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第百四十話 仇 ③


「負け犬同士が仲良しこよし、そんなもん見せられるこっちの気にもなれよ。気持ち悪すぎて危うく吐きかけたじゃねぇか」


そう言ってオエェェェとふざけてやって見せる。

相変わらずの余裕っぷりを見せつけられて女騎士が黙っちゃいない。


「四対一で随分余裕だな。テメェの強みなんて魔力が無駄にあるってだけだろうが」


「だから?」


「持久戦になればこっちが不利になる、だから一瞬でケリをつければいいってだけの話だろ」


「やれんのかよ遊びで片手をもがれたガラクタ風情が」


「・・・殺す」


女騎士がいの一番の突撃、早速自分の役割を忘れている。

女騎士の黒の剣と女の斧槍が激しい音を立ててぶつかり合う。


「うわ軽っ、片手一本じゃやっぱその程度か!」


「テメェっ!」


女の挑発に乗せられ女騎士は意地になって敵の守りを崩してやろうと更に力を込め無理矢理にでも押し込もうとする、そこをまんまといなされて次の瞬間には元いた場所まで蹴り飛ばされた。


「いい飛びっぷりじゃねぇかガラクタ!」


女騎士の無様な姿を見て声を上げて笑う。

頭に血が上りやすい女騎士と相手の神経を逆撫して楽しむ女、この二人は相性が悪すぎる。


「もう少し落ち着け、俺たちの役割忘れたわけじゃないだろ?」


「うるせぇな分かってるよ、ただあいつがあんまりにもムカついたから・・・」


ぺっと血が混じった唾を吐き出して立ち上がる。


「悪かったな、もう勝手はしねぇよ」


「おいおい、威勢よく飛び出して来たくせにもう引っ込むのかよ? みっともねぇ!」


「お前をぶちのめすのはオレじゃなくてこっちの役割だからな、譲ってやるだけだよ」


黒竜と化したリアが駆け出し女の真上からその強靭な腕を振るう。

大きく素早く強力な一撃が地面を穿ち土煙を巻き上げるも穿たれた地面のどこにも女の姿は無い、消えたそいつがいたのはリアの頭の上。


「遅いんだよデカブツが」


頭を潰さんと振り上げられる斧槍、今まさに振り下ろされようというところで女は「ちっ」という舌打ちと共に飛び退いた。


「あれを避けますか・・・」


女を止めたのは俺も一度味わった姫様の不可視の斬撃を飛ばす魔法だろう。

あの時の俺には反応も出来なかったがあの女は背後からのそれを避けた。

そこへリアが爪と牙と尻尾を使った連続攻撃を繰り出すがこれはステップとジャンプを駆使し華麗に躱し流れるように反撃へと繋げてくる、それを俺が阻止してできた隙に再びリアが攻撃を叩き込む。

リアが攻撃、反撃を俺と女騎士で止めてまたリアに繋げる、こんなのを何度も繰り返す。


「あー鬱陶しい、ガラクタ共の寄せ集めの分際でっ!」


とことん邪魔をされてかなり苛ついているようだ。


「ちょこまかと動き回りやがって・・・そんなに相手して欲しいならまずはテメェから潰してやるよ!」


女が飛び出して行った先にいるのは女騎士、その脳天目掛けて斧槍を振り下ろす。

直後に轟音、そして勝ち誇った表情の女騎士。


「軽いなぁ、その程度かよ!」


斧槍を受け止めた女騎士がさっきの仕返しとばかりに言葉をぶつけた。

しかし笑みを浮かべてはいるものの手も足も震えてようようといったところ余裕はなさそう、おそらく強がりなのだがただでさえ苛ついていた女には決定的、完全にブチ切れた。


「・・んだと?」


とことん下に見ていた相手に小馬鹿にされる。

この女の性格上そんな事許されない。

ガラクタ相手にもたついている事自体不愉快で仕方ないのにおまけに舐められている、そんな現実許容するわけにはいかない。

そんな女が次に考える事は目の前の不快な言葉を垂れ流すガラクタを今すぐにぶち壊す事。

是が非でも殺しにかかる、たとえ周囲への警戒を疎かにしても。

この手のキレやすい馬鹿は単純だと女騎士は自分のことはさておき思い通りだと心で笑う、女騎士は大きな隙を作り出す為挑発したのだ。まあ半分私怨も混じっているが。


結果として女は狙い通り目の前の相手だけに視線を注ぐ。

だが少々女騎士の予想とは違った。


殺意が振り切れた女が狙うのは確かに気に食わない奴を殺す事だが正確には瞬殺を狙う。

冷静さを欠いた力任せではなく冷静さを取り戻しどうすれば手っ取り早く黙らせられるか考え実行する。

怒りを捨て去り殺す事だけしか頭になくなる。


迫り合いをあっさり切り上げた女はいつもの力を込めた大振りでの真っ二つにを狙わず力を抑えた素早い急所狙いに切り替える。

ただ力任せなだけと決め付けていた女騎士は突然人が変わった様に素早く、尚且つ繊細な動きをする女に反応が少し遅れてしまった。

斧槍が喉元を通り抜ける。


「ぐあっ・・」


直前でどうにか上体を反らし首が切り離される事態は回避したがそれでもかなりの深傷、血が溢れて止まらない。しかし女はそれに喜びも悔しさも無い無表情のままで黙って手を動かし次は完全に息の根を止めようと追い討ちを試みる。


「させるかっ!」


女目掛けて魔剣を投擲。

後ろに飛び退かせるかして少しでも手を止められればその間に姫様が魔法でどうにかしてくれると考えたのだが女の避けは最小限、致命傷を避ける為だけに少し体をずらしただけで手は止まらない。

魔法では間に合わない、どんなに急いで向かっても間に合わない、方法があるとすれば時間を止めるか瞬間移動でもして割り込むか。

どっちもなかなかに無理くさいが実はそんな不可能っぽい方法の一つを俺は可能にしてしまえる。


「お前、どこから!?」


相手を殺す機械のようになった女でも突如間に割り込んで来て斧槍を受け止める俺の姿を見て流石に驚いた様子。

驚きは隙を生む。


「リアっ今だ!」


女をリアの爪が襲う。


「なっ・・・」


防ぐ事も避ける事も間に合わず女はその身にリアの一撃を受け吹き飛び沢山の血と共に宙を舞いどさりと地面に打ち付けられた。


「・・・やった、のか?」


元の姿に戻ったリアが相当疲労しているのか跪き両手を地面につけて荒い呼吸と共に呟く。


「キアラっ!」


慌てた様子で姫様が女騎士の元に。

かなり酷い、助かるのかどうか分からない様子。


「すまん、わしの、せいじゃ・・・わしに付き合ったせいで・・・」


続いて駆け寄ったリアが女騎士の様子に瞳から大粒の涙を溢す。

仇を打つために仲間が一人犠牲になった、責任を感じずにはいられないのだろう。


「・・・・・・死ぬか・・・馬鹿」


姫様に手当てをされながら女騎士が絞り出す。


「そうです、キアラがこの程度で死ぬ筈ありません。キアラは魔族の中でも頑丈ですし何より私をおいて勝手に逝くなんて事絶対しませんから」


姫様の言葉を聞いてリアが安心したのか腰を抜かしてへたり込み「良かった・・良かった」とより一層酷い顔をしてリアが涙を流す。

戦いの終わりを全員が生きて迎えられた。

仇討ちも上手く行きこれでリアの心も少しは救われる、そんな喜びによって弛緩した空気を一瞬で焼き尽くすような炎が背後で上がった。


「・・・やって、くれんじゃ、ねぇか、ガラクタ共・・・」


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