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第十一話 邂逅

バンッと酒場のテーブルを叩いて俺は言う。


「魔王討伐の旅に出ようかと思うんだが」


同じテーブルに座っていたルナ、フレイヤ、ティオは呆然とした表情でただ俺を見ているだけだった。


俺が突然旅に出ようと言い出したのには理由がある、まず、もともと俺は魔王を倒すことを目標としていたはずだ、しかし今の状態はどうだ? 毎日魔物の討伐依頼や素材集めなどの依頼をこなす日々、これではまるでロールプレイングゲームというよりは狩りゲーではないだろうか・・・なんか想像と違う・・・という結論に至ったのだ。

魔王を倒した英雄、そして伝説として語り継がれる。    憧れるよね!

いい感じに戦士、僧侶、魔法使いの仲間が俺という勇者(遊び人)の元に集まったのでそろそろ旅に出ようと思った。


「みんなにもついてきてほしい」


テーブルに手を着き頭を下げた。


正直、付いてきてくれるかは分からなかった。急に魔王討伐などと言われてもイメージがわかないだろう、それにこの町でやる事もあるかもしれないし、家族がいるのかもしれない。


それでも俺はいままで一緒に戦ったこの4人で旅に出たいと思ったのだ。


完全に俺のわがままだ、断られてもしかたがない、たとえ断られたとしても笑顔で別れようと決意してみんなに頼んだ。


「いいわよ」「・・・・・」「はい」


答えはあまりにもあっさりとしていた。


「・・・本当に!?」


まさかこんなにすぐ答えてくれるとは想定していなかった俺は驚きの表情を浮かべもう一度念のため確認した。


「だから、行くわよ。そろそろこの町にも飽きてきたから次の町に行こうと思ってたし、それに、私も魔王を倒すつもりだったから」


続けてティオが、


「行きます、私もいつかは旅に出るつもりでしたから。魔王と戦うのは私じゃ無理かもしれませんけど、旅に出ていろんな所を回っていれば色々な魔法道具に出会えるかもしれませんし」


よかった、最悪一人で旅に出ることになるかもしれないと思っていた。


魔王討伐という危険な旅について来てくれるなんて本当にありがたかった。


ぼっちにならずに済んだ。


ただ一人返事をしてくれなかったのはフレイヤだった、彼女は教会もあるだろうし簡単には答えが出せないのだろう。しかし彼女はパーティー唯一の回復役でいつも助けられてきたのだ、そんな彼女がいなくなってしまうのは少々不安だ・・・というか・・・・フレイヤと旅をしたい!!


明るく別れようと思ったがやっぱり嫌だ。


「フレイヤさん一緒に来てもらえませんか?」


少しの間をおいてフレイヤは口を開いた。


「ユウタさんは魔王を倒したいのですか?」


「はい!」


「そうですか、分かりました。では魔王の所に行きましょうか!」


「ありがとうございます。それじゃあみんなで明日にでも旅に出ましょう」


「いえ、いますぐ行きませんか・・・魔王の所へ」


「・・・は、えっ、いや、いますぐは無理ですよ、まだまだ装備も未熟ですし、なにしろ魔王がどこにいるか何て分からないじゃないですか」


顔にニコニコ顔を張り付けてるんじゃないかと思うくらいいつもニコニコ顔のフレイヤさんはいつもの笑顔で冗談みたいなことを言う。


「私、分かりますよ、それに、たぶん今すぐ行っても大丈夫だと思いますよ」


いやいや・・そんな近所の友達の所に行くような感覚で言われても・・・。


魔王ですよ、魔王、今すぐ行ったら間違いなく全滅の未来しかありませんよ。


そんな俺の気持ちを代弁するかのようにルナが腕を組みながら呆れた表情で正論を口にする。


「何言ってんのよ、いますぐ行ったって私はともかくこっちの馬鹿は間違いなく死ぬ事になるに決まってるじゃない」


呆れた顔でこっちの馬鹿こと俺を指差す。

それにティオも続く。


「そうですよ、聞くところによれば魔王は配下の魔物に人間を連れてこさせ生きたまま四肢を切断しその肉を食らい生き血を啜るという噂です、いたずらに足を踏み入れるべきではないかと・・」


