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第百二十六話 撤退

寂れた教会で出会ったシスター。

いつも微笑みを絶やさず女神の如き美しさと優しさを兼ね備えた俺の仲間。


「どうして・・・」


こんな場面でこんな場所にいるのか? そして何より何故アルセリアにあんな言葉を掛けられるのか?


「フレイヤさん」


色々な疑問が一斉に喉まで上がって渋滞、結局どれも言葉にならずどうにか口に出来たのは名前だけ。

それでも彼女は俺が求めているもの理解したのだろう、疑問の回答をあっさりと教えてくれた。


「簡単な話ですよ、私が彼らの仲間だからです」


そう言ってアルセリアの方を見る。

本当に簡単だ、簡単過ぎて笑いが溢れる。

それでも『どうして』なんて言葉に出したのは別の答えを期待してだ。

偶然だとかそれか俺の為とか、とにかくあの男の仲間とか言うの以外だったらなんでも良かったのに望み通りにはならない。


「知ってるんですか?」


肝心なのはこの答え、アルセリアの行いを知って仲間だと言っているのかどうか。

アルセリアの仲間だからって裏切りだなんて言うつもりはない、向こうが本物でこっちにはたまたま手を貸してくれていただけなんだろうとちょっと悲しくなるくらい。しかしだ、非道な実験を知っていてなお仲間だと言っているのなら俺はもう普段のようにフレイヤと接する事は出来る自信がない。

黙って答えを待つ、その間の俺は内心怯えている。

信じたいのだが根が臆病者なせいで嫌な予感ばかり、そんな俺にフレイヤはいつもみたく優しく微笑みを向けてくれ少しだけ安心感のようなものを勝手に抱く。

それが、ただ顔に貼り付けただけのものだと知らず。


「魔族相手にしているアレですか、当然知っています。あまり私好みではないので積極的に関わろうとは思いませんが少しくらいの手助け程度ならした事だってある」


膝から崩れ落ちそうになるほどに衝撃的な話だった。

この人はいい人なんだと信頼しきっていたせいで反動も大きい。


「シスター! 貴様頭のいかれた奴だと思っていたがそこまでか!」


リアの怒号、初めから仲は悪かったがリアが本気の怒りをぶつけるのを見るのはこれが初めてだ。

しかしフレイヤにとってはそんなのどうでも良かったのだろう、本気で怒る相手に対しても彼女はいつもと変わらない。

「そんな汚い言葉遣いは感心しませんよ」といつもみたくリアの頭上から光の柱を召喚し焼くのだがそこだけ違っている。

威力がこれまでとは違う、リアが痛みに悶え悲鳴を上げるほどの威力。


「やめて下さい!」


俺が堪らず叫ぶと彼女は「すいません、少し加減を誤りました。なにぶん大掛かりな魔法を行使した後で疲れていますので」と笑って見せてから魔法を消す。


「大物を捕らえるための鎖、並みのものでは簡単に破壊されるので強度を上げるのに鎖の一本一本に多大な魔力と時間を注ぎ緻密に作り上げたその鎖は捕らえた相手の力も抑える。そんなもの使用したせいでヘトヘトです」


涼しい顔でそんなこと言われて俺にはもうこの人の何が本当で何が嘘なのか分からなくなった。


「私がやる事は終えました、後はアルセリア、あなたのお好きなように」


「ああ助かった」とアルセリアが陛下の方へと近づいていく。

鎖のせいで今の彼女の魔法ではその歩みを止められない。

不味い状況、何をするかなんて分かりきってる、止めないと!

精神的に参っているが身体の方は至って健康、すぐさまアルセリアの前へと立ち塞がる。


「邪魔をしないでもらえるかな?」


「やらせません」


てこでも動かないといった姿勢を見せる、すると大きなため息が。


「人も魔族も救いたい、どちらも守ろうとする中立か・・・」


「それが何か?」


「いや、ただ不愉快だと思ってね」


言葉と同時に刀による一閃、それはかろうじて後ろに避ける事はできたが明確な敵意は未だ向けられたまま。


「何であれ殺しは褒められたものじゃない、そんな事誰だって理解しているさ。それでも殺さなければ殺される、この世界はそう出来てる。魔族は人より遥かに長命、それはつまり過去の争いを経験し恨みを腹に抱えた奴が今も生きていると言う事だ。いつ牙を向けてくるやもしれぬ存在がそこらかしこにいる、そんな恐怖に怯えて生きていけと? 結界で力が抑えられていたと言えど刃物一つ突き刺せば人は簡単に死ぬんだぞ」


