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第百四十二話 仇 ⑤


「夜天の星をこっちに渡しなさい、そうすればこの場は見逃してあげる」


「夜天の星?」


「あんたが手に持ってる武器の名前」


この刀、夜天の星というのか。師匠からそんな名前一度も聞いた事なかったが。


「レンフィーリスによって作られた無数の黒い鎧を纏った魔族の亡骸達、その中心でそれは一層の輝きを放ち続ける。その姿はまるで人類の希望の光、同時に夜空で映える星の輝きの如き美しさも兼ね備えていたことからそう名付けられた」


成る程、師匠が言わなかったわけだ。

そんな不本意な名前。


「綺麗な名前だと思う、でもそれじゃまるで殺しを美化してるみたいだ」


「魔族を殺して大勢の人間を救ったその偉業は美しいもの。だからそんな英雄の功績に相応しい名が付けられただけ」


争いにおいて敵を殺して味方を救うのは称賛されるべきだ、だけど死なない身体と他を圧倒する実力を兼ね備えたあの人は余計な事、殺した敵の事まで考える余裕があった。そのせいで殺しをしているという実感が他の人より大きかったに違いない。そんな中でも死体の山を築き続けたのはそんな風に後世の人間に称賛されたかったからじゃなく争いを終わらしたかったから。

美しさなんて微塵も介入する余地の無い血と嘆きに溢れた殺し合いを無くしたかったから。

真面目なあの人からすればその名は複雑だったろうな。


「元からお前の言うことを聞くつもりはなかったが尚更渡すわけにはいかなくなった」


「身も心も魔族の味方だから人間なんかの言う事なんて聞けないと?」


「違う、俺はどっちの味方になったつもりもない。俺はただ自分のやりたい様にやってるだけ。魔族だ人間だとか関係無くただ今のお前の言う事を聞きたくないだけ」


「聞かないというなら実力行使しかないけど? 死なない身体になったからって私に勝てると思ってる? 足手まといなだけだったあなたが」


「あの時とは何もかも違うんだよ。俺も成長してる」


「そう、なら容赦しない。今の私達は敵同士、殺すか殺されるかの関係だもの」


黒い刀の刃先を覚悟を見せつけるかの様にこちらに向ける。

改めて本人の口からはっきりと敵だと告げられるとやはり悲しいな。俺にとっては初めて出来た仲間だったし。


「容赦しないって言われても俺は死なない、そんなの脅しにはならないぞ」


「あんたの事色々教えて貰った。あんたの身体は今魔力によって構成されてるんでしょ? だったらこれで切ればあんたは消える、これは魔力を吸い上げるから」


師匠の刀に似ているとは思ったが性能までも一緒だったとは・・。

それなら確かに消えてしまうな。


「その力を使ってこれは既に強力な魔族の力を奪い取ってる。英雄と双璧をなした存在の力を。あんたに勝ち目なんてある筈ないわよ」


「・・今なんて言った?」


「これはあの時あの場所に姿を現したエルフェリシアの魔力を有してる、それがどれほどのものかあんたなら分かるでしょ?」


エルフェリシア、つまり陛下の。

俺達を命懸けで逃してくれた彼女から・・・。


「・・・お前、英雄に憧れてたんじゃないのかよ?」


「憧れはあるけど、それが何?」


「だったら何であの人の努力をぶち壊す様な事を平気でできる?」


「意味が分からない。私はレンフィーリスの意志を継いで魔族から人を守ってるだけ」


「あの人の友を殺しておいてどうして平気でいられる?」


「友? エルフェリシアの話をしているならあれはただ力で屈服させただけの関係で友なんかじゃない。情けで生かして貰ってたくせに歯向かう様な真似したから殺されて当然でしょ。あんた本当に何も知らないのね」


「何も知らないのはお前の方だろ。どうせ自分と同じ魔族嫌いが書いた本かなんかだけ手に取って捻じ曲げられた情報真に受けてそれ以外は見ようともしてなかったんだろ! お前が憧れてたのはお前が勝手に心に作り上げた偶像で本当のあの人じゃない。あの人はお前みたいに魔族を目の敵になんてしてなかった、ちゃんと対等に見てた。だから英雄としての責務を果たして多くを葬る一方で相手の命の重みを無視出来ず全部背中に背負っていつまでも罪の意識に苛まれたんだ」


「あんたに何が分かるってのよ! 名前すら知らなかったくせに」


「分かるさ。尊敬してやまない師匠の事なんだから」


ルナは「はぁー」と大きなため息を吐く。


「もううんざり、適当な事ばかり言って」


「適当なんかじゃ━━━」


「彼女の末裔である私よりあんたの方が詳しいわけないでしょ。私の前でレンフィーリスの名を汚すなんて許さない!」


そう吐き捨ててこちらを睨みつける、次の瞬間、疾風の如き素早さで距離を詰め一閃、どうにか防ぐも力の強さに師匠の刀が弾かれ飛ばされた。そこへもう一閃、刀の狙いも速度も本気でこちらを消しにかかっている。

魔剣で受け止めなければ切り裂かれ消滅していた。


「・・お前、本気かよ・・・」


「言ったでしょ、容赦しないって」


これで二度目、一度目突き刺された時は状況もごちゃごちゃしてたし混乱してただけ、心のどこかでそれはルナの本心じゃないと思い込みどうにか踏ん張った。

でも今回は言い訳のしようがない。

一片の躊躇も無く命を奪われかけた。


「じゃあ夜天の星は返してもらう。これはレンフィーリスのもので人にとって希望の象徴、魔族に味方するようなあんたなんかが触れていいものじゃない。あんたに相応しいのはこれを使うんじゃなく使われる事、夜天の星の偉業の一つに加えられる事よ」


俺が落とした師匠の刀をルナが拾い上げ依然として敵意を剥き出しにする。

黒と白、師匠の友を殺した刀と師匠の刀、その二つの刀が並んでいるその光景は酷く不快、一秒でも長く見ていたくはない最悪な眺め。

思わず顔を逸らすと「さようなら」と短く冷たい別れの言葉が。

その言葉を皮切りに師匠の刀で無防備な俺を消しにかかった。


「━━━っ!?」


息を呑む事になったのはこちらではなくルナの方。

なんとなくこうなる様な気はしていたからこっちに特に驚きはなかった。


「どうやらお前にはその武器は装備出来ないみたいだな」


俺が散々苦汁を飲まされた言葉、それを身動きしない相手に対して盛大に攻撃を外して素っ頓狂な顔をしているルナに言ってやった。

それからすぐに奪い返す。

力尽くで奪い返さなくたってちゃんと持ち主のところに戻って来る。

手から突然消えた刀、ルナはそれが行き着いた先である俺を憎々しげに睨みつけた。


「どうしてっ!?」


「これで分かったろ、これはお前には相応しく無いって。この武器は俺が託されたもの、それを奪い取るような奴が持ち主とは認めらる筈ない、たとえ同じ血筋の人間だとしてもな。だからもう諦めろ」


末裔という話はおそらく本当だろう。

ルナと師匠はどこか雰囲気が似ている。

同じ白銀の髪、凛とした佇まい、厳しさの中にも優しさがあるところ、戦い方とか色々重なるところがあった。

だが今のこいつは全然違う。


「師匠もきっと呆れてる、自分の子孫がまさかこんな馬鹿者だなんてって。ここに居たらたぶん殴られてるよお前」


「なんですって?」


「でも師匠はもう居ない、だから師匠の弟子として俺が代わりにやってやる」


「・・・やって見なさいよ」


怒りを孕んだ眼差し、それを同じように怒りの眼差しで迎え撃つ。


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