・・・えっ!?・・マジで・・ちょっとリアルに怖すぎる・・魔王って実際はそんなことしてんの? 椅子に座って偉そうにふんぞり返ってるだけじゃないの? ヤバイ、イメージと全然違う、行きたくなくなってきた・・。


しかしフレイヤさんは全く動じる様子を見せることなく、


「大丈夫ですよ、私がいますから」


と胸に手をやり、えっへんというような顔を作り自信満々に答える。

なんかやる気のフレイヤさんには申し訳ないがティオの話を聞いて今更になって怖くなってきた俺は作戦の変更を提案。


「フレイヤさん、やはり今すぐ行くのは無謀のようです、まずは各地を回って魔王を倒さんとする仲間をもう10人ほど集め、伝説の武器と防具の情報でも聞きまわり実際にそれを入手してから、魔王の所に行くとしましょう」


と真顔で提案すると「ちょっと目標が遠回り過ぎない?」とルナに突っ込まれたがそこは無視した。


安全第一だ、ロールプレイングゲームのラスボス直前で装備は最強にしてステータスはラスボスを簡単に倒せるであろうレベルまで強化してから戦いに挑む俺だ、もっと言えば途中のボス戦ですらバカみたいにレベルを上げてからじゃないと挑まない俺がいきなり魔王に挑むなんて・・・・ありえない。

苦戦するのって好きじゃ無いんだよね。

だが俺の提案はまったく意味を成さなかったようだ、フレイヤは何を血迷ったのか突然「転移」と口にする、途端に俺達の周りが光に包まれあまりの眩しさに目を瞑って次に開くとそこはさっきまで俺達がいた酒場とは180度姿を変えていた。


あたりは薄暗く空気が冷たい。

だだっ広い空間、石造りの壁に床には真っ赤な絨毯が敷かれている。中央には大きな階段、各所に趣向を凝らした装飾の数々、天井にはド派手なシャンデリア。


「まさか、ここは・・・」


どこにいるかはほとんど予想はついていたが思わずそう口にしていた。


「はい、魔王城です」


平然とフレイヤが答える。


「ちょっと! 何やってくれんのよ、今すぐ帰るわよ!」


「帰るのはいいですけど、ここからでは歩いて帰るにも相当な距離がありますよ。それに、危険な魔物もたくさんいますし」


「じゃあ、あんたの魔法で連れて行きなさいよ!」


「嫌で~す」


「このっ」と一瞬フレイヤを睨みつけたが、彼女を説得するのをあきらめたのか次はティオに向かって、


「ティオ、転移魔法陣持ってない?」


と怯えた様子であたりを見回しているティオに聞く。


「すいません、道具は全部家に置いていて今は何も持ってないんです」


それはそうだろう、今日は別に依頼に行くわけでもなく酒場で話していただけなのだから、俺とルナも一応武器は持ってはいるが道具は何も持っていない、道具はいつも町の外に出る前に用意していたからだ。


ルナはがっくりと肩を落とし「はぁ~まぁそうよね」と言って嘆息を漏らしたがすぐに立ち直り険しい表情でフレイヤに詰め寄った。


「あんたどういうつもり? いきなり私たちをこんな所に連れてきて」


「どうもこうも、魔王に会いたかったのでしょう?」


言いつつフレイヤは視線をこちらに向けた。


「いや、でも、さすがにいきなりはきついですよ、ここは一度町に戻りませんか?」


しかし撤退を求める俺の言葉を無視して「あそこの扉の奥に魔王がいるはずですから、さぁ行きましょう」と歩き出した。


彼女の進んでいく先を見てみる、そこには威圧感のある両開きの大きな扉があった。

気配とかよく分からない俺でもこの先に何かいる事は分かった。


「どうするの?」


「行くしかないだろ、帰る手段もないんだから」


俺とルナはひそひそ声で相談し、結局、フレイヤの後をついて行くことにした。


扉の前につくとすぐに「開けますよ~」と気の抜ける声で扉を開けようとするフレイヤを俺は一旦制止して「本当に大丈夫なんですよね?」と若干の不安感を抱きながら確認した。


