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第百十四話 陛下③

剣の重さも速度も全部が自分の遥か高みをいっている。

おまけに剣を握っていない方の手からは何の前触れなく多種多様な魔法が繰り出されてくるので警戒する必要があり意識を分散させられる。

結果どちらにも中途半端な警戒しか向けられずどちらも食らう。身体中に生傷を作り膝をつく俺と対照的に陛下は汗一つ流していない、それだけ絶望的な差があった。


「いつまでお遊びを続けるつもりですか?」


俺の必死の足掻きはお遊びでしかないようだ。


「はぁはぁ・・無理です、俺じゃ、勝負にもならない」


「この程度とは期待外れ、私は過大評価していたみたいです、あなたの師匠も存外大した事ない」


「・・・」


「人の窮地に際してこの世から逃げるなどという選択を下すのも納得ですね、あなた程度の実力しか持たぬ弟子しか残せないのですから」


何も言い返せない、どんな言葉を返そうと師匠の凄さの証明には繋がらない。目の前の相手にそれを分からせるには力を見せつけるしかないのだ。

師匠を馬鹿にされ許せないと思う気持ちがあるならたとえ借り物の力であっても使って見返してやるべきだ。


「俺はまだまだかもしれない、でも師匠はそんな風に言われるような人じゃない」


「それをどう証明します?」


「決まってます、これから師匠の力を借りてあなたを倒します。俺の実力の証明にはなりませんがあなたの師匠に対する認識は絶対に変えてみせます」


そう宣言すると陛下はくすりと笑い「やってみなさい」と構えるのでこちらも抜身(ぬきみ)の師匠の刀を一旦鞘にしまう。

師匠の真似事だ、相対する時よくこうしていた。

俺の中にある師匠の魔力を眼と腕と足とに振り分けて強化、そうする事で同等の力を発揮できるようになる。

師匠の動きは記憶にある、後はそれを模倣するだけ。


「行きます」


一息で相手の懐に入り込み生半可な守りでは容易に突破し得る力で刀を振るう。

しかし相手は若干焦りを見せるもそのあとの防御は完璧、師匠の力を持った一撃でも魔法を使用していた方の手を剣に添え両手で受けるくらいの動きだけで態勢を崩す事なく受け止めてしまう。

少しくらいは崩せる、そこにさらにもう一撃などという想定が初手から駄目になり今度はこっちが焦らされる。


「多少は良くなりましたがまだまだですね」


強烈な横薙ぎ、どうにか刀で受けるも衝撃を吸収しきれず吹き飛ばされた。俺がやりたかった事をいとも容易くやり返される。

予期せぬ動きに片やすぐさまそれに対応し片や動きを止めてしまう、戦闘経験の差が如実に現れている。


「くそっ!」


悔しさを吐き出して再び仕掛ける、しかし結果はどれも同じ。

最終的には向こうは涼しい顔で地に足をつけ俺は吹き飛ばされて地に背中をつける。


「もう結構」


十数回繰り返した後陛下が剣を下ろす。

どうやら完全に呆れられたらしい、そう理解すると涙が溢れた。

悔しくて泣くなんて自分には絶対ないと思っていたがすごい泣けた。

本気で挑んだのに足元にも及ばないのはさすがにきつい、そして情けなく思う。

自分と無関係な世界を滅茶苦茶にして自分の仲間を目の前であっさり殺されて恩人の顔に泥まで塗って拭うことも出来ず今地面に転がっている。本当に情けない。

これだけ積み重なれば自分に嫌気もさす、ほんと何が出来るんだろう?と疑問を抱いてしまうくらいには自己評価は地の底まで落ちた。

リアや陛下の手前、無様に泣き顔を晒すのが嫌で隠すように目を覆い、すすり泣く音も出来るだけ抑えるよう努力していると声をかけられた。


「よく頑張りました」


陛下の声、しかし今までと違い優しい声。


「違う・・違うんです・・師匠は、もっと・・・」


「ええ、分かってます。彼女の強さはよく知っています」


「え?」


「あなたの本気を引き出したくて言っただけの嘘です」


そう言って手を差し伸べてくれる。




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