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第百四十九話 監獄にて ③

暫く歩く、村を見つける、宿屋に入る、部屋を借りて休息、姫様疑問を呈する。


「初めからこの村に転移出来なかったのですか?」


「出来ましたね」


「では何故しなかったのです?」


「目的地まで一瞬で、というのは楽をし過ぎです。ちょっとでも体を動かさないと太っちゃいますよ」


「そういうのは普通の場所でやりなさい! こんな生死に直結した環境でいちいち太る太らないなんて気にしてられるかっ!」


無意味に吹雪の中を随分長く歩かされた事、そして恥をかかされた事が姫様の語気をさらに荒くする。


「大体あなた何なんです! 敵かと思えば助けたり、助けたと思ったらいきなりこんな場所に連れてきて凍死させようとして。どちらの味方でもないとか言ってましたがじゃあ何がしたいのかいい加減はっきりさせて貰えませんか!?」


「お断りします」


即答。


「ああそうですか分かりました。じゃあ今すぐ私たちを元の場所に返して下さい、元お仲間とはいえ今は違う、素性を明らかにしようとしない怪しい人間の言うことなんて聞く必要ありません。そうでしょう?」


そう言って姫様はこちらに意見を求めてくる。

彼女は元仲間だからという理由で俺がこんな場所まで黙ってついて来たと思っている様だが違う。フレイヤのした事は俺にとって決して見過ごせる様なものではない、もはや心を許せる存在ではなくなっている。

疑念が渦巻き信用出来ない、でもだからこそ従う他ない。

彼女は得体が知れないがはっきりしているのは戦いとなった場合まずこちらに勝ち目がないということ。そんな中で断って「仕方ありませんね」で済めばいいのだが今はそうなる確証が持てない、もしかしたら誰かを傷付けてでも、なんて可能性も考えられてしまうので迂闊に断るなんて出来なかった。


「素性はともかくとしてせめてこんな場所まで連れてきた目的くらいいい加減教えてくれてもいいんじゃないですか?」


「ええそうですね、ちょうど落ち着いた場所まで辿り着きましたしお話ししましょう」


この極寒の大地で彼女が何をしようとしているのか、遂に明かされる。


「目的は、ユウタさん、あなたの投獄です」


「・・・・」


「あなたの投獄です」


二度言わなくてもちゃんと聞こえてますよ。なんか反応を期待している様な顔で見てますけど人間はこういう時思考が追いつきません。

いきなり逮捕すると言われた犯罪者とはこの様な感じなのだろうか。

数秒思考が停止、しかしその後、再び思考は動き出す。


「投獄っていうのは捕まえるって事ですか?」


「ええ」


「俺だけ?」


「ええ」


どうやらリア達を捕まえる気はないらしい。

それは良かった。

なら俺だけ逃げ切ればいいだけの事!

一目散に駆け出し宿屋の外へ逃げようと椅子から立ち上がってから気付く、既に詰んでいるということに。

その人はわざわざ捕まえると宣言してから捕まえようとする様な愚かな事はしない、投獄すると口にした時点で捕縛は終了していたのだろう。

諦めて座る。


「あら、逃げないのですか?」


「逃げたいですよ、とっても。でも逃げれないでしょ」


そう言って足元を指差す。


「見えないし触れてる感覚もほぼない、でも足を動かしてみるとほんの微かに違和感がある。何かが足に絡み付いてます」


おそらくは魔力の集まり、まだ何にもなれてはいない塊。

個人の保有する魔力は体外に出てしまえば魔法という形で変成させない限り基本的にすぐ霧散する、なのにこれはどういうわけか足元から消えず、そして離れない。

こんなものはチートだ。

姫様の魔法は見えはしないが音はする、だからこそルナだって反応出来てた。対してこれは何も無い、不可視で無音、無色透明の存在なき状態で存在し目的を達して初めてものとして存在が確立する。

俺が気付けたのは多分この体が魔力体だからだろう。肌も魔力で出来てる分、自分以外の魔力に敏感になっているのかもしれない。


「逃げ出そうとすればこれは鎖に変わるんでしょう?」


だからフレイヤは今も席についたまま呑気にお茶を啜っている。


「ご明察、あなたから逃げるという選択は既に失われている。残された選択肢は一つ、大人しく言うことを聞くという一択ですね」


「そんな事わしが許さん」


リアが明確な敵意を宿した目を向ける。

先程までも敵視していたのは同じだが今と前とではその熱量が違う。


「言ったはずですよ、選択肢は一つだけだと」


それはこちら側に取れる行動は何一つ残っていないという宣言だった。

他の皆も俺と同じ、既に絡めとられていた後。

何も無い空間から突如顕現した鎖に縛り付けられ身動き出来ない状態に。


「これで理解していただけましたか? あなた達はもう何も出来ない、抵抗という選択を選ぶ自由も既にありません」


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