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第百四十六話 再出発②


「ここまで来れば大丈夫」


震える男の子に出来るだけ優しく語りかける。


「どうして、助けてくれるの?」


一歩後退り涙まじりの声で男の子は聞いて来た。

警戒しているのだろう、その男の子にとって私はそういう存在。

子供を助けるという行動にも良からぬ理由があるのではと想像させてしまう間柄。

人が魔族を何の見返りも無しに助けるなんてあり得ない、それが常識となってしまっている。


「君にちょっと聞きたい事があるから」


「何も言わない、どうせ他の皆んなの居場所を教えろとか言うんでしょ。だったら僕は何も言わない、家族を裏切るくらいなら・・・死んだ方が良い」


「違う違う! 私が知りたいのは友達の事」


「友達? それを何で僕なんかに・・・」


「その子、魔族だから」


「人間なのに魔族が友達なの?」


「そう、とっても大事な友達で私の命の恩人。助けてもらってからずっと居場所が分からなくて・・・リアって名前の子なんだけど何か聞いたことない」


「知らない」


「そっか、ありがとう。それじゃあ私達は行くけどもう一人で大丈夫?」


本当はご家族の元まで送って行ってあげたいがそれは許してくれないだろうからここでお別れすることにした。


「・・うん」


「これあげる」


男の子に果物が詰まった袋を手渡す。

この子が危険を冒してまで人間の村までやって来た理由。食料を手に入れようとして失敗し追われる事となった。


「・・・毒?」


人間が手渡して来たもの、毒でも盛られているのではと思ったらしい。

疑う様な男の子の表情、それを見て私の側にいた人物が前に出て来て「毒なんか入ってねぇよ」と袋から一つ果実を取り出しひと齧り。それから「ほらな」と何の異常もないと笑顔を見せなんなら全部ひと齧りしてやろうか?と手を伸ばしたので男の子は慌てて後ろに隠す。


「疑ってごめんなさい」


男の子は申し訳なさそうに頭を下げた。


「気にすんな、そういう感覚は必要なものだ。ちょっと親切にされたからって手放しで信用するもんじゃない」


「そうですね、この世にはいろんな人がいますから警戒する事は悪い事じゃありませんよ」


同じ種だから思考が同じだなんて事はあり得ない。


「でも、私達みたいな人間がいるという事は覚えておいて貰えたら嬉しいです。いつか君がどうしても人を許せなくなった時が来てしまった時、人間全てに対して怒りをぶつける前に思い出して貰えたらなって思います」




その後、男の子と別れ私達は次の目的地について話し合う。


「私はまずこの魔王城を目指したいと思います。リアちゃんがいるとすれば一番ここが可能性は高いですから」


地図の遥か北を指差し意見を述べる。


「魔王の娘、だったか。確かにこんな世の中でまず一番に気にかけるのは家族の事だろうし家に帰っている可能性はあるが・・・」


言いにくそうに口籠る、だからその先を私が代わる。


「こんなあからさまな場所を聖騎士達が放っておくはずない、ですよね」


聖騎士、実際会った事はないが多くの人が話題にする存在。

魔族を圧倒する実力を持ち多くの人々を救っているという人にとってはまさに救世主であり魔族からすれば死神とも言える人々。

聖騎士達にとって重要なのは魔族か否か。対象が魔族なら年齢、性別、行い、その全てを無視して処刑する。

魔族と人との間には溝があろうとも一応は共存して来たのだ、それをいきなりこんなやり方普通ならどこかしらから反感が生まれてもおかしくないのだが魔族の侵攻があって今では大勢に支援までされている。

魔族と良い関係を築いていた人もいたのだろうが今の世の中で声を上げるなんてとてもじゃないけど出来ない。

賛同する声ばかりが大きくなりどんな行いも正義とされる。


「ああ、聞いた話じゃその魔王も戦いは好んでいないんだろ? だったらもう別の場所に移ってるんじゃないか」


「そうかも知れません、でも他に手掛かりもありませんから」


「俺に心当たりがある。そこは人と魔族が共存している場所でその魔王城からもそう遠くじゃない、そして何よりそこなら聖騎士とか言う野郎も簡単に手出しできないはずだ。その場所を治める女王陛下は恐ろしく強いからな、誰が来たって返り討ちだろうさ」


「本当ですかっ!?」


「ああ、俺も少し世話になった事があるが良い街だよ。人や魔族、それ以外も関係無く受け入れてくれる。行ってみる価値はあると思うぞ」


「行きましょう!」


「でもな、ここから結構距離がある、本当に良いのか?」


心配している様だ。

まああんな形で家を飛び出して来たから仕方が無いのかも知れないけど。

家族に友達を探しに旅に出たいという自分の気持ちを伝えると当然の如く危険だからダメだと返される。以前とは状況が違う、あんな事があって心配してくれているというのも分かっているが止められない。あの時、命を救われたのだから今度はこちらが手助けしたい。

恨みを恨みで返す事ばかりが溢れる世の中になってしまっても恩を恩で返す、そんな当たり前の事は忘れたく無いとの思いであれこれ説得を試みたがなかなか理解は得る事ができず結局飛び出してきてしまったのだ。


「心配をかけてしまうかも知れませんけど行きます。止まったままは嫌ですから」


「そうか」


「ですのでこれからよろしくお願いしますアレウスさん」


「おう、こっちこそよろしくな」


こうして私の旅は再開された。

如何なる魔法道具であろうと及ばない価値のある仲間であり友人を探して。


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