第十話 とある日の出来事
ルナは毎朝6時には起きてランニングに向かいその後シャワーを浴び朝食をとる、これがルナの朝の日課。
乱れることのない規則正しい生活、時に疲れといった理由でさぼりたくなるがどうにか踏み止まり自分の定めた規則をひたすらに貫く意志の強さを磨く。
だが、この日は少しだけ違ったのだった。なぜなら、ランニングの最中あの女を見つけたのだ。
その女の名前はフレイヤ、彼女は私たちの仲間だ。
しかしルナはフレイヤに初めて会った日からなぜだか分からないが不信感を抱いていた。
それは根拠の無い不信感、これまで接点も無いはずで完全な初対面、なのに何故だかこの女は油断ならないと本能的に警戒している自分がいる。
そしてもう一つ気にかかる理由がある。
それは彼女がなぜこのパーティーに加わったのか理由が全く分からなかったからだ。
私は別に一人でも良かったがあれ(ユウタ)がどうしてもと言うからパーティーを組んであげている、しかし彼女はどうだろう、容姿端麗で戦闘においても近接も魔法もそつが無くこなす、そんな彼女を欲しがるパーティーは他にももっといるだろう。それがなぜあのバカで役に立たない奴がいるこのパーティーに入ったのか、それが理解できなかった。
気掛かりで戦闘中も視線は自然と彼女の方を向く、そうやって見ていて思った事がある。
彼女は本気でやっていない気がする。
実力を隠して周りに合わせて戦っているように見えた。
というわけで、フレイヤは得体が知れないので彼女を少し調べてみたいと考え私はフレイヤの後を見つからない様に追いかけた。
フレイヤがまず始めに向かったのは教会、そこで掃除をしていた。
掃き掃除に拭き掃除、額に汗を滲ませ手際良く済ましていく。
「ちゃんとシスターらしいことしてるんだ」
少し感心した。
教会を隅々まで綺麗にした後は喫茶店に入り軽く朝食を済ませている模様。トーストにバターそして砂糖を多く入れたコーヒー、どうやら甘党らしい。
「・・・・待てこら~~!」
突如間抜けな声が聞こえた。
聞き覚えのある声、気になり辺りを探してみたがその声の主は見つからない。朝から無駄に元気だなと呆れてまたすぐに喫茶店の方に目を向けるとそこで朝食をとっているはずのフレイヤが姿を消していた。
多分お手洗いに席を立っているんだろうと思い戻って来るのを待つ、しかしフレイヤは戻ってこなかった。
「なんでよ!?」
驚くのも仕方ない、私がフレイヤから目を離したのはせいぜい五秒程度だったのだ。
その間に会計を済まして外に出て私の視界から消える距離まで移動するなんて出来るはずない。
「どこに行ったのよ?」
思わずささやいていた。
「誰がですか~?」
背後からの声、しかもそれは私がさっきまで追っていた人物のもの。
振り返るとそこには満面の笑顔でこちらを眺めるフレイヤの姿があった。
「あんた・・何で?」
「さぁ・・なぜでしょう?」
フレイヤ尾行は失敗に終わった、彼女はいったい何者なのか、結局何も分からなかった。
同日
俺は朝6時に鍛練所に向かっていた。
先生に出会って以来、俺は体を動かし汗を流す事の素晴らしさを知り時々鍛練所に通っている。
頻繁に通っているわけではないが毎回ハードなトレーニングをこなすことにより段々と筋肉がついてきて、腹筋も少しは割れている、ムキムキマッチョメンになる日もそう遠くないだろう。
今日も鍛練所に着くやいなや、柔道着に着替え先生に「おはようございます!」と元気よく挨拶をし、朝の筋肉トレーニングを1時間程行った。
「いい汗かきましたね、先生」
「おう、じゃあ飯でも食いに行くか!」
「はい、よろこんで!」
俺と先生は汗を拭い、柔道着を着替え酒場に行くことにした。
先生と一緒にいる安心感で完全に気が緩んでいた俺は後ろから近づく影に気付かなかった。
フードをかぶった奴がサッっと俺の腰に手をやり一瞬で新調した財布袋を持ち去っていったのだ。
取られたと相手に気付かれる時点で程度が知れている、その程度の盗人さっさと捕まえて然るべき場所に突き出してやる!
「待てこら~!」
俺は鍛えた筋肉を駆使して必死に追いかけた、でも全く追いつけないどころかどんどん引き離される。
運動神経という大きな壁が立ちはだかり俺の邪魔をする。
くそっ! 俺はこの程度なのか?
半ばあきらめかけていた俺は走るのを止め立ち止まろうとしていた。
その時、負けそうな心に今再び火を灯す激励が。
「まだだ!! まだ、あきらめるな! お前ならやれるはずだ!!!」
先生の熱い声援が俺の胸に響いた。
「そうだ、まだだ、まだ終わっちゃいない! うおおおおおお!!」
走った、無我夢中で。
しかし結局追いつけなかった。
疲労でもう動くことができなくなった。そこへ、いつのまにか姿が見えなくなっていた先生が現れて奪われたはずの財布袋を差し出してくれる。
「良く頑張ったな! かっこよかったぜ!」
爽やか笑顔で握った拳の親指をピンと上に向けた。
先生はやっぱりマジカッコいいぜ! 先生に対する尊敬の念がさらに強まった。
第十話 END