第百二十八話 厳しい現実
狩人を突き刺した剣はすぐに煙の様に消え去った。
「なん、だ・・・?」
狩人の一人の呟き。
何が起きたか分からない、そんな表情で周囲を窺っているせいで逃げ遅れてしまった。
他の仲間は剣が飛んできた方とは逆に一目散に走り去って一人だけ死体の側に取り残される悪夢の様な状況。
「おい、皆・・・」
力なく助けを求めるが返事は返ってこない。置いていかれたと絶望して木の影で震えているとさっきの返事の代わりとでも言うように恐ろしい悲鳴は返ってきた。
動けずその場で息を殺していると剣が飛んできた方から男と少女が魔族の少年の元へとやって来る。
「大丈夫か!?」
少女が声を掛けながら傷を魔法で癒す。
「・・助けて、くれたの?」
「・・ああ、もう心配ない」
「・・・みんな、を」
「・・・お主の友達じゃな? 安心せい皆無事じゃ」
それを聞いたら少年は意識を失ってしまった。
友達を救う為にギリギリのところでどうにか踏ん張っていたのだろう。身体中ボロボロになりながら最後の最後まで救いを求め前へと進む事をやめなかった少年は今使命から解放されて目蓋を閉じた。
「・・・逝ってしまった」
少女は悲しげに呟いて魔法を止める。
「仕方ない、見つけた時点で手遅れだった」
足の怪我も酷いがそれよりもお腹の中心に出来た傷が致命傷、おそらく魔法によって貫かれたのであろう穴から大量に出血していた。
それでも動けていたのは魔族だから、そして何より強い使命感のおかげ。
親を失った子供の魔族数人の集団があった。
今や一つの職業として成り立った狩人から逃れる為人が寄り付かない森の中で肩を寄せ合い隠れる様に暮らしていたが運悪く見つかり襲われ捕まりそこから逃げ延びたのは二人。
そのうちの一人が今ここで死んだ少年、友達が無事と聞いて最後を笑顔で迎えた心優しい魔族の子。
「あれで良かったのかのう?」
悲しげな少女の問いかけ。
「嘘も方便、時と場合によっては嘘も必要って言葉があってだな」
「お主の世界の言葉か?」
「ああ、今のは必要な嘘、別に気に病むことじゃない。リアのおかげでこの子は死ぬ間際を絶望じゃなく安堵で迎えられたんだ、少しは救われたはずだと思う」
「あとは」と男が視線を向けたのは狩人が隠れている方向。
「こんな子供を食い物にする輩を始末する」
一人目を葬った禍々しい剣が男の手に現れる。
魔剣と呼ばれる類の剣、少し視界に入るだけでも恐怖心を与える多くの者に忌み嫌われる武器、それを投げ飛ばす。
しかし狩人は木の陰にいる、当然それは木に阻まれて自分にまでは到達しない、そこから動きさえしなければ問題ないとじっとしていると次の瞬間にはその剣が木を通り抜け心臓を貫かれていた。
現実なんて最悪だ。
この子の友達はみんな既に死んでいる。
捕まった子はその場で、逃げ延びた二人のうちのもう一人は少年が逃げる時間を稼ごうと囮になり大勢を引きつけ覚えたての魔法で抵抗したが捕らえられ散々に痛ぶられ男と少女に少年の事を伝え息を引き取った。
結局誰も助けられていない、救う事の難しさを痛感し男は握りしめた拳を震わせる。