない。
しかしこれは良い機会でもある。
敵と繋がっていた相手が仲間割れをして今現在敵意も無く目の前にいる、敵側の情報を引き出すには絶好の機会。
「あなたこれからどうするつもりなんです? ルナとかいう人間に逆らって完全に敵として認識された。もう向こうには戻れないでしょう?」
「そうですねぇ、ルナさん一度こうと決めたら突っ走っていく性格ですから次会ったら挨拶の代わりに斬られちゃうかもしれませんね」
「ふふふ」と呑気に微笑むところを見ると少しも気にしていないように見える。
奴らの繋がりなんてその程度、考えが違えば容赦なく排除しようとする。自分本意な生き物、それが人間の本来の姿。
つまり奴らの間に情など存在しない。以前は味方だったから困るような事はしたくないなんていう感情は少しも持っていないはずだとクラリスは考えた。
「ではこちら側につきませんか?」
「私に魔族の味方をしろと?」
「別に悪い話ではないはずです。あなたはもう人間の側には戻れない、どういう意図があったかは知れませんが結果として魔族である私達をあの女から助けてしまったんですから。そういった人間がどういった末路を辿るのかは重々承知でしょう」
「今頃私は敵対者として周知されているのでしょうね」
「そう! あなたは私たち同様命を狙われる。いずれ人間の側が勝利するなんて事があった時あなたには何処にも居場所が無くなる。でももしあなたが私達に協力して今の状況を変えてくれたのであれば私があなたの平穏を約束しましょう。これでも魔界では一応高貴な身、少しくらいの口利きは出来るはずですから」
こちらでは同じ魔族にも憎まれる大罪者ではあるが魔界では違う。
多くの者が封印を理由に反抗の意思を封じ込める中クラリスは立ち上がり封印を破壊した、その行いが与える印象はこちらと魔界とでは真逆、あちらでは英雄視すらされるほどの称賛を受ける事柄。
その地位をもってすればどうにか出来る。
「見たところあなたは神に仕える身なのでしょう? 人間は信仰を捨てた、しかし魔族はまだ捨てていない。神を殺した人間側と崇め続ける魔族側、どちらがあなたにとって相応しいのでしょう?」
「魅力的な話ではあるのですがやはり私はどちらか一方に偏るという事は出来ません。私は弱いものの味方なので状況次第で立ち位置を変えます。負けそうな方に手を貸して救い出す、それをひたすら繰り返すだけです」
「そんな事して何の意味が? 無駄に争いを長引かせるだけじゃ・・・」
「いえ、それが一番早く、そして確実に争いを無くす方法です」
クラリスはどうにかしてフレイヤをこちら側に引き入れようと努力を試みたが無駄だと悟った。
まるで自分が間違っていると思っていないその自信に満ちた表情を見せられどうやっても崩せないと理解したから。
争いをなくす、その一点では意見が同じはずなのに・・・。