陛下と英雄 ②
侮りがあったのはエルフェリシアも同じ、ただの少女の姿にすぎない容姿の人間が本当にそこまでの実力者なのかと。
力とは修練の積み重ねで得られるもの、つまり長い時間を生きた方が有利。人と魔族では魔族の方が長命、エルフェリシアは見た目こそ目の前の相手と変わらない歳に見えるがおよそ十倍程度の時間は多く生きている。
この差を埋められるのは装備の性能か後は天賦の才、エルフェリシアが修練によって時間を掛けて得たものを短期間で手に入れてしまう天才的な才能。
手合わせする前、この時点でエルフェリシアは前者だと判断していた。
その人物が握る武器は人間が持つには珍しいおぞましい雰囲気を纏っている。その類に強い魔族でさえ触れる気がしない嫌な何かを纏っていた。
エルフェリシアはまずその武器にどういう仕掛けがあるのか確かめることにする。
守りに意識を集中して何が来ても対応できるようにと。
数秒見合って向こうから仕掛けて来る。
凄まじい速さだが対応できないほどじゃない。横に一振りを身体を後ろに引いて避けるとビュンと空を切る音と風圧が髪を揺らした。
その後も間髪入れずに次、そしてまた次といつまでも手は止まらない。
初めは守りに徹すると決めた通りエルフェリシアはそれらを凌いでいるが想定とは違っていた。
凌ぎながらも情報を得つつ反撃に繋げるつもりだったのだが気付けば凌ぎきることでいっぱいいっぱい、これは良くないと一旦大きく後ろに飛んで距離を取るとそれも一緒について来て着地間際の避けようのない瞬間を狙われる。
恐ろしく力の込められた一撃、剣で受けようと構えるエルフェリシアに対してその守りの上から叩き潰すとでもいうような重い一撃が放たれる。
打ち込まれた瞬間ミシミシと自身の剣が悲鳴を上げているのが分かっても祈るしか出来ない、耐えきれず破壊されればエルフェリシアもそのここに来るまでに見た上半身と下半身が別れた死体の一つに加わる。
剣はどうにかその一撃を耐え切った。
しかし衝撃によってエルフェリシアが吹き飛ばされた先で命尽き折れてしまった。
「それで本気じゃないでしょ?」
エルフェリシアを殺す絶好の機会に相手は身体ではなく口を動かす。
悔しさを感じながらも今の状況は完全に自身の敗北だと認めて勝者の問い掛けに素直に答える。
「本気です、初めからあなたを殺すつもりで挑みましたから」
「嘘、あなた強いもの。そのくらいの実力者がこんな簡単に壊れるそこら辺の兵士が持つような武器しか持ってないわけない」
その通り、これは支給されたものを使っているだけだった。
しかしこれで十分だと思っていた。向こうは人間でこちらは魔族、初めからこちらが有利な状況で武器までも揃えてしまうのは気が引けてしまったエルフェリシアの性格の所為と若干の侮りがこの結果を招いたのだ。
これは素直に負けと認める。
だが負けたからと言って素直に首を差し出す程の潔さは持っていない。
まだ生きているのなら次こそはとエルフェリシアは使い慣れた武器を手にする。