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第十二話 旅立ち前夜

勇者ユウタは集いし勇敢な仲間達と共に魔王城へと攻め入る。

尋常ならざる空気を纏う城内をちょっと進んだところで待ち受けていたのは傷心の魔王に代わって魔王の娘リア、格好とか声とか必死に魔王のふりして雰囲気を出そうとしていたがあえなく僧侶の一撃で撃破。

その後なんやかんやで仲間になってユウタは無事魔王城から帰還した。



Fin⭐︎




「・・・・・」


という訳で俺はさっそくこの世界での一番の目標を失った。

まぁみんな旅に出ることは了承してくれたし、とりあえず各地を回ってみるのも良いかもしれない。裏ボス的な何かがいるかもだし。


とにかく今日は疲れたしもう寝よう。何もしてないのに重たい身体で宿屋に向かう。

受付でいつもより多めのお金を払い、部屋に入る。


そこでふと俺は不思議に思う。


「あの~なぜここまで?」


当然の如くベッドで横たわり足をぶらぶらさせているそいつに問いかける。


するとそいつは『何か問題でも?』といいたげな表情を俺に向けて「別にいいじゃろ」と悪びれる事なく答えた。

そう、そいつの名はリア、先ほど仲間になった魔王の娘だ。


どうやらある程度自由に姿を変えられるらしく目立つ角と翼は無くしていたが、見た目は完全に小さな女の子。

だから、ものすごく問題なのだ。


そりゃ~年齢的には兄と妹と言う感じなのだが、見た目が違いすぎる。

これでは絶対に兄妹とは見られないだろう、一緒の部屋に入っていけば変な目で見られるのもしょうがない。


「あの~もう一部屋取ってるんでそちらに移動しないか?」


「いやじゃ、一人でいてもつまらん」


「それじゃあ、他の人の所はどうだ?」


「これ以上歩きとうない、それにお主の近くが落ち着く」


よし、あきらめよう。リアが一緒でいいというのならばそれでいいじゃないか。

別に俺がロリコンという訳ではないぞ、絶対に違うからな。



とりあえず俺はお腹がすいたのでリアを誘って酒場にでも行こうと思ったがリアは「歩きとうない買ってきて」の一点張り仕方がないので俺だけでリアの分のご飯も買いに出た。

全く手のかかる奴だぜ。

しかしそこが可愛いと思ってしまう俺がいる。


酒場で適当に料理を注文しお持ち帰りにしてもらうことにして目に入ったのでついでにトランプも買った。夕刻の酒場は混み合っている、そのせいで夕食の確保に結構時間が掛かってしまった。


陽の落ちた町は少し肌寒く感じる、今が春なのか冬なのかどうかは分からない、そもそもそういった季節と言う概念があるのかも分からない、周りを歩いている人たちは仕事帰りなのだろうかどこか急ぎ足だ、一刻も早く家に帰りたいのだろう。


俺の家族はどうしているのだろう、そんな事をふと考えてしまった。

今までは色々必死で前ばかり見ていたがあんな形でも一つの目標を達成した事で後ろを振り返る余裕ができてしまったのかもしれない。


毎日夕飯を囲んで会話が弾んでいるというような仲良い感じではなかったが、別に嫌いでもなかった。いきなり死んで異世界にたった一人で転生してきて不安を感じる間もなくいきなり殺されかけ、ルナのおかげでなんとか生きてはいるがそれは普通に考えれば十分恐ろしいことだ、その後のお金が無く食べるものにも困る生活になるなんて前の世界にいる時は考えもしていなかった、こう考えると家族のありがたみをすごく感じた。