フレイヤを信じたい気持ちが一番だったが、やはり今の俺達で魔王がどうにかできるとはどうしても思えなかったのだ。


そんな俺の不安感など気にする素振りも見せず、いつものようなニコニコ顔で「大丈夫ですよ」と答えるだけだった。


そして、扉が開かれた。


真っ赤な絨毯が続く先に豪華な椅子が一つ置いている、そしてそこに腰掛ける何者かの姿があった。

背が高く、体すべて包み込むほど丈の長い漆黒のローブを身に纏っている。


フードを深々とかぶり顔は良く見えないが伝わってくる、そいつがとてつもなく危険な奴だという感覚がひしひしと。頭の中で今すぐ逃げろと警鐘が打ち鳴らされ心臓が早鐘を打ち全身から冷や汗が噴き出してきた。


これが・・・魔王・・・心の中でそう呟いた。


その刹那、椅子に座っていた奴が口を開いた。


「貴様は・・・久しいなシスター・・・・よく来た」


男の低い声、とても冷たい。


だがそんな事よりも気になったのはそいつの言葉。


俺の聞き間違いでなければ”よく来たな”と言った、しかも、顔見知りのようだったぞ・・・。


ルナもティオも俺と同じことを思ったのか、ハッとした顔をした。


ティオは今にも泣きだしそうな表情でフレイヤを見てルナは怒りをあらわに声を荒げる。


「騙したわね! あんた魔王の手下だったんでしょ! 私たちを魔王に捧げるためにここに連れてきたんでしょ!?」


詰め寄られてもフレイヤは動じずただこの状況を楽しんでいるかのように微笑みを浮かべた。


「フレイヤさん、これは何かの間違いですよね? フレイヤさんが魔王の手下なんて事ありませんよね?」


そう、これは俺の願望だ。この状況でフレイヤが魔王と何の関係も無いとは誰がどう見ても思えないだろう。しかし聞かずにはいられなかった、彼女の口から「自分は魔王の手下だ」と聞くまでは彼女を信じたかった、フレイヤは俺達の仲間だから。


しかしフレイヤは何も答えない。


そんな質問をする俺に業を煮やしたのかルナが今度は俺に向かって言った。


「現実を見なさい!! 何も答えないのが証拠でしょう!!!」


「分かってるよ、そんな事・・・でも・・」


どうすればいいんだ、どうすればいいんだ、どうすれば・・・・。


クソッ、だめだっ! 今は生き残る事だけ考えなくては。


どうやってこの場から逃げればいい・・・。


俺は頭をフル回転させて思考した。


・・・・ダメか・・道具は何もないし、フレイヤ以外の誰も移動する魔法は使う事は出来ない・・ここで終わりなのか?