冷静な口調ではあるがどこか怒りのようなものを感じる。

言葉で止められる気もしない、戦って止める他ないと覚悟を決めたその時。


「あなたの刀でこの鎖を切って下さい」


俺の後ろの陛下が言った。


「でも俺の力じゃ・・・」


「その刀の特性をもってすれば可能なはずです、この鎖が切れたらその後はこの場を撤退します、あなたはリアを私はしばらくあの男の足止めをしてから向かいます」


確かにここは一度退くのが一番だろう、色々と予期せぬ事が起こり過ぎた。

すぐさま師匠の刀を手に、アルセリアは警戒して動きを止めるその瞬間に後ろに振り向き鎖を断ち切る。

頑丈そうではあったが魔力で作られたもの、ならば切れる。刀身が触れた場所から魔力を吸い上げ真っ二つ。

一息で全てを断ち切り今度は身を焼かれ地面に倒れるリアの元へと駆け出し無事到着、途中フレイヤと目が合ったが彼女は何もして来ない、やる事を終え後は本当に我関せずを貫くようだ。


「リア、無事かっ!?」


抱き上げ確認するとちゃんと息はある、ひとまず胸を撫で下ろす。

後は陛下の到着を待つだけと後ろを振り返ると━━━━━腹部を何者かの剣が貫いた。

幸い抱き上げたリアは無事、勿論のことその程度なら俺も無事だがそれをやった人物を見て心の方は裂かれるような痛みを味わった。


「・・・ルナ」


犯人の、そして仲間の名前を口にする。


「魔族に味方なんてするから・・」


「人の事言えるのか? お前だってリアとそれなりに仲良くやってただろう?」


「それは・・・油断させて仕留める機会を伺ってただけ。全部演技」


「リアがお前に何かしたか?」


「その子個人に恨みは無いけど魔族はやっぱり許せない」


何もされてない恨みも無いだけど魔族だから殺すって思うその思考回路、余所者の俺には全く理解不能だ。

だから腹が立っても仕方ない。


「なんか気に食わないから殺すってのと同じじゃないか、お前の方がよっぽど狂気じみてる」


「何ですって?」


いつもみたいに怖い顔と声で脅しにかかってくるが今回ばかりは引くわけにはいかない。


「偏った見方しか出来ないくすんだその目、ちゃんと洗ってこい馬鹿!」


怒りと共に拳をお見舞い・・・は止めておきちょっと強い力で押し飛ばす、そして腹に突き刺さった剣を入ってきた方とは逆の方向に引っこ抜き血みどろになった剣を尻餅ついたルナの脇に放り投げてやった。

「ひっ」と普通の女の子らしい反応を頂いたところで陛下が。


「無事ですか!?」


「俺もリアも問題ありません」


「では転移します」


光に包まれる。

これで一安心、そんな考えがフラグとなったのかもしれない。


「あなたは逃しません」


フレイヤによって生み出された一本の鎖が陛下の腕に絡み付く。

たった一本、時間にして数秒、でもそれが致命的だった。


血、陛下の胸から心臓のあたりから飛び出してきた刀から流れる。口からは血飛沫。


「えっ」


現状を理解出来ない哀れな俺から漏れ出るのはそんなみっともない言葉。

だってこんな事目の前で起きるなんて思わない、後少しと言うところでこんな、何かの作り物の物語みたいな事・・。


「貴方たちだけでも・・・」


それが彼女の最後の言葉。

俺とリアはそのまま光に包まれた。










「仲間だけは逃したか、この刀で二度も貫かれられておいてそこまでやれるとは」


「魔力を奪う刀、レンが使っていた物と同じ・・」


「その通り、本来なら突き刺した時点で全魔力を吸い上げるはずなのだが貴方は格が違ったようだ。量が多過ぎ吸い尽くせずおまけにこの刀の仕組みに気付いて徹底的に近付けないよう立ち回った」


「一度、それで敗北していますからね・・」


途切れ途切れの呼吸、もう限界は近かった。


「最後に聞きたいのだがあの男が持っていた刀は何だ?」


「・・・さあ・・・」


答える事はせず彼女は息を引き取った。

アルセリアはその身体に今一度刀を突き立てる。

英雄と肩を並べ戦ったもう一人の立役者、そんな相手の力を全て自分の物にするために。





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