第百十六話 特訓②
どこかの山の山頂にいる。
赤黒い空の模様から察するにここは魔界だろうか?
「ここは私の故郷です」
隣に立つ陛下が言う。
いきなり俺の手を掴み転移をしてやって来たのがこの場所。
「ここで特訓を?」
聞くと陛下は頷いて見せる。
「魔界で、しかもこんな周囲に何も無い山の頂上なら彼女たちの目に入る恐れもありませんから少々派手にしても問題ありませんから」
彼女たち、姫様達は現在人間界のことしか目にない、ここなら存分に出来るかもしれないが果たしてそこまでする必要があるのだろうか?
あの城の中でも十分な広さがあって俺としても文句なしに戦えたのだが・・・。
「では、時間が惜しいので始めましょうか」
陛下が剣を構えるのにつられて刀を構える。魔剣もあるがあっちは何の能力があるかも分からないので現状普通の剣と変わらない、あまり使ってもいないし師匠の刀の方が良い。
「いきますよ」
まるでスイッチを切り替えたみたいに冷たい声、師匠もそうだったが陛下も一瞬で纏う雰囲気を変えてしまう。戦いを前に余計な感情は持ち込まない為に心を律する、そういう事を当たり前のように出来るのだろう。
俺も目の前の相手に集中し「お願いします」と答える。
陛下の戦い方は魔法と剣技、魔法で牽制しつつ接近して剣で仕留める戦い方というのは学んでいる。
魔法を絡められる距離で戦うのはそういうの出来ない俺にとって不利でしかない、つまり、こっちから懐に飛び込んで仕舞えば良い。力と速さなら今の俺の方に分がある、近づきさえすればと正面から突っ込んでいくのだが陛下の前で地面が隆起し壁が形成される。
しかし今の力なら簡単に両断、足止めにもならずそのまま止まる事なく相手に向かうつもりでいたのだが表情を変えず余裕な佇まいの陛下に怖くなって足を止めてしまった。
「賢明です」
そう言って笑みを浮かべた後、さっき俺が突撃しようとしていた場所の足元から幾つもの氷柱が、あのまま飛び込んでいれば串刺しは不可避。
俺は問題ないとは言えなんか前回と比べて随分と殺意が高くなっている気が・・・これはどこか師匠に似たイカれたレベルの特訓が待ち受けている予感がする。
そんな予感は的中、腕や足の一本は当たり前、俺が下手を打てばすかさず死に至るレベルの攻撃を躊躇なく行なってくる。
しかしこれは俺が望んだ厳しさ、短い期間で強くなりたいという俺の望みを陛下は全力で叶えようとしてくれているのだから俺も全力で特訓に取り組む。
部活で流すことが無かった汗を今ここで・・・というには過激で汗よりも血の方をよく流しているが目標を持って何かに打ち込むというのは気持ち良い。
少しだけスポーツマンの気持ちが理解出来た気がする。