第百五十三話 一方その頃①
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「彼奴は大丈夫じゃろうか・・」
監獄から少し離れた村で未だ帰らぬ仲間のことを思い憂う。
投獄されてから早三日、何の音沙汰もない。
「もしや想定外の事態があって帰れなくなっているのでは、寒い檻の中でわしらの助けを待ってるんじゃ」
フレイヤの事を信用していないリアは心配せずにはいられなかった。
「心配しすぎじゃないですか? あれでも一応不死なんですから大抵の事はどうにでもなりますよ」
「姫様の言うとおり。あいつの生命力はゴキブリ並み、殺したと思ってもまたすぐ湧いて来る。心配せずともどうせそのうちカサカサと不快な音を立てて出て来るさ」
一方、クラリスと女騎士キアラは特に心配した様子も無く温かい部屋で温かい豪勢な料理に舌鼓。
これまで質素なものしか食べれていなかった反動かガツガツと齧り付いている。
「そうですよリアさん。私だって鬼じゃないんですから囚人を使って殺し合いをさせるとか囚人で人体実験するとかそんな危険のある場所に放り込んだりなんてしません安心して下さい! それよりあなたもこちらで一緒に食事を囲みませんか? 全部私の奢り、遠慮なんて要らないのですよ」
胡散臭い笑顔を浮かべたフレイヤの言葉が香ばしい匂いと共にリアを誘惑しようとする。
リアにとってはフレイヤの全てが嘘を纏っている様に思えてしまう。吐き出される言葉も静かな笑みも全部。
だからそんな誘惑には決して乗るものかとブンブンと首を横に振って迷いを断ち切る。
「腹は減っておらん!」
大声で言い放ちそのまま部屋の扉に手をかける。
「何処かへお出かけですか?」
「少し外の風に当たって来る」
「もう日も落ちて気温も下がってますしやめておいた方が良いんじゃないですか? 氷漬けになっちゃいますよ」
「うるさいっ!」
バタンと力強く扉を閉めて行ってしまった。
「まだまだ嫌われている様ですね」
「はぁー」とため息を吐きながらしょんぼりと肩を落とすフレイヤはやはり少々大袈裟で嘘っぽさが滲み出ている。
「当たり前でしょう、あなたのせいでエルフェリシアは死んだんだから。自分にとって大事な存在を死に追いやった相手なんて私なら死ぬまで恨み続けます。もしあなたが本気で嫌われたくないと思っていたならどうしてあんな事したんです? リアとも一応仲間だったのでしょう」
「どこかの誰かさんが魔族の決起を促し散々非道を行って戦端を開いたからですよ、クラリスお姫様」
フレイヤは目を細め冷笑を送る。
その目は責任を追及するというよりは相手の傷口を抉って面白がっている人物の目、クラリスが自身の過ちを指摘され責任感によって作り出される苦しげな表情を眺めて楽しんでいる。
「でもまあ過去は過去、馬鹿な行いをしてしまったからと言っていつまでも塞ぎ込んでいてもどうにもなりませんよ。気持ちを切り替えて前向きに行きましょう!」
嗜虐的な表情を浮かべたかと思えば次の瞬間には穏和な表情に変わる。
クラリスにはこのフレイヤという人物が何なのかまるで掴めずさらに警戒を高めねばという考えに至ったのだが女騎士は何も考えない。
「貴様ぁ! 姫様に向かって馬鹿とは何だ馬鹿とはっ!」
女騎士は食事中でありながらも敬愛するクラリスの悪口には反射的に反応。
姫様を傷付ける相手には黙っておらず物凄い剣幕で言い返す・・・例え堪能していた美味しい料理を口から飛ばしながらでも。
「食べながら喋るなんてお行儀が悪いですよ」
すると女騎士の口を塞ぐ様に鎖が出現。
汚い罵りの言葉も口の中で噛み砕かれた料理も吐き出せなくなり「んーんー」としか言葉を発せない、となれば脳筋の女騎士が出る行動は一つ。武力行使。
剣を手にしようとした瞬間、今度は身体が鎖に絡め取られた。
「こちらに貴方たちをどうこうする意図はありません。どうか敵意は収めて頂けませんか、お姫様?」
クラリスが密かに展開していた魔法もフレイヤは見透かしている。
やはり勝ち目が全くない、そう悟ったクラリスは参りましたと両の手のひらを上げる。
「話を聞いていただけて何よりです、ですが女騎士さんの方はうるさいのでもう少しあのままにさせていただきますね」
「仕方ありません」
「んんんん!?(姫様!?)」