第百二十話 突入④
視界いっぱいに広がる血の海、数多の死体が地面を埋め尽くしている。
吐き気を催す血の臭いに耐えて足を踏み出すとぴちゃりと血が足元で撥ねるとにかく気持ちの悪い状況、出来るだけ見ないようにしてさっさと通り過ぎる事にした。
開きっぱなしになった正門から城の内部へ、やはりここも表と同じで白い床や壁に赤で着色されている。
「一体どういう事じゃろうな?」
リアが辺りを見回しながら不思議そうにしている。
俺も同じ思いを感じている、この状況が理解出来ない。
この街では人間は魔族の支配下にあって絶対服従、圧倒的な力の差がその構図を作り出しているはずでさっきや今目の前に広がってる光景は普通あり得ない。
こんな風に魔族が虐殺されているような光景は・・・。
「分からないが俺たちの敵ではないと思う」
殺されているのは魔族だけ、つまりこれをやった奴も俺たちと目的は同じで街の奪還といったところだろう、もしかしたら協力できるかもしれない。
待ち受ける相手は強大、味方は多い方が良い。
謎の支援によって城内部を進むのに苦労する事はなく簡単に玉座まで辿り着いた。
激しい戦いを予感して足を踏み入れたのだがすでに勝負は決していた。
女騎士は腹部を手で押さえぜぇはぁと息を荒くしている、押さえた手からは血が漏れ出て来て立っているだけでも辛そうな有り様、そんな状態でも姫様の前に立ち騎士としての役割を全うしようとしている。
姫様の方は怪我こそ未だ負ってはいないが危機的状況であることは表情から分かる。
あの二人をここまで追い詰めた人物はたったの二人、しかもどちらも傷一つないように見える。
「誰だ?」
俺達の気配でも感じ取ったのかこちらを見ることなく背中を向けたまま聞いてくる。
対して一緒にいた人物は気付いていなかったのか慌ててこちらに顔を向けて来て目が合いお互い驚きを露わにする事となった。
「あんた、何で!?」
信じられないといったような声、その理由は俺が死んだと思っているから、そしてそれを知っているのはまだ出会う事が出来ていなかった仲間の一人。
「お前こそどうして!?」
そこにいたのはルナだった。
「知り合いかい?」
ルナと一緒にいた謎の男が聞いてくる。
「え、えぇ、暫く一緒に行動してた・・・けど」
「けど?」
「殺されたはず、心臓を抉り取られて」
「ほぅ」
男が興味深そうな声を出すと同時にこちらに顔を向ける。ルナと同じ白銀の髪、そして切れ長の目と整った顔立ちは漫画で見るような王子様といった感じであらゆる女性を虜にしてしまうであろうと想像出来る。
「君がルナが世話になったという青年か。この子は強気で友の一人も上手に作れない不器用な子でねかなり手を焼いただろう? それでも最後まで見捨てないでいてくれたようで感謝するよ」
「ちょっと!」
ルナが頬を赤らめ男を睨みつける。
「ははは、すまない、確か逆だったかかな? 君が彼の面倒を見ていたのだったか」
こんな場所でまさかの和やかなムード、違和感しかない。
「あの、もしかしたらルナのお兄さんとかですか?」
ルナと親しげで同じ髪色、そして言動からそう判断した。
「ああそうだ、私はルナの兄で名はアルセリア。君はカンザキ君で良かったかな?」
「あ、はい」
「宜しく頼むよ」
ついついい悠長に会話をしてしまったがここには負傷しているとはいえ女騎士がいる、相手が油断しているこんな絶好の機会を見逃すはずなかった。
背を向けたアルセリアへと瞬時に迫り頭上から剣を振り下ろす。
「あぶないっ!」
背後に迫った危険を伝えるも女騎士の動きは素早くアルセリアが後ろを振り向く時間すら与えてはくれない。
「くたばれぇぇ!!」
背後から叫びと共に高速で落ちて来た剣による一撃、アルセリアはそれを避ける事はなかった。