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第百十四話 覚悟改め

手合わせを終えて陛下から師匠の話を聞いたのだが正直別の誰かの話を聞いてるかのようだった。


「師匠ってその時は結構・・・」


「残忍でしたね」


いやそこまで言うつもりは無かったのだが・・・これは相当恨んでいるのかもしれない。

脅して配下にして仲間を裏切らせたのだ、かなりの恨みを抱いていてもおかしくない、つまりその人物を師と仰ぐ俺も恨みの対象になりうるのでは?

ゴクリとつばを飲み込みその顔に若干の恐れを浮かび上がらせる俺に気付いてか慌てて付け加える。


「出会いは酷かったですか実際共に時間を過ごす中でレンに対する評価は変わりました。今は彼女はかけがえのない友人の一人、その弟子もまた同じくです」


暖かさと悲しみが混ざった目で陛下は師匠を語る、きっと思い出を懐かしみつつもその相手がいなくなってしまった事に胸を痛めてもいる、嘘偽りなくかけがえのない友人だったのだろう。


「レンと私は協力して魔族を降伏へと追いやった、そして武器を捨てた魔族達の協力で大陸に術を展開した」


自らの力を縛る術ではあったがそれで信用を得られ人と同じ様に扱われる、生活だって保証されておまけに、そこまで言って陛下は何かを思い出してくすっと笑う。


「大事な協力者に手を出す者は争いを生み出そうとする不穏分子として英雄自ら粛清するのでそう言う人間が現れない様にしっかり管理しろと半ば脅す形で人の王にレンが真っ正面から言って聞かせてしまった」


魔族に対して非情に徹するのかと思ったが全然そんな事はなく虐げる事は許さないと寧ろ守ろうとする、英雄が率先して魔族に歩み寄ろうとする姿はそれなりに効果はあった。

もちろん人にも魔族にも納得出来る者ばかりではない、とはいえ魔族は既に術が為され歯向かったところで勝ち目もない、そういう者達は内に怒りを抱いたまま魔界に戻った。

人は自分たちの王からの言葉もあって納得できなくても従う。


「それから暫くしてレンは人の前から姿を消した」


その理由は師匠から聞いている。

確か殺しの衝動に苛まれ人が寄り付かない場所を求めて深淵へと至った。


「姿を消す前に師匠は何か言ってたんですか?」


師匠は自分のそんな状態を陛下に言っていたのだろうか?


「何も、ある日突然消えるみたいに私の前から居なくなりました。何で黙って行ってしまうのか、どうして一つでも言葉を残してくれないのかと憤りもしましたがそんな結果になってしまった原因は私にもある」


「何かしたんですか?」


その問いに陛下は首を横に振る。


「逆です。何もしなかった」


陛下は下唇を噛み拳を強く握った。


「目つきや口振りがだんだん人が変わったようになってきていたのに気付いていながら何もしなかったのです。人と魔族では成長の速度が違う、人間の成長は早いのでそういったものから来る変化なのだと思ってたんですが恐らく彼女のアレはそういう類のものじゃなかった」


「どうしてそう思ったんです?」


「時間を掛けて彼女の行方を探ってようやく見つけた深淵で私は再び彼女に刃を向けられたのです」


「そんなっ!」


「自分を見失っているような状態でした、一太刀振るった後にすぐに正気を取り戻しましたが彼女は自分のその行いにひどく取り乱し最後に一言『二度とこの場所にはくるな』とだけ言い残して消えた」


それでも陛下は度々深淵を訪れていたそうだ。

だが結局それ以来一度も師匠の前には姿を出さなかった。その理由は“怖かったから“だそうだ。

英雄としての彼女の強さに対する恐怖では無い、友人として彼女に好意を持っているが故に敵意を向けられるのがどうしても怖かったらしい。


「結局最後の最後まで会えず終い、私に彼女の敵意を受け止められる精神力がないばかりに後悔だけを残したお別れになってしまいました」


「すいません」


「貴方が謝ることではありません、いつまでも臆していた私の責任です。貴方は彼女を苦しみから解放してあげたのでしょう。向き合うことから避けた私と違って貴方はちゃんと終わりにした、立派な弟子ですよ」


そう言って俺の頭を撫でる陛下の瞳は涙で濡れていた。

後悔もあるのだろうがそれ以上に友が救われた事が嬉しかったのかも知れない。


「レンがその身を賭して作った平和、永遠の物にしたかったのですがやはり上手くいきませんね」


今現在、陛下と師匠が導いた平和は崩され人は魔族を憎み、魔族は人を憎み行動を起こしている。


「平和の中時間が経てば英雄という存在がもたらす効果もなくなっていく、世代が変われば人の認識も少しずつ変わる、魔族と魔獣を一緒くたに考える人間も出てくる様になる、魔族にだってそういう者は・・・」


陛下の目が向いた先にいるリアが慌てて顔を逸らしている。


「何故手を取り合えないのだろうか? 姿形もほとんど変わらぬというのに。やはりどちらか一方が滅びなければ争いは終わらないのだろうか・・・」


儚げに陛下は呟いた。







俺とリアの二人で城下へとやって来た。

ここには人と魔族が共に暮らしているらしいがそれを感じさせる様な(いさか)いは見えない。

そもそも人と魔族の違いなど魔力を除けば些末なもの。目、髪色の違い、ちょっと特徴的な耳の形とか身長が高いとか角を生やしてたりもするくらい、見た目の違いなど大したものではない。一番懸念すべき誰かに害を与えるというのは人も魔族も同じ、心の作りはどちらも変わらない。

この光景こそ陛下の理想、この光景を大陸中に拡げるにはどうすれば良いか? 俺には何も思いつかないから陛下の手助けは難しいだろう。

俺に出来るとしたら元に戻すことくらい。


陛下から師匠の話を聞いて考えを改めた。





「どうして初めからレンの力を使おうとしなかったのです?」


陛下に聞かれた。

答えは「師匠が嫌かなと思ったから」それだけ。

師匠は自分を怪物か何かの様に語った、大勢傷つけ大勢殺したと辛そうに。

そんな師匠の力で誰かを傷つけるのはなんか嫌で鍛えた自分の力だけで生きていこうと思ったのだが現実は上手くいかなかった。

そのせいでティオに怖い思いをさせアレウスを見殺しにしたと言っても過言ではない。

ここまで嫌というほど死の描写を見せつけられて来たというのに甘い考えが抜ききれていなかった。

あの世で例え師匠が泣くか怒り狂うかするとしても師匠の力を利用して自分の目的を果たす。


「考えを改めました。師匠は陛下を脅してでも目的を成し遂げた、だから弟子である俺は師匠の想いを踏みにじってでも自分の目的を為そうと思います、弟子は師匠に似るものですから」


「そうですね、弟子は師匠に似るものです。汚い言葉を使いつつも心の内では何を考えているのやら・・」


俺は師匠とは違う、俺はただ自分のやらかした事をどうにかして修正してこれ以上責任を感じたくないだけなのだ。

その為に人の力に頼ると決意したどうしようもない奴だ。



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