この世界に俺の家族はいない、故郷なんてないし先祖代々のお墓もない、思い出の品と呼べる物も持ってないから存在を感じることも出来ない、完全に一人だ。

なんか、会いたくなって来る・・・・いかん、いかん、何物思いにふけっているんだ俺は、らしくもない。


さっさと戻ろう、リアがお腹をすかしているだろうから。

急ぎ宿屋に戻り部屋の扉を開ける、すると目に入ってきたのは床にうつ伏せに倒れるリアの姿。

まさか、リアが魔王の娘だと知った何者かによる襲撃でも受けたのか!・・・・いや、たぶん違うだろう。

部屋に入り、買ってきた食べ物を倒れているリアの頭のあたりでちらつかせてみるとムクッと顔を上げた。


「遅いわっ何をしておる!」


感謝の言葉よりも先に怒号が飛んできた。


「すいません、すいません」


とりあえず謝っておき、買ってきた食べ物をテーブルに並べた。

勢い良く齧り付きさっさと平げ俺の分にまで手を伸ばす、必死に防衛するも半分はリアのお腹に吸い込まれていった。

人の分にまで手を出しておいてそれでも少し物足りなかったようだがそこは我慢してもらおう、俺のお財布はそこまで裕福じゃない。


食後はリアがあれこれ聞いてきたのでしばらくの間おしゃべりに付き合ってやった。


リアは周りには家族しかおらず、友達というものがいたことは無いらしく家族と遊ぶか一人で遊ぶかしかしてこなかったという事だったので、それならばとちょうど良かったと思い、買ってきたトランプでもすることに。


リアはトランプを見たことも無い様子だったので、ババ抜きや神経衰弱などのゲームのルールを軽く教えてやった。


思えばこの世界に来てからゲームと言えばこのトランプしかしていない気がする、と言ってもTVゲームなどは存在していないし遊ぶと言えばこれしかないので仕方ないと言えば仕方ない。


前は学校が休みの日は大抵家に籠って朝から晩までゲームをしていた俺がトランプだけでよく満足できているものだ、トランプなど友達がいない俺はほとんどやった事が無かったぞ。

昔の俺から見たら今の俺の生活は信じられないだろう。


まずは俺の得意分野の神経衰弱で勝負し俺の実力というものを見せつけてやり俺に対する認識を改めさせてやろうと画策、だがその計画はすぐさま崩れ去った。

この子やたら記憶力が良くてとにかく間違えない、一般的な人間の脳みそをしている俺ではまるで歯が立たない。


「どうじゃ、わしの勝ちじゃ、すごいじゃろ」


この世界に来て俺が唯一誇れるものをあっさり越えられ悔しくはあったが無邪気に喜んでいるリアを見ていると勝ち負けなんてどうでもいいように感じてきた。別に何かを賭けているわけでもないしお互い楽しむのが一番だろう。


次はババ抜きをしたがこれは二人ではあまり楽しめなかったのですぐにやめて大富豪などをして遊んでいるとリアもだんだんと眠くなってきたのかウトウトしだしたのでゲームを切り上げて眠ることにした。リアがベッドで俺も一緒にベッドで寝ることにしたかったが、さすがにそれはまずいと俺の中の自制心が働いたので床で布団もなく寝ることにした。


翌朝はすぐに酒場に向かった。みんなはすでに到着していたそうで仲良く朝食をとっていたので俺達も『おはよう』とあいさつしてそれに混ざった。


俺とリアが一緒に入ってきたのを疑問に思ったのかルナが聞いてきた。


「なんであんた達一緒にいるの?」


「昨日一緒に遊び、一緒に寝たからじゃ」


「一緒に、寝た!?」


ルナはまるで『何も変な事してないでしょうね?』とでも言いたげに半目で睨みつけてくる。


慌てて首を振り否定する、俺はやましい事は何もしていない、一線は間違いなく超えていない清廉潔白なのだ。俺の自制心をなめるなよ!


みんなが食事を終えるのを見計らって、俺は立ち上がりテーブルをバンッと叩いて、


「旅に出ようと思うんだが」


デジャヴかと思うほど昨日とほとんど同じように言葉を切り出した。


昨日はこの後、急に魔王城に行くことになって色々あやふやになってしまったのでもう一度しっかり確認しておこうと思い聞いてみることにしたのだ。


答えは全員OKだった、なので今日はこのまま解散して明日のための準備をすることにした。


リアは特に準備する事も無いらく、同じく大して準備する事のない俺と一緒にまた行動する事になった。


「これからどうするのじゃ?」


「う~~ん」


装備はこの町で買える最高額のこんぼうを装備しているのでいいとして魔法が一つだけなのは少々不安、なので出発前の大奮発として魔導書でも買おうと決意、低級をね。


「とりあえず、魔法道具店でも行ってみるか」


魔法道具店に入店した俺達を出迎えてくれたのは見知らぬ女の人だったがその顔はどことなくティオに似ている。身長やその他色々明らかに違う箇所は何個かあったが多分・・・


「ティオのお姉さんですか?」


「そうですけど・・・・そちらは、もしかしてユウタさんですか?」


「はい、いかにも俺がユウタです」


「やっぱり、妹がお世話になっています」


ティオは俺の事をお姉さんに話しているようだ、いったいどんな事を話しているのかとても気になる。願わくはとても頼りになるカッコいい人とでも言ってくれていれば・・・・いや、それは無いか。


