第百三十一話 お仕事
しようもない争いもあったが一応お腹を満たした、そうなれば次するべき事はお仕事。
食った分働いて稼がなければ俺たちはまたあの醜い争いを繰り返す。
俺達は争わずにはいられない、そういう生き物なんだとまさかこんな小さな食事処の一画でまざまざと思い知る事になるとは・・・。
とはいえそれは極限状態に陥ったからでしっかり食べるものを食べてまともな生活をしていれば問題ない・・・と思う。
という訳で仕事を求めて酒場兼集会所へやって来た。
そこで掲示板に貼られた依頼を確認、Cランクの俺に受けられる仕事からできるだけ報酬が多いもので尚且つあまり目立たないものをいくつか見繕い受付に提出。
「兄ちゃんこの辺りの人じゃねぇな?」
受付のおっさんにいきなりそんな事を聞かれた。
「えっ・・はい、ちょっと今旅をしてましてこの町には今日着いたばかりですけど」
するとおっさんは満面の笑み。
「そうかそうか! ならそんな新参者の兄ちゃんにいい事を教えてやるよ」
「良い事、ですか?」
ああ、とおっさんは顔を近づけてひそひそ声で話し始める。
「ここで仕事を受けるなら討伐より採取系の依頼の方が稼ぎになるって話だ」
・・・・うん、そりゃさっき舐め回すように一個ずつ確認して来たから分かる。
通常は危険のある討伐系の方がその分報酬も高いがここは逆になっている。ただそれは別にそこまで不思議なことでもない、単に必要な物が見つかりにくいとか断崖絶壁に自生しているとかで採集するにも危険が伴うからそうなっているのだろう。
この辺りの土地勘もない俺達が受ければ苦労する事は目に見えているというわけで報酬には心惹かれつつも止めて討伐系のだけ選んだのだがその旨を伝えるとおっさんは「ちっちっち」と人差し指を揺らす。
「新参者はそう思いがちだが実際のところそこまで面倒な場所にあるって訳じゃねぇ。単純に受ける奴がいないから今ここでは薬草が不足して報酬も上がってるって訳だ」
「何故受ける人がいないんです? 簡単な依頼でおまけに報酬もたくさん、この街の人なら誰でも食いつくと思うんですけど何故にあんなに一杯残ってるんですか?」
上手い話には裏がある、なんとなくこのおっさんも胡散臭い気がするのでとことんまで疑う。
「そりゃあここは港町だぜ、豪快な奴らばかりでみみっちい採取なんて受けようものなら笑われる、だから誰も受けようとしないんだ」
辺りを見回す、確かにガチムチ系の人間の割合が圧倒的に多い。正直この人達が草をむしっている姿を想像出来ない。
成る程、変に疑ったがそういう理由ならまあ納得出来る。
「旅の人なら別にいつまでもここにいるって訳じゃないんだろう? だったら、なぁ?」
馬鹿にされたとて少しすればおさらば、ならばこの依頼受けない理由がない。
「分かりました、じゃあ採集で一番高い奴お願いします」
という訳で無事お仕事も決まり外で待っているみんなの元へ。
リア、姫様、女騎士そいつらの戦闘力からすればあくびが出るような難易度のものばかりだろう、だが仕方ない、だってみんな魔族で当然カードなんて作れない、よって受けられるのは俺に付与されたCランクまでの依頼のみ、おまけに魔族だから絶対に目立つような事はできない。目立てば魔族とバレて通報されどこぞから本物の狩人が派遣されてくるからだ。
あいつらは元々魔族を凌駕する力を持ちながらおまけに姫様から奪った俺の心臓から生み出される魔力を使って化け物クラスにまで強化されている、そしてなんと皮肉な事に異世界からやって来たこの俺を差し置いて英雄扱い、借り物の力でイキリ散らす気に食わない奴らだ・・・・いやまあ俺も多少そっち系ではあるのだが俺と奴らとでは大きな違いがある。それは俺のは師匠から頂いたもので奴らのは与えられたものということ、託してもらったものという自覚が無いから重みが分からずそれを使う際も敬意や感謝がまるで無い、道端で拾ったラッキーもう俺の物みたいなテンションで手に入れた物を使うような奴ら。
とても気に食わない・・・が強さだけは本物、出来れば関わり合いになりたく無いのでこうやって細々と派手な魔獣退治なんかは避けて小物を倒したり薬草なんかを採集する依頼を数こなす。
「今日のお仕事はこちらです」
俺が厳選して来た依頼を三人の前に差し出す。
一つ目採集、二つ目採集、三つ目低級魔獣の討伐の計三つ、どれも報酬額は多いとはいえないし俺の昇格にもつながりそうも無いものばかりだが文句は無さそうだ。
姫様は自分の立場を理解しているし女騎士はそんな姫様に従う、リアは特に何も考えてないみたいだし。
ただ別れる時に若干訝しげに姫様が聞いて来た。
「ドレビ草ですか、人間がこんな物を必要としているんですか?」
それは姫様に渡した依頼書に書かれている草の名前。
「何か気になる事でも?」
俺には薬草の知識は全くない、だから姫様が何を気にしているのかも見当がつかない。
「いえ別に、どう使おうが私の知った事ではありませんので」
何か引っかかるが姫様はそれっきり何も言わなかった。
なんだか気になるがとりあえず二手に分かれて採集をこなしてそれから合流して魔獣討伐に移る事にした。
俺とリア、姫様と女騎士で分かれ行動を開始した。
♢
たかが採集されど採集、そこら辺に生えた草を引きちぎってはい終了程度に考えていたのだがどうにも魔獣が多い。
ほぼほぼ一人でも対処できる程度の雑魚ではあるのだがその数が異常だ。
「ちょっと多過ぎやしないか? っていうか討伐の依頼もいつの間にか達成してるぞ」
「この程度で音をあげるとは情け無い、わしはまだまだいけるぞ!」
うんざりしている俺に対しリアはやる気に満ち溢れている、瞬く間に魔法で魔獣を蹴散らしていく。
難しくはないが想定外の仕事をたくさん押し付けられる形、これでは労働力と報酬が釣り合っていない。
しかも目当ての薬草はまだ少し先、そこに辿り着くまでに後どれくらいの魔獣を狩る事になるのやら、考えてため息が漏れる。
これはもしかしてだけど、俺、あの受付に騙されてないか?
誰も受けないのは単純にしんどいからなのでは?
そんな事を考えているうちにまた魔獣の群れが進路を塞ぐ。