その時! 椅子に座っている奴が唐突に口を開いた。


「貴様ら・・わしの事を無視しおって、人の話は最後まで聞け~い!・・あ、人じゃないけど・・・」


何を怒っているんだ? いや、そんなことはどうでもいい、ついに、こちらに何か仕掛けてくるんだろう。


「クククク・・・シスターよく来たな・・・あの時の怨み今ここで晴らしてくれよう・・」


そう言うと同時に魔王が勢いよくこちらに飛びかかってきた。

まるで猫のように素早い動き、しかしフレイヤの方が一足早かった。

「えいっ」と人差し指でこちらに向かってきている奴を指差すとそいつの頭上からいきなり眩い光が降り注ぎ「ウギャァァア」という叫び声が響き渡る。

光と叫び、二つがなくなった後そこに残ったのは何故だか分からないが気を失った少女の姿。


明るい赤色の髪を胸のあたりまで伸ばした小学生ぐらいであろうかという女の子、ただ人ではなさそうだ。だって角が生えている。


というかさっきの男はどうした? この女の子はどこから現れた? 様々な疑問が頭に浮かび上がってきた。


状況がまったく理解できない、フレイヤは魔王の手下ではなかったのか、そういえば、魔王も”あの時の怨み今ここで晴らしてくれよう”と言っていた。いったいどういう事だ? この状況に頭が追いつかない。


ルナとティオもただ呆然としていた。


パニック状態ながらもようよう言葉を絞りだしフレイヤに問う、


「これは一体どういう事なんですか?」


すると「ぷっ、あっはははは!」と笑い始める。


「皆さんの反応、とても最高です!」


「はぁ? あんた魔王の手下じゃなかったの」


ルナが割り込む、


「私がいつそんなこと言いました?」


「そんな奴がわしの手下なわけがなかろう・・」


床に転がっていた女の子がいつの間にか目を覚ましていたようだ、その女の子は地面に片手をつき生まれたての小鹿のように手足を震わせ必死に起き上がろうとしていた。


「じゃあなんで私たちが聞いたとき何も答えなかったのよ?」


当たり前の疑問だった、すぐに違うと言ってくれればフレイヤをここまで疑う事はなかっただろう、しかしフレイヤはすぐに違うとは否定しなかった、つまり何か言えない事情でもあったのだろう、俺はそう推測した。


「それは・・・・」


しばらくの沈黙の後、フレイヤは輝くような笑顔で、


「面白かったからです!」


・・・・・・・・・・


「「「は!?」」」


俺とルナとティオは目を点にしてフレイヤを見つめる。


面白かったから!? マジですか?


「ふざけないでよ! 私たちがどれほど不安だったか考えなさいよ!」


ルナの怒声が聞こえてくる。


「すいません、笑いを堪えるので一杯一杯だったもので、でも私は初めから大丈夫だと言っていたじゃないですか、皆さんは私を信じてくれてなかったのですか・・悲しいです」


と目元に手をやり泣いているような仕草をした。


「うっ、それはそうだけど・・・」


そう言われるとルナもそれ以上は何も言えなかった。


たしかにフレイヤは大丈夫だとずっと言っていた、それを信じきれなかった俺達が悪い・・・のか?


「ククククク・・・仲間割れとは滑稽だな」


いまだ起き上がれず地面にひれ伏した状態のまま女の子がなんとも偉そうに上から目線で語っている。・・・・お前が言うか、と思ったが口には出さなかった。


ところでこの子は一体何者なんだろう? いまさらになって気になってきた。


「フレイヤさん、この子は一体何なんですか?」


「その子は魔王の娘です」


「魔王の娘!?」


「はい」


「この子が魔王の娘と言うなら近くに魔王がいるんじゃないですか? 早く逃げた方が・・」


「おらんよ、私の父上も母上も近くには・・・」


言って女の子は少し悲しそうに俯いた。


居ない? それじゃあこの子はこんな広い城の中で一人で暮らしているという事なのか。


そういえば、あたりに魔物の姿を全く見つけられなかった。


普通、魔王城なら魔王の配下の魔物がたくさん辺りをうろついているものだろう、もし今偶然近くにいないとしてもこれだけ物音を立てているのだ、誰も気づかないというのはさすがにありえないだろう。


