第百三十五話 少女とドレビ草 ④
「おっ! こっちこっち!」
集会所兼酒場に入ってすぐ、まるで待っていたかのように依頼を紹介してくれた受付のおっさんに声をかけられる。
そして俺が手にした依頼の品が入った籠を見て笑顔を浮かべた。
「いやぁ助かった、まさかこんなに早く採って来てくれるとは」
「まぁ今日明日中にっていう依頼でしたからね、依頼者も急ぎで必要だったんじゃないですか?」
「あ、ああ。依頼人も大助かりだろう」
「それでその依頼人がドレビ草を何に使うつもりか聞いてるんですか?」
「・・・いや、そこまでは」
「それ人を殺す以外何の使い道もない毒草だって聞いたんですけど?」
「なんと、それは知らなかった! まさかそんな危険な物だったとは・・・分かった、後で受け取りに来た依頼人に問いただしてみるよ」
そして「じゃあ」とさっさと話を打ち切って立ち去ろうとする。その背中に向かって質問を投げかける。
「ミナって子、知ってます?」
おっさんは凍ったようにその場で立ち止まる。
確信した、依頼者はこのおっさん、そしてこのおっさんはミナの父親だと。
あんな毒草そうそう需要があるはずない、それを欲しがる奴が同時期に二人も現れるなんてちょっと考え難い。
期日が今日明日なのは急いでるのもあったのかもしれないが自分が出勤しているというのが一番の理由だろう。正式なものじゃないから自分以外の人間がドレビ草を受け取れば問題になるから。
「その子がドレビ草を求めて一人で魔獣のいる森の中へ入っていったの知ってますか?」
「何っ!?」
おっさんは焦った様子で俺に縋り付く。
「まさかミナに何かあったのか!?」
「いえ、無事です。自分達がちゃんと町まで連れ帰りましたから」
するとおっさんは「良かった」と安心して膝から崩れ落ちた。
娘のことを大事に思う父親の姿がそこにはある、だからこそ何故と思わずにはいられない。
「そこまで娘さんの事が大事なのにどうして人殺しなんてしようと思ったんですか? そんな事したらミナちゃんが悲しむ事ぐらい分かるでしょ」
「人殺し?」
「ええ、ドレビ草で誰か殺そうと企てたんでしょう?」
「そんなまさか!」
おっさんは首をぶんぶんと勢いよく横に振る。
随分と大袈裟な動き、嘘くさい。
「まあ別に自分はただの旅人、あなたが毒を手に入れようとしていたと知っても特別何かするつもりはない。ただ、今回俺達が手に入れたものは渡さない。ちょっとした手違いでミナちゃんに渡してしまった分も回収したいので後であなたの家まで伺わせてもらいます」
するとおっさんの顔色が変わった。
「それは出来ない!」
額に汗を滲ませての全力の拒否。
なんと諦めの悪い。
「あなたは娘さんの思いを人殺しという形で踏みにじるつもりですか!? もういい加減諦めて下さいよ!」
「違う、違うんだ・・・」
うわ言のようにそう呟くだけで話にならない。
「もう結構です、結果として家庭が崩壊したってこちらの知った事じゃないし好きにすればいい。父を思って子が死ぬ思いをしてまで手に入れたものを使って殺しでもなんでもすれば良い」
それを最後に説得はやめた。