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第百三十八話 仇 ①

その後リットンはドレビ草と姫様達の治療の甲斐もあって見事回復した。

ただの毒だと思っていたドレビ草はどうやら毒として機能するのは人間だけで魔族には薬になると後に姫様が教えてくれた。


「この私が人間の友達を作るなんて・・・」


町を離れて少しして隣を歩く姫様が呟いた。

自分でも信じられないという様に握手を交わした手を眺めている。


「後悔してるのか?」


「してません、人間と言ってもあれは魔族を助けようとするおかしな人間で普通の人間じゃないですもの。馬鹿で愚かで人としては出来損ない、簡単な道ではなくわざわざ人から少し外れた苦難の道を選んだ方々、なので多少は仲良くしてあげてもいいでしょう」


散々な言葉を並べているが要約するとあの二人は特別、嫌いじゃないって事だと思う。

人間について語る時はいつも冷ややかな顔をしているのに今は違っているから。

でも同時にあんな人間との出会いは姫様の罪の意識をより強固にしてしまう。


「私のせいで死んだ人間の中にはああいう人間もいたのでしょうか・・・」


「多分いただろうな、人間だって人それぞれだ。姫様やリアだって同じ魔族でも人間に対する考えは全然違うだろ、それと同じで人間の中にも魔族が好きな人は多からずいたはずだ」


残酷な言葉だっただろうか?

でもわざわざそんな事聞いてきた時点で本人が一番理解しているはずだ。


「そう、ですよね・・」



クラリスは微かな痛みを覚え胸を抑える。

悲しみがつくる痛み。

それは理解できるが何故いまこんなものが生じるのかは理解したく無かった。

だってこれは自分の強さを揺るがす感情だ。

ただ怒りに身を任せていたからどんな事だって出来た、人間は悪だと決め付けて全部一緒にしてその違いに目を向けなければ如何なる非道も許された。

“復讐だから”その言葉を唱えるだけで敵は敵としか映らない、容姿も性別も年齢も全部醜さに塗り潰されてただの不愉快な何かに変わる。

それなのに、こんな、人間に同情するような感情持ってしまったら容赦の無さが失われてしまう。

人にもそれぞれ違いがあって数は少ないかもしれないが魔族に優しい人間もいる、そんな事実を知ったせいでクラリスの人に対する恨みは低減し更にそんな人間に対して少し興味を抱かせるようにもなっていた。

ミナ、初めて出来た人間の友達。

彼女のような人間を自分はどれくらい死に追いやったのだろう?

今度はずきりと胸が痛んだ。







「よう魔族共」


明るく軽快なリズムを刻む少女の声が背後でした。

瞬間背筋がゾッとする。

その声は最悪な記憶を封じ込めた扉の鍵、あの暴力と悲鳴が幾重にも重なり合った惨劇を思い出させる。

俺より少し幼く見える少女、血に濡れたかのような朱殷(しゅあん)の髪が特徴的なそいつがニヤリと口角を上げた。


「久しぶり」


「お前・・・」


最悪だ。

アルセリアの狩猟犬、その中でも並外れて残忍な女。

陛下の作り上げた魔族と人間が共存する街に現れ小柄な手で愛用の斧槍を振るい嬉々として分け隔て無く大勢を真っ二つに断ち切って一面を血祭りにあげた最低最悪な奴。

高笑いしながら血と悲鳴を欲して殺戮を行う人間。


「こそこそ逃げ回りやがって、お前は黙って私の玩具になっときゃ良いんだよ。壊れない身体、私が有効活用してやるからさ」


うっとりとした眼差しを向けられた。

それは俺に心の底からの恐怖と嫌悪を与えてくる。

だがそんな事はどうでもいい、それよりも気にかけないといけない奴がここにはいる。


「貴様・・・」


リアが憎々しげに女を見つめる。


「あん? 何だよガラクタ」


その女にとって魔族とはそういうもの、楽しめそうなら玩具でそれ以外はガラクタ。

玩具は念入りに遊んで殺してそれ以外は適当に殺す、見た目のままに子供みたいな性格をし子供らしく無邪気に残酷な事を行う。


「貴様だけは許さん、わしから大切なものを奪った貴様だけはっ!」


そんな女の犠牲になったのがリアの両親だ。


「ああ思い出した! お前あのガラクタの娘か。魔王だなんて大層な肩書き持ってる割に全然大した事なかったから印象薄くて忘れてた、悪い悪い」


自分が命を奪った相手の子供が目の前にいると分かったからこそそいつは笑う、そうやって憎しみを引き出し復讐へと駆り立て向かってくる敵を容赦なく叩き潰す。

そして最後、復讐も叶わず無様に死んでいく相手の絶望した顔を見てまた嗤う。


「殺してやる・・」


リアの口から漏れ出る怨嗟の声、いつも朗らかに笑う姿はそこには無い。

こんな状況の中でも人間と魔族どちらにも寄り添える心の優しい明るい少女。

そんなものは嘘だ。

本当はこの中で誰よりも痛みを抱えている。

そのとてつもない痛みに耐える為に嘘の感情を貼り付けた。

それは逃避の果てにたどり着いた自己防衛。何も失っていなかった以前の自分のままに話したり笑ったりする事で何も無かったと思い込む、現実から目を背ける事によって痛みと怒りを抑え込んでいた。

なのに今、親の仇という存在を前にした事で剥がれ落ちた。


「落ち着け、リアを怒らせる事が奴の狙い━━━━」


「うるさいっ!」


止めようとした俺をリアは片手でなぎ払う。

物凄い力で簡単に体が吹き飛ばされた。


「待てっ! このままじゃ以前の二の舞だぞ!」


「うるさいうるさいうるさいっ! 此奴はこの場でわしの手自ら殺す」


俺の言葉を聞き入れようともせず駄々っ子のように繰り返しそれから目の前の怨敵を自らの手で捻り潰す為の姿、巨大な黒竜へと変貌を遂げる。

その姿を前にして女は余裕を見せつける様にニヤリと微笑むだけ。




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