もしや、この女の子が言っていたあの時の怨みと言うのは・・。


「フレイヤさんは前にもここに来たことがあるんですか?」


「ありますよ」


「それじゃあ、その時に・・・」


「そうじゃよ、そやつは以前この城に来たときにわしの父上と母上を・・・」


目に涙を浮かべ女の子はそこで言葉に詰まった。


やはりか、俺は女の子に同情すると同時に仕方ないとも思った。


この女の子を見てしまうと心が痛むが、魔王なのだ、何の罪もない人を残酷に殺し食べる。


誰かがいつか倒さなければ犠牲者がたくさん出てしまう。


「わしらがお前らに何をした?」


目の涙を拭いつつこちらを睨みつけながら聞いてきた。


「何をしたかですって、ふざけたこと言わないで! あんた達みたいな魔族やその配下の魔獣がどれだけの人に迷惑を掛けてると思ってるのよ! その中には家族を殺された人だっているのよ、自分たちだけ被害者面しないで!!」


すさまじい剣幕でルナが叫ぶように言う。


「フッ・・魔獣は別にわしらの配下ではない、この世の魔獣はすべて個々の意思で行動しておる、配下の魔獣などわしらにはおらんよ」


「だけど、この世界の魔獣はすべて魔王の配下で魔王の意思に沿って行動していると聞いたことがあります」


とティオ。


「そんなものは頭の悪い人間が勝手に流した噂だろう、そんなものを信じるなど愚かな」


「そんな・・・・すいません」


ティオは本当に申し訳なさそうに謝っていた。


「あんたが嘘を言ってるのかもしれないじゃない」


ルナは訝しげな表情をした。


「魔王の娘だからか? 魔王の血筋のものは皆悪だと決めつけるのか。わしらは何も悪いことはしておらん、人間を殺したことも一度もない」


たしかに噂やイメージだけで勝手に決めつけるのは良くないことかもしれない、俺もゲームのイメージで魔王は倒さなければならない悪だと勝手に思い込んでいた。


「話は終わりましたか?」


フレイヤが魔王の娘の方に一歩踏み出した。


「それじゃあ、そろそろ倒しちゃいましょう」


「いやいや、ちょっと待ってください!」


あわてて俺はフレイヤを止めにかかる。


「どうしました?」


「今回はやめましょう」


「貴様、魔王の娘であるわしに情けをかけるのか?」


「いや、そういうつもりじゃない。というか今回は俺たちが悪かった。血筋とか見た目とかイメージとかで悪だと決めつけて、結局悪いのは悪いことをする奴なんだ。そんな当たり前のことを忘れてた。本当にごめんな」


