第百十三話 陛下②
凛々しくもあるがそれ以上に可憐、戦いとかいう言葉の対極にあるような人がとんでもない強者だとリアは言うがどうしたってそうは見えない。
いや、戦いと言ってもただ武器を振るい相手を打ち倒す事だけじゃない、知を用いて策略によって名を馳せる人物だっている。
おそらく陛下は相当な切れ者という事なのだろう。
「その昔、数百の魔族とやりあってたった一人で全てを返り討ちにしその見た目も相まってついた異名は聖女」
どうやら違ったらしい。
「やめて下さい、私はそのように呼ばれる身ではありません。魔に属する者が聖女などと身分不相応甚だしい」
「魔に属する?」
「ええ、私は魔族です、ですがリアと同じ人の側についた魔族、あなた方人間の敵ではありません御安心を」
リアとはそういうつながりか。
魔族なら表で一番強いと言われても納得できる、そんな方が味方でいてくれるならあの姫様達もどうにか出来るじゃないか。
今すぐにでも助けを請おうと期待の表情で口を開こうとしたところで俺の言わんとする事を先読みした陛下に告げられる。
「残念ながら私ではあの方達を止める事はできません」
「理由を聞いても?」
「単純に力が及ばないからです。彼女達の居城は高密な魔力による結界で守られていて私では突破する事が叶わない。出来るとすればレンフィーリスくらいなのですが彼女はもう居ないのでしょう?」
陛下の口から師匠の名が、それにもう居ないという事まで知っている。
「どうしてそれを!?」
「彼女の様子を時々確認しに行ってましたからね。その時、貴方の存在を知りました」
俺は出会っていない、一体いつの間に?
そんな疑問が見て取れたのだろう。
「気配を消して遠くから見ていただけでしたから。気付かれないように」
陛下が手をかざすと何も無い空間から女騎士との一件で行方知れずになっていた師匠の刀が、どうやらリアが俺と一緒に宙を舞っていたのでついでに口に含んで持って来て渡したらしい。
「彼女の最後の瞬間を見ていたわけではありませんが今これを貴方が所有してこちら側にいる、という事はつまり彼女はもう消えてしまった。そして彼女に終わりをもたらしたのが貴方」
突如空気が変わった。
暖かかったのが一瞬で凍り付く、陛下の言葉の最後はそんな恐ろしい冷たさを孕んでいる。
それはいつもふざけた様にしているリアにも作用し身震いを誘発させる。
「ど、どうしたのじゃいきなり!?」
変化に戸惑うリアには何も答えず陛下は俺に刀を投げて寄越す。
「それを使って私の相手をしなさい。お互い一切の手加減抜きで」
それからさらに「持てる力全てを出してですよ」と念押しするように付け加える。
全て見透かされている、そんな気がした。