「いえいえ、そんな事無いですよ、ティオさんにはいつも助けられてますからお互い様です」


お世話になっているのは一方的に俺の方だが、そこは黙っておこう。


「妹が突然旅に行くなんて言い出してとても心配で、あの子いままで町の周辺までしか出た事が無いですし魔法道具の事となると周りが見えなくなるしで正直不安で・・・」


こんなにも心配してくれる姉がいてティオは幸せ者だな、こんなお姉さんを悲しませるような事にならないようにしなければ。


「大丈夫です、何があっても俺が守ります!」


お姉さんに真剣な眼差しを向けてちょっとカッコつけて堂々と宣言した。

それに水を差すかのようにリアが口を挟んでくる。


「お主よりも銀髪の女の方が頼りにはなるじゃろうな、じゃが、それよりも、あのバーサーカーがおるのじゃ何も心配はなかろう」


バーサーカーとはフレイヤの事なのだろう、確かに彼女がいれば大抵の事は何とかなる気がするが、リアよそこは空気を読んでくれ・・・・。


若干の気まずさを感じたので、低級魔導書を買ってそそくさと店を後にした。


次に向かったのが鍛練所だ、先生にはとてもお世話になった、出発前にお礼を言っておかなければ。


「何じゃここ? 何やら魔の匂いが放たれておるが」


鍛練所の前に着くと開口一番リアがそんな事を言って鼻をすんすんさせている。

場所柄匂いがあっても仕方ない、しかし清々しい運動の後に流す汗を魔と表現するのはいただけない。間違っても先生の前では失礼なことは言ってくれるなよと祈り中へ入るとなんだかいつもと様子が違っていた。中から声が聞こえてきたのだ、声が聞こえてくるだけなら先生がいつものように訓練でもしているんだろうと思うが、今日は二人分の声が聞こえてきていた。


ここに通っているのは俺だけだと思っていた、ここに時々通うようになってからもう何日も経つが他の人を一度も見た事が無いからだ、誰だろう?


ゆっくり扉を開けて中を窺ってみる、そこにいたのは先生と男の子だろうか? 髪はそこまで長くなく身長も高くないのでそう判断したがこの世界では子供の様に小さくても俺よりも年上だという例がすでに一件あるので確信を持って言い切ることはできない。


見知らぬその子が木刀を持って先生と対峙していた。


「えやっ!」


男の子が先生に向かって木刀を振り上げ駆け出し先生目掛けて力いっぱい振り下ろす、しかし木刀は空を切り男の子は動揺、その直後いつの間にか男の子の側面に移動していた先生がその子の首筋に木刀を突き付けていた。


「参りました・・」


悔しそうにして、男の子は大きなため息をもらす。


なんだかひと段落ついたようなので、入口で隠れ見るのを止めて、


「先生おはようございます」

「おはようなのじゃ」


俺とリアは挨拶をしつつ中に入った。


「おう、おはよう!」


額の汗を拭いつつ挨拶を返してくれる。


一緒にいた男の子はこちらをただジッとこちらを見つめるだけで口を開こうとはしなかった。


「今日は友達連れか?」


「えっ・・まぁ、そんなところです」

「友達じゃ、友達」


俺もリアもずっとぼっちだったので、友達と言う言葉には変に反応してしまう。


「そうか、友達は大事にしろよ! それで今日はどうしたんだ、特訓でもしに来たのか?」


「いえ、今日はちょっと挨拶に来ただけです、俺、明日から旅に出るのでしばらくここには来ることが出来なくなると思うので」


先生は初め残念な表情を浮かべていたがすぐにいつもの眩しいくらいの笑顔に戻り「それは残念だが、お前が決めたことなら俺は背中を押すぜ、俺の特訓にもついてこれたんだ、お前ならきっと大丈夫だ、頑張れよ!!」と心が痺れるようなありがたい激励をしてくれた。


