第百七話 要塞と化した街
「なあ、本当について来るつもり?」
後ろを歩く男に聞くと彼は何の事だかさっぱりとでも言うような顔でさらりと答える。
「はて? 俺の行く先にお前がいるだけで付いて行ってるつもりはないぜ」
とのことだが足を止めれば向こうも止まるしどう考えても跡をつけてるとしか思えない。
フレイヤさんは結界の意地があるので村に残ってくれたがアレウスは違った。
力づくで追い返すなんて事出来ないしどうすることも出来ずに結局俺達は辿り着いてしまった。
「ここがハルピュイアってとこか? こりゃなかなか・・・」
豪胆なアレウスの声が若干弱々しい、それだけのものが目の前に広がっている。
見上げれば首が痛くなるくらいの高さの城壁がそびえ立ち大きな鉄の門、ネズミ一匹侵入するのも難しそう。
元々城壁自体はあっったのだがここまでの高さはなかった、門だって明らかに補強され強固さを増している。
そして一番の変化はこのバカ高い城壁を持ってしても隠せていない城の存在。
夜の闇に抗うように灯りで照らされた白い城、その周りには光に群がる虫の様に羽の生えたドラゴン的な生物が多く徘徊している。
「うーん・・」
想像以上の光景に頭を抱える、まず入るところから行き詰まるとは思っていなかった。
門なんて俺があそこにいた時は常に開いて代わりに見張りが数人居たくらい、どうにかすれば入れると甘い考えでいた、それにもしそっちが無理そうなら壁を登って侵入してやろうとちゃんと策?はあったのだ。
「黙って引き返すのも漢だぜ」
アレウスはとっくに諦めモードだ。朝まで待つという手もあるが外からちょっと見える場所だけでもここまでの魔改造が為されているなら内部もとんでもなく変わっていそうだ。
右往左往して取り囲まれて殺される未来が見える。
「戦略的撤退」
こうして俺達は逃げ帰る事に決めたのだがその時突然動きがあった。
轟音を立てながらゆっくりと門が開かれていく。
すかさずその隙間から中の様子を覗いてみるとやはり俺が知っている光景ではない。
人が何人も地面に倒れその人達を別の人が街の外へと放り出す、要するに人間の死体を人間が捨てている場面なのだろう。
ここまでの状態だとは、さすがに言葉を失う。
全部の死体を捨て終わったら再び門が閉じていく、俺もアレウスもそれを黙って見ているだけ、さっきの光景だけで中のヤバさは十分に伝わった。
あの中では人間の命は恐ろしく軽い、下手な事をすれば見せしめか人質かで俺たちだけの問題では済みそうにないと理解して動けなかった。
「戻ろう」
力なく言って目的地だったはずの場所に背を向けるもアレウスは門の方を見たまま動かない。
何かあるのかと思い同じ場所に目を向ける、すると死体の山に動きがある。
うねうねと死体をかき分け山の中から出てきたのは生きている人間だ。
死んだふりでもしていたのだろうその人物は作戦がうまく行った事に笑みを作り残った体力を振り絞り懸命に走るも足元がおぼつかず転んでしまう。
せめてあの人だけでも助けに行こうとすると「止めろ」とアレウスに止められた。もう手遅れだと。
その言葉の後すぐ、生きていた人の身体は空から飛来した生物の鋭い牙に貫かれ口の中へと消えて行った。
そしてその後更に集まってきたそいつらに死体の山も綺麗に片付けられた。