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陛下と英雄 ③

エルフェリシアの手元に現れたのは銀色の剣、柄の部分には金のラインが控えめに入れられている高貴さを出しつつも派手すぎない、汚れなど一つもなく持つ人物の美しさも加わってどこか神聖さを放っている。


「先程私を殺さなかった事、必ずや後悔させてみせます」


「じゃあ私はあなたの本気も切り伏せて屈服させる」


自身に満ちた目をしている、自分の勝利を信じて疑っていないと見える。

味方を大勢殺した相手、だというのに不謹慎ながらも心が踊る。

高みに至り敵を殺して殺して殺しまくる日々、そこにもはや命のやり取りは無く常に一方的な蹂躙ばかり、生きることに必死なら周りを警戒して余計な事など気にせずに済むのだろうがただ作業的に殺しているせいかやたらとか弱い相手の血と悲鳴が際立って届く戦場ばかりで心が疲れ果てた時に望んでいたちゃんと殺し合いが出来そうな相手に出会ってしまったのだ。

散っていった命にこの一瞬だけ許してほしいと心の中で謝罪を述べ強敵との一戦を存分に堪能することにした。


相手を試すような探り探りの戦い方は止めエルフェリシアは挑戦者として真っ向から立ち向かう。

魔法によって剣に炎を纏わせるとそれを横に一振り、炎が放射状に拡がり波の様に相手を呑み込もうとするも直前その波は真っ二つに割かれ掻き消される。

この程度?と笑を浮かべるその眼前に炎に紛れ近付いたエルフェリシアが姿を見せ剣を顔目掛けて振り下ろした。

お互いの武器と武器が激しく音を立ててぶつかり合うことで生まれる風巻き起こすほどの凄まじい衝撃をどちらの武器も受け止め主人の意のままの働きをする。


押し切ろうとするエルフェリシアと守り切ろうとする相手、唾競り合いは徐々にエルフェリシアの優勢に傾いていく、それなのに相手からは焦りの色が見えない。

一抹の不安を抱きながらも力で押し切ると決めたエルフェリシアは更なる力を加え終わらせに向かうも思い通りにならず弾き返される。

力負けした? それにしては・・・・よく分からない違和感を感じとりつつも力で勝てないなら速さでと切り替えその後も凌ぎを削り合う。

やはりおかしい。

何度も何度も打ち合い疲弊していく身体、動いているのだから当たり前にしたってこれは消費しすぎている。

地に膝をつき息を荒げ腕もだらりと垂れている、立ち上がろうにも手も足も鉛のように重く感じて動かない。


「あなたが思った以上に強かったからちょっと卑怯な真似しちゃった、ごめん」


「・・・卑怯?」


「あなたと私の武器が合わさる度にあなたから魔力を拝借してた」


理解した、今の自分の状態は魔力が尽きてしまったのだ。

魔族は膨大な魔力をその身に貯蔵している、それは常時自身の体を巡り腕や足を動かす筋力の働きを助けてくれるもはや当たり前の様に存在するもの、その補助を完全に奪われた慣れない状態に陥ったせいで手も足も上手く動かす事ができない。


「そう、ですか」


何か仕掛けがあると思っていたがまさかそんな力だったとは、思い至らなかった自分の落ち度。

まだ敵が生きてる状態で秘匿しておくべきその秘密を明かしたのは勝負は決したと判断したからだろう。

事実、エルフェリシアはもう負けを悟っていた。


「卑怯ではありません、謝罪は不要です」


持てる力を出し合いあっての結果、不満は無い。


「さぁ殺しなさい」


目を閉じその時を待つ。


首筋にピタリと冷たさが、しかし待てどもそれは振るわれず悪戯に恐怖を長続きさせている。

挙げ句の果てには「怖い?」なんて当たり前の事を聞いてくる。


「当たり前です! まだ死ぬつもりは無かったんですから」


戦場で死ぬ覚悟はずっと前から出来ていたがいざ目前に迫るとやはり恐怖は湧いてくる。


「あなたに殺された人間も私が殺した魔族もみんな最後は怖かったんだろうね」


「何か言いたいのです?」


「どっちも怖い思いしかしない争いなんてさっさと終わらした方が良いと思わない?」


「それは、思います」


「じゃああなた私の配下になりなさい」


「なっ、はぁ!?」


「あなた程の実力者が寝返ったとなれば戦意も落ちる、そうなれば諦めて降伏するかもしれない、それで争いは終わり」


「人間の勝利で、でしょう」


「まあそうなるけど・・・」


「そもそもあなたの想像通りに事が運ぶなんて思えませんがお断りします。味方を裏切るくらいなら死んだ方が良い」


エルフェリシアの答えに肩を落とし落ち込んで見せる、大きなため息と一緒に顔は一旦下を、それが元に戻ったときエルフェリシアはぞっとさせられる。

打って変わって冷たい表情はまるで別人を見ている様、そして何より恐ろしかったのは吐き出す言葉だ。


「このままだと私は魔族を根絶やしにする、それでも良いの?」


銀色の髪が風に揺れている。


それがエルフェリシアに初めて圧倒的な恐怖というものを植え付けた瞬間の光景。



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