「はい! 頑張ります俺、戻ってきたときには土産話でもさせて頂きますね!」


「おう、待ってるぜ!」


リアはそんな俺と先生を冷めた目つきで眺めながら、


「暑苦しいのお主ら」


とだけ言って興味を無くしたかのようにあたりを適当にウロウロし始めた。


「ところで先生そっちの子は?」


視線を男の子に移す。


先生は今気づいたかのように男の子を手招きして俺に紹介を始める。


「こいつはセレス、前にお前の財布が盗まれた事があっただろう、その時、財布を盗ったのがこいつだよ。なんでも両親もいなくて、金も住むところも無いらしいから俺が面倒見てやる事にしたんだ」


さすが先生、なんて心が広いのだ。見ず知らずの子の面倒をみてやるなんて。

だが、それ以前になぜこんな子供がそんな状態になっているのか気になったが、他人の事情を興味本位で聞くのも気が引けたので聞かない。

だから代わりに俺はそっと男の子に近づいて行き、


「もう悪い事はしちゃダメだぞ」


寛大な心で優しく頭をなでて過去の罪を流してやる事に、そしたらお返しに「うるさい」とお腹にパンチの直撃をくれた。


キレたね。


「何しやがる! この野郎」


腹を押さえ苦しむ俺、その姿をその子は何食わぬ顔で見ていた。


優しくして損した・・なんだこのくそガキは。


仏の様に心が広い俺でもさすがにムッとしたので食ってかかると向こうも反撃してきたので取っ組み合いのケンカになった。


向こうもなかなかやるようでいい勝負を繰り広げる・・小さい男の子と。


先生は子供がじゃれているだけだと思ったのか呆れていたのか何もせず、ただ笑顔で見ているだけ、リアは腹を抱えて笑っていた。


鍛練所を出てから町を適当にブラブラして時間を潰して日が落ち始めたころ宿に戻る。


「今日はたのしかったのう」


宿屋への帰り道の途中そんな事を口にする。


「そうか? ただ歩き回って疲れただけのような気がするのだが」


「ただ歩き回るだけでも一興じゃ、いろんな人間も見えたしの」


「ふ~ん、そんなもんですか」


「そんなもんじゃ」


リアにとっては町をブラブラするだけでも新鮮なのだろう。こんなことで喜んでくれるならいつでも付き合ってやろう。


宿屋に着くや否やリアは買ってきたご飯に食らいつき俺は魔導書を手に取り目を通して新たな魔法を取得、窓の外から天に向かって試してみるも変化は無い。


「ヌメヌメの次は何も習得できないとかどんだけ才能ないんだよ俺」


がっくり頭を落とし窓を閉め振り返るとリアががっついていたご飯から目を離し食いつく様な視線でこちらを見ていた。


「残念ながら面白い事は無いぞ、何の魔法も覚えられなかったみたいだしな」


どうせ俺がどんな魔法を習得したか気になってたんだろうが申し訳ないが成果は無し。

「つまらん」と興味を無くしまたご飯を胃袋にかき込むのだとばかり思っていたがそうせず俺を見つめたまま。


「どうかしたのか?」


「いや、何故だかお主から目が離せんのじゃ」


「もしかしてさっきの魔法の効果か?」


そう、俺は魔法をちゃんと習得していたのだ。

周囲の目を惹きつける魔性の魅力を放つという魔法を。

恐らく今のリアは魅力に当てられて俺に好意を持ってしまったのだろう。


「何じゃこれは、何でお主など見ておらんといかんのじゃ! わしは飯が食いたいんじゃ、どうにかしろ!」


訂正、魅力を放つのではなくただ目を引くだけの様だ。

その後しばらくして効果は解けてリアはご飯を平らげ幸せそうに爆睡。

一応その後外に出てもう一度魔法を試してみるが何故だか周りの人は見向きもしない、もしやと思って村の外に出て試してみるとめちゃくちゃ魔獣に追いかけられた。

どうやらこれは人間以外にしか効かない模様・・・・・・何じゃこりゃ~~!!



これはもはや魔法と言えるのか、炎とか氷とか操る感じのカッコいい魔法を覚えたいのにどうなってんだよ! しかも何で魔限定なんだよ! 人に効いたらまだ使えたかもしれないのに、パーティー最弱の俺が使うことはまずないわ。


もういいあきらめよう、心を無にして眠りについた・・・床で。


そして朝を迎え、町の入口でルナ、ティオ、フレイヤと合流して馬車に乗り旅に出た。



第十二話 END


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