「人間が魔族に謝るのか?」


「人とか魔族とか関係無いだろ? 勝手に家に侵入してこんな事してどう考えたってこっちが悪い、本当にごめんなさい」


「ふふっ、分かりました。では放置ということで」


フレイヤさんも分かってくれた。

今回はやめておこう、この子が本当の事を言っているのか分からないが嘘だという証拠もない、疑わしきは罰せずだ。


ゆっくり魔王の娘の方に歩いて行き地面に倒れている彼女の前でしゃがみ込んだ。


魔王の娘は警戒するようにこちらを見る。


「何か色々と悪かった」


心の底からの謝罪の意とともに深く頭を下げる。


「お主、本当に人間か?」


「どう見たって人間だろ」


そんなにおかしな事なのだろうか? 人と魔族の関係性を詳しく知らない俺にはよく分からん。だから俺は悪い事をしたら謝るという親の教えに従うまで。


「それじゃあ、俺達帰るよ」


言うことも言ったし長居しても迷惑をかけるだけ早く帰ろう。


「元気でな」


手を振り別れを告げる。


「待って」


帰る気満々の俺をルナが止めそして耳元でとんでもない事を言い始める。


「あれは魔族、人を害する存在、此処で仕留めておくべき」


「馬鹿言うな、まだ子供だしそもそもあの子は何もしてないだろ」


「そんなの分からないじゃない、魔族なら平気で嘘をつく。それに今何もしていなくても将来的に必ず人を害する存在になる」


「この世に必ずなんて事はない、今犯してもいない罪で裁くなんて間違いだ」


「・・・・」


いつにも増して過激な発言をするルナを珍しく真面目な事を言って諭す。

危険だから殺す、この世界の人と魔族の関係はこれが普通なのだろうか? ちょっと理解出来ない。


「では帰りますか?」


微妙な空気を払うフレイヤの声。


「そうですね」


「それではこれにて失礼しましょう。お父さんとお母さんによろしくお伝えください」


そんな事を言って魔王の娘に手を振るフレイヤ、さすがにそれはと止めにかかると不思議そうに首を傾げる。


「あの子の両親はフレイヤさんが、その、殺したんじゃ・・・」


「私は殺してなどいませんよ」


・・・・もう何が何だか訳が分からないよ??


「いや、でもさっきあの子がもう死んでるみたいに話してたから。わしの父上と母上は・・とか言って目に涙浮かべて・・・」


「死んではおらんが、そのシスターによって大怪我を負わされてしもうたんじゃ!」


とフレイヤを指差していた。


「え、だっていきなり攻撃してきて怖かったんですもん」


「そりゃ攻撃するわ、家の中に人間対策の結界をすべて破った得体の知れない者が勝手に入ってきておったら」


「ですが、いきなり攻撃するなんて感心しませんよ、めっ、です」


魔王の娘はどんどんイライラしていた。


「めっ、だと! 貴様のやったことはそんな可愛いもんじゃないじゃろう、わしの父上は貴様との戦闘の後『もう魔王なんてやだ、なまじ魔王なんて肩書きがあるから攻撃されるんだ・・もう魔王なんてやめる、魔王を止めて農家になる、いや、農家王になる』などと意味の分からん事を突然言い出して、今日も畑で母上と一緒に汗を流しておるわ!! 貴様いったい何をした!?」


「私は特に何もしてませんよ、ただちょっと懲らしめてお説教をしただけですよ」


魔王の娘は何かをあきらめた様子でそれ以上何も言い返さなかった。


フレイヤ、恐ろしい子・・・。


魔王の肉体と精神をそこまで傷つけるなんて。


フレイヤを怒らせてはならないと胸に刻んだ。


そうして、帰ろうとしていた時、魔王の娘が、


「おい、そこの人間もう帰るのか?」


「はい、お邪魔しました」


「あ~最近父上も母上も仕事で暇じゃな~どこかに旅にでも行ってみたいな~」


といかにもわざとらしくこちらをチラチラと見ながら独り言を言っていた。


「魔王の娘が仲間になりたそうにこちらを見てますよ」


その姿を見てフレイヤが悪戯っぽい笑みを浮かべた。

いやいやあり得ない、あれほどフレイヤさんを恨んでいるのにそれは無い。


「気のせいでしょ」


「気のせいではないっ!」


魔王の娘本人がそう言うならそうなのだろうが何故?


「わしは人間というものに興味が湧いた。人間とは皆そこのシスターの様に野蛮かと思っておったがお主のように頭を下げれる奴もいる、人間とは一体どういうものなのか? わし自らの目で見て判断したいと思うてな」


「でも・・」と俺はフレイヤの方を見る。

俺達についてくるという事は彼女とも一緒に行動するという事。


「大丈夫?」


「お主がそいつからわしを守れば良いだけの事」


「何だが誤解されているみたいですが私はおいたをしなければ何もしませんよ」


まあ最初も不法侵入は置いといて初めに攻撃したのは向こうでそれに迎撃したという形、危害を加えようとしなければ何もしないと言うのは事実だろう。

どうする・・この子は別に悪い子には見えないけど一応魔王の娘だ、他の二人にも聞いてみよう。


「ルナとティオはどう思う?」


するとティオは「悪い子には見えませんし私は賛成です」と、一方魔族をよく思ってないルナは「好きにすれば」と意外にも否定はしない。


「じゃあ一緒に行くか」


「本当か!?」


「ああ」


「そうか、わしはリアじゃ、よろしく頼むぞ」




リアが仲間になった。


第十一話 END


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