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第百四十五話 再出発①

咄嗟に武器を構える。

助けてもらったとはいえ過去の光景がそうさせる。


「武器を下ろしてください、こちらに害意はありません」


「でも、あなたは・・・」


「遺恨が残っているのかも知れませんが今のあなたではそれを晴らすことは不可能、ならばもっと賢い選択をすべきかと。ここで私に刃を向けても後で後悔するだけですよ」


フレイヤの言うとおり、抵抗の意思を見せたところで無意味。大人しく言葉に従う他ない。


「助けてくれた事には感謝してます、でも理由が分からない。あなたはアルセリアの仲間なんじゃないですか?」


「一時的な協力関係というものです。先ほども申し上げたとおり私はどちらの味方でもありません。全ては私自身の目的の為」


「目的って・・陛下を殺す事があなたの目的だったと!」


「ええ、そうです」


そう答えるフレイヤに罪の意識は微塵もない。

曇りない瞳は少しも自分が間違っているだなんて思っていない。


「彼女の存在は人間にとって脅威でしたので。あの場で彼女が見せた力、あんなものは一端に過ぎない。ずっと力を抑えられ戦いからも退いていた、そのせいで結界が無くなったからと言ってすぐに当時の勘を取り戻せていなかった、出せても全盛期の一割か二割程度、それなのにあれほどまでに圧倒していた。彼女が陛下の座を捨てて戦士に戻ってしまえば人間に勝ち目なんてなくあっという間に勝敗が決するでしょうね」


「陛下が上に立つなら人間も魔族も苦しまなくて済む世界を作ってくれてたはずだ」


「生憎と私はそんな世界に興味が無いのです」










僅かな期間であっても魔族による支配が残した爪痕は大きい。

住む場所や大事な物や人、そんなのを奪われて最後は人から一線を越える恐怖という当たり前の倫理観も奪い去っていった。


「こっちに逃げて行ったぞ」


「逃すな」


「所詮は子供だ、そう遠くには行ってない」


黒い感情から吐き出される嫌な響き、こんなものが度々聞こえて来る。

そんなものを出しているのは顔見知りばかり、こんな事するはずないと思っていた私にとっては優しいという印象しかなかった人達だ。

みんな魔族に苦しめられて変わってしまった。

そして私もただの卑怯者と成り下がる。

耳を塞いで目を逸らす、心の中では酷いと思いながらも何か行動を起こすこともなく過ぎ去っていくのを待つ。


外見だけは元通りだが中身は壊れたままだ。


「ティオ、お帰り」


家に帰るとお姉ちゃんが声をかけてくれる。


「ただいま」


「どうしたの、元気無いみたいだけど?」


姉に簡単に見破られたので正直に告白。

さっき聞いた声の話をするとお姉ちゃんは「そう・・」と物憂げに呟いて今誰に聞いても同じ様な答えになるであろうという模範的な答えを口にする。


「仕方ないよ」


仕方ない、たしかにそれだけの事をされた。

私もお姉ちゃんも魔族を嫌いになっても仕方ない事を一杯された、だから人が魔族に酷い事をしていてもその一言で片付けられる。


「・・・そう、だよね」


買ってきた薬や包帯を持ってとある部屋の前に到着、扉を開けようとしたところで中で物音がしているのに気付いた。

扉を開くと本来寝ているべき人物が何やら忙しそうに出かける準備をしていた。


「何してるんですか!?」


病人の非常識な行動に声を上げるとその人物はにっと笑って答える。


「旅支度さ、大分身体も良くなったしな」


元気さを披露する様に身体を動かすも若干笑顔が引きつっているのを見逃さない。


「まだ完治してません! 無茶しないで下さい」


「大丈夫だこれくらい」


「ダメです!」


「ううっ・・案外押しが強いな嬢ちゃん」


困った様に頭を掻くもどうやら表情を見る限り折れるつもりはないというのがよく分かる。


「どうしていきなり?」


「目を覚ましてみたら外から物騒な声が聞こえて来たからさ。子供を寄ってたかってなんて見過ごすわけにはいかない」


「子供ですけど・・魔族です」


「うん? だからなんだってんだ?」


「あなたは魔族を憎んでるんじゃないんですか? 人を虐げる魔族が許せなくて戦って、その結果魔族にこんな大怪我を負わされたのに・・・」


「別にどっちがどうとか無いさ。人だって魔族だって良い奴は良いし悪い奴は悪い、俺はどっちにも存在する悪い奴を叩きのめして世界を平和にしたいだけだ。そこに人も魔族も関係無い。そこで起きてる事を自分の目で見て、触れて、自分の心で考えて、後はやりたいようにしているだけ、状況次第でどっちの敵にも味方にもなるそんな自分勝手な野郎だ」


「でもそれじゃあどちらにも属せない、どちらにも敵対視されるかもしれない。どちらかに寄った方が楽に生きられるんじゃ・・・」


「残念ながら俺にはそれが決められない、どっちもおんなじ様に見えちまうから。人も魔族も笑った顔を見れば心が温かくなるし悲しそうな顔を見ればしんどくなる、手を差し伸べたくなる、だから俺は間で生きていくしか出来ないのさ」


「辛くないんですか?」


「やりたい様にしてるのに辛い事なんてあるはず無い」


その人の答えはきっと間違いだ。

正しい道を踏み外してしまい荊棘の中を進む愚かだと嘲笑われる道。

それなのに私はそんな道を敢えて行こうとするこの人を愚かだと思えない。

その強さが羨ましいとさえ思ってしまう。


ああ、つまるところ私も愚か者なんだ。

あんな経験しておいて尚、ずっと分岐点で立ち止まっていることしか出来ずにいた。

周りの人の後を追いかけて正しい道を進む事ができず迷い続けた。

その理由は魔族が恐ろしい存在、ではなく魔族の中にも恐ろしい存在はいるという認識を持ってしまったからだろう。

みんながみんなそうじゃ無い、魔族の中にも優しい存在がいると知っているから他の人と同じ様には進めなかった。


「・・・みっともない」


それは停滞し続けた自分に向けた言葉。

今こうしている間にも辛い思いをしているかも知れない仲間がいるのに救われた恩も返さず一人だけ安全な場所でのうのうと暮らしている。

恐怖に負けて再び同じ間違いを犯すところだった。


「・・馬鹿っ馬鹿馬鹿っ!」


溜まったものを吐き出してバシッと両頬を叩く。


「お、おい。どうしたんだいきなり?」


突然の私の奇行で心配させてしまったらしい。


「大丈夫です。それよりもお願いがあります」


もう迷いは無い。


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